高松 隆夫

たかまつ たかお

高松 隆夫 Takao Takamatsu

工学部 建築工学科 教授
出身:広島県 (私立修道高校)
takamatu@cc.it-hiroshima.ac.jp

従来素材に一工夫を加えた、新たな部材を発明

建物は柱と梁で組み立てられています。耐震性を高めるため、柱と梁の結合部に、斜めに細い部材を入れるのですが、これをブレース(筋交い)と呼びます。
ブレースがしっかりしていれば、少々強い地震があっても、建物が壊れることはありません。しかし揺れに襲われることで、ブレースは徐々にくたびれてきます。その代表例が『座屈』と言われる現象。これはブレースを曲げようとする力で、限界を超えると、ブレースは十分な性能を発揮できなくなります。逆に、ブレースには引っ張ろうとする力もかかります。引っ張られるとブレースは塑性変形を起こします。それで建物が倒れたりはしませんが、塑性変形で伸び切ったブレースはもう揺れを防ぐことはできないので、取り替える必要があります。
そこで私は、『ノンコンプレッションブレース』という新たな部材を発明しました。と言っても、従来と異なる強い素材を使ったのではありません。素材は従来のブレースと全く同じ。ただ、ブレースと柱との接合部に一工夫を加えたのです。

くさびの特徴を応用。圧縮力にも引張力にも強い

簡単に言えば、ブレースと柱の間にスプリングでつないだくさびを打ち込むのです。ブレースを曲げようという圧縮力がかかっても、ブレースと柱が直結されているわけではないためブレースは逃げることができ、圧縮力はかかりません。ブレースが逃げた隙間には、くさびがすぐ入り込むので、ブレースを引っ張ろうとする力に対しては抵抗を保ち続けます。圧縮力にも引張力にも負けないブレースになるわけです。
従来型のブレースだと、強い地震が1度起こったら、もう取り替えないといけないケースもあります。しかし余震が何度も発生するような状況の中で、ブレースの取替などできないため、多くの人がグラグラ揺れる建物の中で不安を抱えながら過ごさないといけなくなります。同じ強度を長く保ち続けるノンコンプレッションブレースを使えばそうした心配はなくなるでしょう。
座屈に対する抵抗を高めた座屈拘束ブレースもありますが、細い鉄筋の周りをコンクリートや鉄板で支えているため太くなり、使用できる箇所が制限されます。しかしノンコンプレッションブレースは細い鉄筋をそのまま用いるので、こうした点も問題ありません。

ノンコンプレッションブレース。黄色のくさびに特徴あり。

  • ノンコンプレションブレースの耐震性能

補強技術の進化は、人々を豊かにするし、エコにも貢献する

私が考えているのは、学校の体育館や公民館への導入です。これらの施設は地震発生時、人々の避難場所として使用されます。しかし避難場所が余震でグラグラ揺れては、みんなそこで安心して過ごせませんから。既にいくつかの学校の体育館では、ノンコンプレッションブレースを導入してもらっています。
学生たちと一緒に、新たな部材も研究しています。例えば、ノンコンプレッションブレースをねじってつけてみるとどうなるだろう、とか。実験体を作り、振動台で揺れを与えてみると、面白い特性が見えてきました。ノンコンプレッションブレースをどう利用すれば、どんな特性を発揮させられるのか?と、学生たちも意欲的に研究していますね。全く新しい発明で、取り組むテーマがたくさんあるから、興味を持って進められるようです。
ブレースは、建物を補強する部材です。補強技術が発達すれば、耐震性を高めるため、という理由で古い建物を壊したりしなくてよくなります。今ある建物をそのまま利用できるため、余分なお金や資源の消費もありません。そういう意味で、人々を豊かにするし、エコにも貢献できるのが補強技術。まさに今の日本に不可欠の技術と言えるでしょう。

ノンコンプレッションブレースを使用した部材に地震のような揺れを与え、強度を見る。

ゼミ取材 こぼれ話
ノンコンプレッションブレースの中核は、くさびとスプリングを利用した結合部を造る、という点。この技術、もともとは高松先生が、柱を土台にとめるアンカーボルトに応用できないか?と考え出したもの。「地震などの強い力がかかると、アンカーボルトが伸びてしまいます。ここにくさびをかましておけば、ボルトが伸びても揺れに耐えられるのではないか、と」。その後、ノンコンプレッションブレースの研究に力を入れるようになりましたが、一段落したらアンカーボルトにも役立てていきたい、と先生は考えています。「新たな材料の登場を待つより、新たな技術で今ある素材の可能性を高める方が、はるかに実現性が高い。そうした研究を進めていきたいと思います」。