今まで26度に設定していた冷房時の室温を28度に上げた場合、仮に5%の省エネ効果があったとします。この数字だけ見ると「冷房時の室温を28度にすると地球に優しい」とするスローガンは、正しく感じます。しかし、ちょっと待ってください。室温を上げたために快適性が落ち、作業効率が10%ダウンしたとしたらどうでしょう? 会社だったら、ダウン分を取り戻すため、その日は残業になるかもしれませんね。もちろん、残業の間も冷房はつけっぱなし。必然的に電気の消費量は増えるでしょう。果たしてこれは本当にエコでしょうか?
私はそうした、室内環境と知的生産性の関係について研究しています。環境が変わると、知的生産性も変化します。26度だったら8時間で終わった作業が、28度になった途端10時間かかるのでは、省エネへの貢献にはなりません。「28度設定」が無意味だと言うつもりはありませんが、知的生産性にどういった影響を及ぼすのか考慮せずに数字だけ設定しても、効果は上がりません。
28度設定は、誰にとっても正しい答えか?という点も重要。男性と女性では、快適に感じる温度が異なります。人によっても違うでしょう。温度だけではありません。湿度はどうでしょう? やはり人によって差があるはず。
地球のために、無闇な資源浪費は避けるべき。だからこそ、知的生産性・快適性を全く考慮せず、一律に線を引くやり方には疑問を覚えるのです。
最近の建物はずいぶん賢くなっています。室内の酸素濃度(CO2濃度)を測り、酸素濃度が高くなったら外気を取り入れて濃度を下げ、逆に下がったら外気をしぼって冷暖房効率を上げる、ということを自動で行う冷暖房システムもあります。窓から陽射しが入ると自動感知してブラインドでさえぎり、室温の上昇を防ぐシステムなども登場しました。こうしたインテリジェントな建物が機能を十分に発揮するには、快適性と知的生産性の関係を明らかにしておく必要があります。
どういう環境でどれほど効率が上がるかを実証するのは、容易ではありません。いずれも人間が関わることなので、評価が難しいんです。しかし、ここを追究しないと、真の意味で環境に優しいやり方は構築できません。
その他の課題として『ビジネス・コンティニュイティー・プラン(BCP:事業継続計画)』に関するものがあります。BCPとは簡単に言うと、企業が事故やトラブルに巻き込まれても、最低限、事業を継続できるようにしておくこと。
例えば工場が地震などにより壊滅してしまった場合、「もう物が作れません」では、企業は倒産の危機に直面してしまいます。工場設備を複数の箇所に分散させたり、最低限の生産品の在庫を持っておけば、そういう場合でも事業を止めずにすみます。つまり、バックアップの仕組みを作っておこうというわけです。
学生には、この考え方を一企業ではなく、都市にあてはめたらどうなるか、という研究にチャレンジしてもらいました。東京などの大都市は、既にBCPを準備しています。しかし地方都市は、まだ無防備な状態。もし事故・災害が発生した場合、どのような備えが必要か、実態を調査して検証してもらったのです。
『室内環境と知的生産性』も『BCP』も共に、より良い都市環境づくりという点で共通しています。地球にも優しく、人々にとっても快適。そんな持続可能で豊かな都市づくりに貢献していきたいですね。
ゼミ取材 こぼれ話
空調設備関係の会社で、主に空調設計を担当して32年。時には原子力発電所の空調関係に関わった経験を持つ首藤先生。こうした経験を出発点に、都市環境の研究に携わるようになった、とのこと。都市環境に関わる現場を実際にたくさん見てきただけに、知識も豊富です。「例えば、一様に『空調』と言っても、状況は様々。家庭用空調は、家庭の電力消費量の中で8%を占める程度ですが、オフィス空調となると30%以上にはね上がります。それぞれに応じたやり方を考えないと、快適性が損なわれるし、エコにもつながりません」そんな先生がライフワークに据えるのは『ヒートアイランド現象』に関する研究。先生は、より良い都市環境を構築しようという意欲に溢れているのです。