前期末卒業式

2008年9月12日 17:00

 今日は前期末卒業の9名の卒業式を挙行しました。3月末の千名の卒業式に比べるとささやかな式でした。しかし、9名それぞれ感慨深いものをもってこの日を迎えたことでしょう。以下は私からのお祝いの言葉として話したものです。人一倍苦労されたことでしょう。心からおめでとうと申し上げました。


遅れたことの意味
ご卒業おめでとうございます。保護者の皆様にはご子息のご卒業に対し心からお喜び申し上げます。
皆さんは、3月卒業した仲間より余計に学んだから遅れたのでしょうか。あるいは学び方が足りなかったから遅れたのでしょうか。いずれにしろ、当初の予定とは異なって、少なくとも半年、時間的に遅れて卒業したということは事実です。
お盆休みの時のことですが、中央西線で長野県に向かう途中、木曽福島という駅で私の乗った特急が2時間半ほど立ち往生しました。なんでも連日の豪雨の影響で線路脇の立ち木が倒れ、架線にひっかかったということでした。昨年もこの時期に新幹線で上京中、台風の影響で浜松駅で大幅に遅れた経験をしております。私は、こういうこともあろうかと、出かけるときは数冊の小説と超難問レベルのナンプレ(数独)集を持ち歩いています。そういうことで、昨年もそうでしたが、買い込んだビールを片手に時間はいっこうに気になりませんでした。
とは言え、後ろの座席の人が「こういうことならひと電車早いのにすればよかった」と言っているのを聞いて、「そうすればよかったかな」と私も思いました。その日はワクワクものづくり大作戦が開催された日だったのですが、私の役は開会の挨拶だけでしたからひと電車早く乗ることもできたからです。ただ後ろの座席では、「だけど、ひと電車早く乗っていたら、倒木にぶつかっていたかもよ」、「それもそうね」と会話が続いていました。
当初の予定を変更せざるを得ない場面に遭遇するたびに思い出すことがあります。広島湾に似島という小さな島があります。その形から安芸小富士と呼ばれています。そこに似島学園という養護施設があります。広島に来て間もないころでしたが、この学園について書かれた新聞記事を読んだことがあります。
30年以上も前のことで、記憶が間違っているかも知れませんが、終戦直前の話です。当時県庁の人事担当をしていた森さんという方が、広島県の東京事務所に転勤する人事を進めていました。昭和20年の5月といえば東京大空襲の時期です。誰も行きたがりませんでした。森さんは、困って当初の計画を変更し、結局自ら赴任しました。その後8月広島でどのようなことが起きたかは、皆さんが知っているとおりです。県庁に残った人たちの多くは原爆で亡くなりました。
終戦後、森さんは、自分が生き残ったことに何か意味があると感じました。そして原爆で親を亡くした子供たちを引き取って育てるための施設を作るのですが、それが、今の似島学園です。
皆さんも4年で卒業するという当初の計画と異なる結果になりました。「遅れる」ということは、多くの場合、よくないことを意味します。しかし、遅れたことによって、倒木に遭わずにすんだのかも知れません。あるいは、当初の計画とは異なる「遅れ」の中に、森さんのように何か意味があるのかも知れません。
先々週だったでしょうか、「NHK短歌」というテレビ番組でこういう短歌が入選しておりました。
『雑草の 根っこがしんしんと 伸びてきて 
誰かの根っこと いつかつながり』
内容は読んでのとおりですが、選者は「しんしんと」という表現がいいと評価していました。私もいい表現だと思いました。「しんしん」には、「静かにしんしんと」という雰囲気や「深く深く」といった意味あいや、さらには力強さも感じられます。雪国に育った私にはしんしんと雪が降る光景が浮かびます。何か秘かな強い決意みたいなものも感じられます。いずれにしろ、根が静かに深くしっかりと張るということです。そうすると、最初は一つの根であっても「誰かの根っこといつかつながる」というのです。
皆さんにもひるむことなく「しんしん」と根を伸ばして欲しいと思います。皆さんにとっての「誰かの根っこ」とは、3月に卒業した千名のことかも知れません。あるいは、森さんが感じたような、遅れなかった人には出会うことのできない「遅れたことの意味」かも知れません。
人生には100%無駄なことというものはないと思います。「常に神とともに歩み社会に奉仕する」という本学の教育方針を忘れないで、「しんしん」と根を伸ばし、「誰かの根っこ」にいつかつながってくれることを願ってお祝いの言葉とさせていただきます。                             (2008.9.12)

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