前田 俊二

まえだ しゅんじ

前田 俊二 Shunji Maeda

工学部 電子情報工学科 教授
出身:岡山市(岡山県立岡山大安寺高等学校)
s.maeda.ep@cc.it-hiroshima.ac.jp
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データを取得して分析し、さまざまな事象の"兆し"を読むことで、潜在する問題を解決する。

多くの人は、定期的に健康診断を受けます。特に病気にかかっているという自覚症状がなくても、自分の知らないうちに、その"兆し"が表れているかもしれません。そうした兆候をつかみ、早めの段階でケアすれば、病気になるのを防ぐことができるのです。「同じことが設備やシステムでも言えます」と語るのは前田先生。設備にいろいろなセンサを取り付け、データを取得して分析すれば、設備やシステムが故障する"兆し"をつかめる、と先生は言います。しかもデータ分析によって、"兆し"を読むという手法は、社会で問題となっている、いろんな分野に応用でき、潜在する問題も解決できるらしいのです。

"兆し"の段階で対処することで、設備が完全にストップする事態を未然に防ぐ。

工場において、生産設備が故障でストップしてしまうと、工場はモノが造れなくなり、大ダメージです。昨今は自家発電設備をもつ病院も珍しくありませんが、もし患者の治療中に発電設備が急停止したら、人命に関わるかもしれません。
そこで、故障してから治す「事後保全」ではなく、故障する前に治す「予防保全」が大事になってくるのです。具体的には設備やシステムに、温度や振動、圧力などを測定するセンサを設置し、問題なく動いている「正常」時のデータをまず記録します。そのままの状態で監視を続けると、どこかのタイミングで、正常時のデータと比較して異なる値、「異常値」が出てくるかもしれません。この異常値が、トラブルにつながるかもしれない "兆し"なのです。"兆し"の段階で点検・整備しておけば、設備の故障の大半が防げます。
現在、この"兆し"、すなわち「予兆」の検知ができる事例も見られるようになってきましたが、予兆を発見してから、実際に設備が故障するまでの時間=「余寿命」の予測は、まだ十分には実用に至っていません。「予防保全」を確実に行うには、「予兆検知」と「余寿命予測」の研究がますます大事になってきます。

風力発電の効率的運用のため、風速の"兆し"を予測する。

風速の"兆し"を読む、という研究にも取り組んでいます。もちろん気象庁で風速予報は出していますが、気象庁の予報は例えば「広島市の風速は〇mです」という具合に、大きなエリアに対して出されます。それではエリアが広すぎるのです。先生が想定するのは、風力発電に使う風速予測。つまり「発電用風車の設置場所」というピンポイントの風速を予測するのが、研究のテーマです。
風力発電の発電量は、風速に左右されます。風力で十分な発電量が見込めなければ、火力など別の方法で電力を確保しなければなりません。逆に十分な発電量があれば、代替発電を休ませられます。風力発電を効率的に運用しようと思うと、風速を細かく予測する必要があるわけです。 予測にあたっては、未来を読む鍵は過去にありと考え、いま起きていることは、過去にも観測されたはずだとみなすのです。そして、過去の類似した気象データを集め、そのときの未来値を、現在の未来値として参考にするのです。気象データを深く読み解いて、風力発電の安定化に結び付けていきたいですね。

風速予測の模式図。青いW型が示すような傾向に着目し、データがもつ特徴から未来を予測する。

弾丸に残された、キズに潜む証拠を調べる仕組みを構築し、事件の解決に貢献。

警察の依頼により、拳銃の弾丸に残された「線条痕」についても研究しています。線条痕とは、拳銃から弾丸が発射された時につく、弾丸のキズ。線条痕は、弾丸がどの拳銃から発射されたかを示す重要な証拠になったりします。
しかし、同じ拳銃から発射されたと言っても、全く同一の線条痕がつくわけではありません。火薬の量や弾の材質によって、見え方は大きく異なるのです。それが同一の拳銃から発射されたと特定できるのは、長年、線条痕に携わってきたベテランが、顕微鏡でキズの特徴的な部分の差異をしっかり見ているからです。だからどうしても調べるのに時間がかかり、1週間~1ヶ月を要する場合もあります。自動で客観的に調べるシステムができれば、人の手を煩わすことなく、短時間で判断できるようになるでしょう。
「日本は発砲事件が少ない」と言われますが、その要因として、警察にいるベテランが一年中、自らの目で線条痕を見続けて事件解決に寄与した、ということも大きいんです。そんな彼らの負担を少しでも減らせる研究に期待したいですね。

弾丸に残された線条痕。このキズを調べることで、発射された拳銃が特定できる。

ゼミ取材 こぼれ話
設備故障の兆しを読んだり、風速を予測したり、線条痕を判定したり。ほかにも、X線画像を対象に、紛れ込んだ異物を見つけたり、刃物の威力を較べたりと、前田先生の研究は、一見バラバラのようにも感じます。しかし実は、どれも「類似性」を軸にするという点で共通しているのです。「設備」の場合は、正常時データと「類似」であれば問題がなく、類似でなくなったら異常と判定する。「風速」の場合は、過去と「類似」のデータを捉え、未来の予測に役立てる。「線条痕」の場合は、複数の弾丸のキズが「類似」かどうかを見る。こういった具合に「類似性」に着目すれば、それまで見えなかったいろんなものが明らかになってくるのです。企業に勤めていたときにも、類似性に基づく比較検査を研究され、いまや特許を300件以上出願されているそうです。「類似性」が先生の研究のコアであり、面白さとも言えるでしょう。