うえしま ひでき
上嶋 英機 Hideki Ueshima
工学部 都市デザイン工学科 教授
私のゼミでは、フィールドワークを重要視しています。と言うのも、私たちの研究対象は「自然環境」だからです。直に自然に触れて環境の変化を感じ取ること、つまり現場から学ぶのが何よりも大切だと考えています。
私自身は環境工学の専門家として、長年にわたり「瀬戸内海国立公園」の環境問題に取り組んできました。海を研究対象にしている、というと「水をきれいにする」ことばかりに関心がいきがちですが、それだけではまだ不十分。「たくさんの魚、水棲動物、植物が存在している」こと、つまり動植物の多様性の維持も同じくらい重要です。この2つが達成されて初めて、海の環境問題は解決に向かうのです。
「自然を守る」には、3つの段階があります。第1が、環境の診断・評価。第2が、環境の修復・再生。第3が、その環境の保全です。人間も病気になったら、まず診断してもらい、次に治療し、回復したら健康を維持しようと努力するでしょう。環境も同じこと。健康を維持するには、正しいプロセスを踏む必要があるのです。
学生には、瀬戸内海国立公園の中にある地域や島を割り当て、実際にそこを診断させます。例えば、潮の満ちひきによって、海になったり陸になったりする場所があります。ここには豊かな栄養があるため、生物活動が盛んな場で、さまざまな生物が生息しています。生物の種類が増えていれば、環境が良くなっていると診断できるのです。
ゼミでは、いきなり瀬戸内海に挑戦させるのではなく、まず広島市を流れる川で経験を積んでもらいます。河原に湾処(わんど)と呼ばれる小さな湾を作り、そこに集まってくる昆虫や魚、鳥を観察したりするわけです。
面白いですよ。今まで見過ごしていただけの川に改めて注目してみると、実に多くの生物が暮らしている、と気づく。草が生えると虫がやってきて、虫を捕食する魚や鳥が集まってくる。川の多様性に驚く学生は少なくありません。そして、ホタルや川魚が生息する、昔ながらの川に戻したい、戻すにはどうしたらいいのかと、考えるようになるんです。
川を知れば、水が流れる先にある海のことも分かります。また、水の源である森や山にも関心が向きます。海を守るには、山を守らなければ、と実感し始めるのです。
学生たちには、私から学んだことを活かし、いずれは環境にかかわる仕事に就いてもらいたいと期待しています。実際、卒業生の中には、樹木の診断・再生を担う樹医になった者もいますよ。今や環境問題は、世界的に重要視されています。その中で今後、発展が期待される職種としてとらえ、私は環境修復技術を活かしたビジネスや産業を作り上げていくつもりです。そのためには専門的な知識を持った人材の育成にもっと力を入れないといけないし、政策提言なども積極的に行って、人材の活躍できる可能性を広げないといけない。こうしたことも私の務めだと考えています。
最近話題の「エコツーリズム」などにも可能性を感じますね。地域の自然や文化を味わいながら、スローライフを体験する、という「エコツーリズム」は、環境保全の大切さを学ぶ場にもなる。もちろん地域の振興や雇用の拡大にもつながる。いつかは私のゼミの出身者が、エコツーリズムを主催したり、実施する立場で力を発揮してくれるかもしれません。
環境の大切さを体感し、自然の再生・保護を実践したいと思っているみなさん、私たちと一緒に現場で自然から学んでみませんか。
ゼミ取材 こぼれ話
上嶋先生に質問をすると、まさしく立て板に水が如く言葉があふれるようにポンポンと出て来ます。それは先生の波乱万丈な人生経験からかもしれません。波乱万丈、海も潜れば、50トン級の船も操る。船では一度、台風の眼の下を追いかけ廻したこともあるなど、常人では考えられない経験もされています。
先生の好きな言葉は、妹尾河童の「なにごとも、覗いてみないとわからない」。まずは体験してみないとわからない、と言う好奇心の塊が先生の原動力。とにかく話が面白い。取材の最後に、先生のご趣味は、と聞いたところ「小さい時から音楽(歌)をずっとやっていました。プロの合唱団に入っていたこともあります」と、最後まで驚かされっぱなしでした。