ふたがみ たねひろ
二神 種弘 Tanehiro Futagami
工学部 都市デザイン工学科
教授
出身:愛媛県(愛媛県立松山北高等学校)
t.futagami.w7@it-hiroshima.ac.jp
土木技術者の役割は、橋を造ったり河川をきれいにしたり、街を造るための地盤整備を行なうことなど。なぜ微生物を知る必要があるのか?と思う人もいるでしょう。しかし例えば微生物の中には、コンクリートの隙間で繁殖し、虫歯菌が歯をボロボロに蝕むように、コンクリートをボロボロするものがいます。土木技術者にとってコンクリートは馴染みの深い建材。その建材を使って長く安全な設備を造るには、どういう条件下で微生物がコンクリートに繁殖するのか、逆に言うとどこに注意すれば微生物の繁殖を抑えることができるか、知っておく必要があります。
微生物の増殖に最も欠かせないのは、栄養分・水分・温度です。コンクリートの劣化を防ぐには、この3つの要素をできるかぎり抑えるよう工夫すれば良いのです。そうすればコンクリートは頑丈さを長く保ち、維持のためのムダな手間やエネルギーもかかりません。
その一方、微生物は、処理の難しい猛毒のダイオキシンを分解してくれたりもします。それを知っていれば、土木技術者が産業廃棄物処理施設の建設を手がける際、微生物の力を借りて、環境に負荷をかけない処理施設を造ることもできるではないですか。
あらゆる産業分野で「環境保全」が重要なテーマとなっている時代。そのために、日本の土木技術者はもっと、微生物をはじめ、生物学・生態学のことを知るべきです。
国際生態水理学シンポジウム(2009、チリ国)
微生物は環境浄化にも貢献してくれます。上下水の浄化には早くから微生物の働きを利用していましたが、それだけではありません。ダイオキシンを分解するものもいるし、土壌の増えすぎた塩分を分解するものもいる。そういう微生物をうまく活用すれば、コストも安く、地球にも優しい形での環境保全ができるのです。
環境先進国のドイツでは、半世紀前から工学部で生物・生態学を重要科目として教えています。生態系を活かした、自然に近いものを造る工法(近自然工法)も進んでいます。アメリカの主要な理工科系大学でも同様です。
一方、日本はそうではありませんでした。しかし、微生物の力を活かす道を見出す方が、結局は合理的な環境保全につながる...と人々が気づき始めています。多くの場面でバイオレメディエーション(微生物を用いた環境修復)の発想が取り入れられているのです。
微生物による塩分のバイオレメディエーション(③の発酵糠(微生物入り)の生育が一番良い)
よく肥えた、わずか1gの土の中に住む微生物の数は、数十億とも言われます。しかも現在発見されているだけで、です。中にはナノサイズの極小の微生物もいるので、今後新たに発見される微生物も、おそらくいるでしょう。その中で、働きがつかめている微生物は、ホンの1~2%程度。土中に生息する大半の微生物について、まだわかっていないことの方が圧倒的に多いのです。
東京や大阪などの大都市に比べれば、広島は自然に恵まれています。ちょっと足を運ぶだけで自然に触れられるのが、大都市にない地方都市の特徴です。微生物を対象とする研究者にとって、自然に恵まれた地方都市にいることはむしろメリットなのです。その微生物が、環境保全のカギを握る存在。この価値を地方から発信することこそ、地方で学ぶ者の使命ではないでしょうか。そう考え、私は微生物に取り組んでいます。
「土木の基本技術を大切にした築土構木としての従来の土木」に加え、「生物・生態学も大切にした生態系としての新しい土木」も身につけた、経世済民のためのシビルエンジニア(民衆のために生きる土木技術者)をどんどん育てていきたいですね。シビルエンジニアは、社会資本(土木構造物)と地球生態系の創造者でありお医者さんでもあるので、多くの人に役立つ仕事ができます。このことに誇りを持ち、地元をはじめ世界に貢献するために努力してほしいと思います。
経世済民のシビルエンジニアを育てたい
ゼミ取材 こぼれ話
肉眼で確認できないほど小さな存在でありながら、人間には到底不可能な、大きな働きをする微生物たち。しかも、環境が悪化しても胞子の状態で生き残るしたたかさも持ち合わせています。そんな微生物のけなげな知恵を二神先生は“菌魂(きんこん)”と呼び、敬意を払って見つめています。「地球が誕生して46億年と言われますが、38 億年前にはもう最初の微生物が誕生していました。この微生物が様々に分化し、ある種が人間になったのです。言わば微生物と人間も、元をたどれば同じ祖先を持つ仲間。私たちは"菌魂"を持った仲間のことを、もっと知る必要がある。それは私たち自身の未来のためでもあるのです」と、先生は静かに語ります。
走査型電子顕微鏡
(広島工業大学生物環境分析システム室設置)
珪藻の走査型電子顕微鏡写真
(観察倍率6,000倍)
腐葉土中の網状球菌の走査型電子顕微鏡写真
(観察倍率10,000倍)