荒木 智行

あらき ともゆき

荒木 智行 Tomoyuki Araki

工学部 電子情報工学科 准教授
出身:愛知県
t-araki@cc.it-hiroshima.ac.jp
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高齢者も、障害を抱える人々も便利さを味わえる『ユビキタスな社会』は創造できるか?

日々、進化するITやネットワーク技術。これらがより向上し、私たちの身の回りに、当たり前のように存在すれば、私たちの暮らしはもっと豊かで便利なものになるはず。そんな『ユビキタスな社会』の創造に貢献しよう、と研究を続けているのが荒木先生。「高齢者であろうと、様々な障害を抱える人々であろうと別け隔てなく、誰もが等しく価値を感じるものでなければ、ユビキタス社会とは言えません」と、先生は多彩な方面のテーマに取り組んでいます。

公共施設における高齢者・視覚障害者の情報活用を支援

私は以前、IT系の企業に勤め、情報通信ネットワークの研究に取り組んでいました。まだインターネットなどほとんど知られていない頃、世界中の最先端分野 で活躍する研究者・技術者と共に、「世界標準のネットワークを作ろう」と努力していたのです。それを出発点に視野を広げ、ネットワークや情報セキュリ ティ、光通信など、様々な分野の研究を進めています。
一つの例が、高齢者・視覚障害者支援のためのシステムづくりです。以前、小さなICタグに農作物などの生産者情報や産地情報を埋め込んでおき、それを専用 端末で読み取ると、作物がどこで採れ、どういう流通経路を経て店頭に並んでいるか、全てわかる...という「食品トレーサビリティ」という研究の仕組みに興味を持ちました。作物の履歴を明らかにして おけば、食品の安全性を保証するのに役立ちます。当時は使用する端末『ユビキタスコミュニケータ』も手に入らなかったので自作したんです。このユビキタスコミュニケータを使った仕組みを、他分野にも応用できないかと考え、図書館など公共施設で視覚障害者をサポートする仕組みを思いつきました。

ユビキタスコミュニケータの実験端末機器

可視光を使って情報発信。音声でも文字でも案内が確認できる

公共施設には多くの案内板があります。最も目立つのは「非常口」を示すサインでしょう。しかし高齢者や視覚障害者は、非常口サインをきちんと認識できないケースがあります。また図書館などの場合、書籍の陳列案内を、高い位置に掲示しています。これが視界の狭くなった高齢者や視覚障害者には見えず、不便な場合があるのです。
そこで各案内板や、非常口などの公共マークからLEDを使った可視光で情報を発信。それをユビキタスコミュニケータで受け取ると、音声でガイドしたり、あるいは弱視者でも見えるように拡大表示するわけです。
可視光は赤外線と違って目で確認できるので、そこから情報発信されていることがわかります。電波だと壁で隔てた場所からも飛んでくるため、キャッチした情報が近くの案内板のものか隣の部屋のものか判別できなくなりますが、可視光が物陰から飛んでくることはありません。直進性も強く、どの案内板からの情報か、受け手がきちんと認識できるのです。
将来は、スマートフォンに実装するアプリケーションとしてしまえば、専用端末も不要。ゼミの学生には、システムのためのスマートフォン用アプリケーションを作ってもらったりしています。

可視光線で情報発信する実験機器

「システムが誤作動しても、機器は安全に停止する」仕組みづくりも重要

情報セキュリティに関する研究も行っています。と言っても「情報の漏洩や悪用を防ぐ」という意味ではなく、情報システムの誤作動を防ぐ、という観点のものです。
例えば、踏切が故障すると、必ず遮断機が降りた状態になります。信号機が故障すると、必ず信号は赤の状態になります。そうしておけば、仮に故障しても、事故は最小限ですむでしょう。私たちの身の回りにはこういった、トラブルがあっても、安全な状態で停止することで重大事故を防ぐ『フェイルセーフ』の仕組みが多々あります。同じことを、ITシステムにも取り入れるべきと考えているのです。
今やあらゆる機器でITシステムが動いています。万一システムが誤作動しても、機器は安全な状態で停止するようにしておかなければなりません。まだ取り組む人があまりいない『ITのフェイルセーフ』という分野の研究も、充実させていかないといけない、と感じています。
様々な方面で研究を進め、どんな人も等しく利便性や価値を感じることのできる、そんなユビキタス社会の実現に貢献していきたいですね。

ゼミ取材 こぼれ話
情報の利用者は様々。視覚や聴覚の障害者もいれば、高齢者もいます。大事なのは、あらゆる人々が、それぞれの状況に応じて等しく情報を活用できるようにすること。そうした『マルチモーダルインフォメーション』の実現を念頭に、荒木先生は研究を進めています。「画像、文字、音声など多様な形(=マルチモーダル)で情報提供を行えば、利用者は自分にとって一番便利な形態を選択できます。また情報セキュリティの上でも、マルチモーダルという考え方は役立ちます。アプリの動作を、あらかじめ文字や音声で表示しておけば、正しく動作しているかどうか、利用者が確認できますから」。ITやネットワークがもっと、私たちの身近な存在となるために、先生の研究は続きます。