中西 伸介

なかにし しんすけ

中西 伸介 Shinsuke Nakanishi

工学部 建築工学科 准教授
出身:兵庫県神戸市(兵庫県立兵庫高等学校)
s.nakanishi.9a@it-hiroshima.ac.jp

自動車の車内などスペースに限りのある空間で、効果的に「騒音を消す」には?

自分の部屋に入り、さあ心静かに勉強を始めよう!と机に向かうあなたを妨害する、周囲の騒音。通りを走る車の音、歩道ではしゃぐ人々の声、隣の部屋から漏れるテレビ音...。騒音は勉強や仕事の邪魔になるし、睡眠だって十分にとれません。快適な環境を生み出すには、騒音をできるだけ防ぐための工夫が欠かせません。そうした建築音響学の分野で、長年研究を続けているのが中西先生。先生は、空間的にゆとりがなく、騒音を防ぐ手立てが少ない状況でも活用できる吸音ツールを開発しています。

自動車の車内のような狭いスペースで、効果的に吸音するには?

騒音を防ぐには、外部から音を入れない「遮音」をしっかり行うことが第一です。しかし、それでも防ぎきれず侵入する音があります。これらの騒音はどう対処するか。音とはつまり空気の振動なので、室内の壁にぶつけて振動のエネルギーを吸収すればいいわけです。
例えば学校の音楽室の壁には、無数の孔を開けた「孔あき板」が貼ってあります。表面の孔(こう)と背後の空気層による共鳴によって音を吸収する吸音材として働くのです。ただし孔あき板の場合、吸音するために必要な空気層が大きくなるので、音楽室のような隣室との空間が確保できる場所でなければ、十分な効果が得られません。
しかし、中には「壁は厚くできないけれども、吸音しなければいけない」という場合もあります。自動車の車内はその代表と言っていいでしょう。自動車の場合、壁に相当するのはドアですが、ドアが厚くなり過ぎると車内空間を圧迫したり、デザイン性や機能性を損なってしまいます。一方、耳障りな自動車の走行音は、できるだけ防がなければなりません。
さてどうするか。私は一つのアイデアを思いつきました。

吸音に必要な"厚み"を、"経路の折り畳み"によって確保。

写真Aを見てください。これは、1辺1.8mmの正方形という小さな孔の開いた孔あき板です。ただし、音楽室に用いる板と異なり、背後に厚い空気層を必要としません。
写真Bを見てください。指先に乗った白い正方形は、この孔あき板を構成するパーツです。孔あき板の孔一つずつに、このパーツがはめこまれているのです。そしてよく見ると、パーツ内にクネクネと経路が走っているのが確認できますか?経路の長さは40mm程度です。1.8mmの正方形の孔から入った音によって、この40mmほどになる経路の空気が前後に振動します。そして経路の内壁による摩擦で振動のエネルギーが奪われ、吸音効果をもたらすのです。
ちなみに、折り畳まれた経路を直線状に伸ばすと、写真Cの右の形になります。本来、これだけの厚みを要するはずの吸音構造を、経路を折り畳むという工夫によって、写真C左のように限りなく薄くしたわけです。ここまで薄くなれば、自動車のドアの吸音材として採用できるでしょう。
孔の大きさや経路の長さ、経路を折り畳む回数を変えれば、「この周波数の音を選択的に消したい」といった要望に応えられます。形状も自在で、この試作品は正方形ですが、細長くも丸くもできます。組み込まれる場所に応じた形が可能なのです。

写真A。左手に持ったフタを開けると、細かな孔がいくつも開いた特製の「孔あき板」が出て来る。

写真B。孔あき板を構成するパーツ。孔から入った音は、折り畳まれて迷路のようになった経路を進むうち、エネルギーを奪われる。

写真C。経路を折り畳んだ状態が左の形。その経路を伸ばしてみると、右の形になる。本来は右のような厚みが必要だが、折り畳むことで薄さを実現した。

実験と検証を重ね、自動車を始め多彩な分野への展開を図りたい。

孔の大きさや経路の長さ、経路を曲げる回数などを変えて組み合わせた場合、もたらされる効果がどう変わるか、まだまだ検証が必要です。そうした積み重ねがあって、要望に合わせた吸音材を生み出すことができるのです。
現状わかっている課題は「経路を曲げる回数を増やすと、高い方の周波数がずれてしまう」ということ。音が経路内の曲がり角を曲がる時、遠心力で音が外側に押し付けられ、反動で音のスピードが速まります。そうやって速まったままの状態が続くと、狙った周波数がずれてしまうのです。経路80mmで実験したのですが、曲がり角が4つ、5つになるとずれ始め、8回曲がると20%以上のずれになるようです。しかしこれは解決可能です。曲がり角の数と直線の長さと周波数のずれには相関性があるので、相関性を折り込んだ上で周波数を設定すれば良いのです。
現在は自動車の車内空間をイメージしていますが、用途はそこにとどまらないと思います。他の製品にも生かすことができるでしょうし、あるいは一般建築物にスケールアップさせても応用できるはず。さまざまな可能性を視野に入れ、研究を深めたいと思います。

ゼミ取材 こぼれ話
音の通過経路を折り畳むことで薄くする。このアイデアが生まれるもとになったのが"折れ曲がりストロー"なのだそうです。「折れ曲がりストローを使って吸音材の経路の研究をした方がいらっしゃったんです。しかしそれはいわゆるストローで、経路の太さも5mmくらいあった。でも空気は別に真っ直ぐでなくても流れるのだから、もっと極端に曲げてもいい、いっそ直角にしてみようと思ったんです」。経路は細ければ細いほど、また孔の数も多いほど吸音効果は高まります。そうやって、1.8mmまで小さくすることができた、とのこと。さまざまな分野でこの吸音材が活用されるようになることを目指し、先生は研究を続けています。