岩井 哲

いわい さとし

岩井 哲 Satoshi Iwai

工学部 建築工学科 教授
出身:大阪府 (大阪府立茨木高等学校)
s.iwai.i5@it-hiroshima.ac.jp

地震を防ぐことはできない。大切なのは『被害を最小限に抑える準備』だ

テレビを見てると、速報が流れる。あ、また地震発生のニュースだ...。最近、こういうニュース速報は珍しいものでなくなりました。世界に目を向けると、マグニチュード8クラスの大地震も起こっています。もし明日、身近な所で地震が起こったら、あなたはどうしますか?きちんと備えはできていますか? 「地震を防ぐことは、誰にもできません。でも被害を防ぐ努力は、誰にでもできます」そう語る岩井先生は、地震被害を最小限に抑えるための耐震問題に取り組んでいます。

短い軸組斜材を使用した耐震改修のための木造壁体載荷実験

6400人以上の命が奪われた原因の8~9割は、木造住宅の倒壊

私が木造の耐震研究に力を入れるきっかけとなったのは、1995年1月に起こった阪神・淡路大震災でした。その頃、大阪に住んでいた私は、地震発生当日から被害状況を調査。想像を超える被害の大きさに、衝撃を受けたことを覚えています。
阪神・淡路大震災では6400人以上の命が奪われました。その8~9割は、木造住宅の倒壊によるものだったのです。当時、大学の研究で、木造住宅はあまり取り上げられることのなかった分野です。コンクリート構造や鉄骨構造の建物はよく研究もされ、耐震基準なども厳しく定められていたのですが。木造の耐震評価はあいまいなまま、多くの人命が失われてしまったわけです。防災の研究に関わっていた者として、私は深く後悔しました。
それから、木造建築の耐震性に主眼を置いて研究を始めました。おかげで、どういう木造建築はどの程度の地震に弱いか、だいぶ分かってきました。さらに耐震性を少しでも上げるための方策も見えてきたんです。

筋かいを入れ、金具で補強。これだけでも被害の確率は減る

狭い土地に建つ住宅は、玄関などの出入口がある方向に壁を多く作れません。しかし壁が少ないと、当然地震にも弱くなります。そこでどう構造を補強してやれば良いか、と考えていきます。
柱と柱の間に、斜めに筋かいを入れると強くなります。柱と梁の接合部を金具で補強すると、もっと耐震性は向上します。他にも壁の配置を考えて建物全体のバランスを良くするとか、壁を強い素材に変えるなど、様々な方法があります。これらを用いると、木造住宅でも地震で倒壊する可能性はぐんと少なくなります。
大切なのは、自分の住宅がどんな状態なのか、事前に知っておくことです。設計図面があれば、ある程度の耐震診断ができます。住宅をリフォームする時に壁を一部はがせば、建物の強さはより詳細に分かります。
ゼミの学生には、図面から実際にある住宅の骨組模型を作り、さらに筋かいを入れ、金具で補強すると耐震性はこれだけ向上する、と研究した者もいます。模型を見ると「これだけの工夫で倒壊の被害を抑えられるんだ」ということが実感できます。

筋かいで耐震補強した木造軸模型
(学生が卒業研究で提出したもの)

「地震被害想定調査」に協力し、地域住民に注意を促す

これらに加え、地震がその地域にどういった被害をもたらすか事前に予測する地理情報システムの構築にも取り組んでいます。コンピュータで地図を扱う研究調査です。
丘陵地の宅地造成によって生まれた街は、もともと山や谷であった場所です。山の土を削り(切土)、谷を土で埋めて平坦な土地を作り(盛土)、その上に住宅を建てています。広島県内のいくつかの地域で、どんな切り盛り造成が行われたかという情報と、2001年の芸予地震時にどこでどんな被害があったかという情報を重ね合わせてみたら関連性は明確でした。地盤が「盛土」の住宅に地震被害が集中していたんです。
こうした研究を踏まえて学識経験者として、自治体に協力し、県や市の「地震被害想定調査」に関わりました。地盤の状態や断層を調べ、自分の住む土地が地震に弱いと分かったら、家具を金具で壁に留めて固定したり、耐震診断を実施して問題があれば建物を補強したり、と事前準備もできるでしょう。
地理情報システムの活用や木造耐震の研究を深め、地震被害を最小限に食い止める知恵を、今後も生み出していきたいと思います。

廿日市市の住宅地における切土(青~緑)と盛土(黄~赤)の分類と2001年芸予地震による住宅の瓦屋根被害の関連。盛土上で被害が多くでていることがわかる。

ゼミ取材 こぼれ話
現在、地理情報システム学会の中国支部長でもある岩井先生。その活動の一環として、先生は「地理情報システムを活用した “被爆の痕跡”のデジタル地図作成」による平和教育にも毎年取り組んでいます。小学生から大学生までの子供たちに集まってもらい、グループに分かれて地区を探索。被爆した建物や橋、樹木などを探し当て、その写真や記録をパソコンに入力して、デジタル地図を作成するのです。「被爆建物を見ると、爆心地からこれだけ離れた場所で、こんな被害があったのか...が実感できます。子供たちが原爆とは何かを知る、よいきっかけになっていますね」。8月という暑い時期の開催にも関わらず、毎年、多くの子供たちが集まり、まる一日かけて被爆状況を追体験しています。