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電子情報工学科

豊田 宏

教員紹介

豊田 宏TOYOTA Hiroshi

工学部 電子情報工学科 教授

研究者情報

プロフィール

【専門分野】
○薄膜形成技術
○微細加工
○プラズマ計測
【担当科目】
基礎電磁気学II 、 電子デバイス 、 電磁気理論 、 光デバイス 、 高周波工学 、 電子情報工学実験C/D
【研究テーマ】
1.光・電子デバイス応用のための薄膜形成技術開発
2.微細光学素子作製のための加工技術開発
3.プロセスプラズマのプラズマ計測
【ひとこと】

大学生活の中でたくさんのことに興味をもって積極的に取り組み、なるべく多くのこと吸収して身のある時間を過ごしてください。

研究紹介

豊田 宏TOYOTA Hiroshi

工学部 電子情報工学科 教授

スマートフォン、カメラ、家電製品、ペットボトルまで?
日常の様々なシーンを支える『微細加工』技術
PROLOGUE

日に日に進化するスマートフォンのカメラ機能やデジカメ。ごく普通の一般人でも、そこそこ見栄えのする写真が撮れるようになり、活躍する場面が増えました。でも、もっと鮮明な画像を撮影できるようにならないか...と家電メーカーや光学機器メーカーがこぞって工夫を重ねています。そうしたカメラ機能の進化に欠かせないのが『微細加工』技術。「カメラなどの光学機器を始め、様々な家電製品、パソコン、スマートフォンに微細加工技術が活きているんです」と語るのが豊田先生。そもそも、微細加工技術って、どんなものなのでしょう?

ズラッと整列する円錐。高さは僅か750ナノメートル

下の図を見てください。とんがり帽子のような円錐がたくさんありますね。これは石英ガラスに加工を施したものですが、突起の高さは僅か750nm(ナノメートル/1nm=100万分の1mm)。極薄の中に、均等且つきちんと整列する形できれいな円錐が形成されているのです。
これは私が作製した反射防止構造板です。光の反射は、通常、屈折率差の生じる境界で発生します。この円錐列は下地の石英板とつながっており、屈折率変化がなだらかなので、光が入射してもほとんど反射することなく石英板に光が導かれます。この特徴を活かせば、例えばカメラのレンズ内に入る光を最大限に有効活用できるため、画像がいっそう鮮明になります。ナノサイズですから、カメラの構造や重量に影響を与えず、むしろさらなる高性能化が可能でしょう。
私はずっと『微細加工』技術に取り組んできました。反射防止構造板も成果の一つですが、実はこれ、失敗作なんです。本当は円柱を作るつもりでしたが、円錐になってしまったので「ダメだ」と思っていたら、他の研究者から「どうやって作った?」と問い合わせが殺到したのです。

石英ガラスで作った『反射防止構造板』。
突起の高さは僅か750nmしかありません

微細加工の“常識”にとらわれなかったからこそ、新たな成果が生まれた

粘土造形の際は、粘土の塊の上に型を置き、型からはみ出た周囲を削っていきます。微細加工技術は、削る対象が素材の原子や分子なので、条件はシビアですが、やり方の基本はそれほど変わりません。反射防止構造板の作製には過去に多くの技術者が挑戦したものの、理想的な形状作製を実現できませんでした。そこで私は、条件を変えてみました。微細加工の精通者なら「あり得ない」と笑い飛ばす設定ですが、当時の私は微細加工に携わって間もなかったので、“常識”にとらわれていませんでした。それが、成功のヒントになったのです。“常識”のない研究者の“失敗作”が注目を集める成果となったのだから、運が良かったと思います。
この微細加工技術、いろんな分野で使われているんです。代表的なのが半導体デバイス。微細加工技術が発展したおかげで半導体デバイスの集積度があがり、スマホもパソコンも情報家電も、省サイズでありながら高性能になりました。意外なところでは、ペットボトルも。ホット飲料水の入ったペットボトルの中身の品質が維持できるのは、ボトルに品質変化を防ぐ微細加工が施されているから。日常の至る所で、微細加工技術が発揮されているのです。

研究は主にクリーンルームで行いますが、
扱うものによっては、真空装置だけでも作れます

紙にぴったりくっつき、曲げてもはがれない極薄の金属

微細加工とは、素材を彫るエッチング技術だけではありません。薄膜を積み重ねることで自分の望む形を作り上げる技術もあり、その研究にも取り組んでいます。
下の写真を見てください。左側は私の名刺で、普通の紙。右側の銀色の板にも、名刺と同じ文字が刻まれていますね。これ、名刺の上に、金属のニッケルを貼り付けているんです。ニッケルの厚さは僅か1µm(マイクロメートル/1µm=0.001mm)弱。だから紙と一緒に折り曲げられますし、はがれません。
紙の表面をナノサイズに拡大すると、凸凹があります。このナノサイズの凸凹に合うようにニッケルの原子を緻密に重ねていくので、紙の上のニッケルがはがれないわけです。もちろん樹脂にもガラスにも、金属を貼り付けることができます。異なる素材とくっついたまま、自在に曲がる金属…次の技術開発に利用できそうです。
微細加工は現代社会に不可欠の技術。しかもその活躍シーンは、もっと増えていくでしょう。私も様々な工夫やアイデアで、微細加工技術の発展に貢献したいですね。たとえ“常識はずれの失敗作”になってしまっても、筋道を立てて考えた末の結果なら、意味があると思うんです。学生にも常識にとらわれないこと、失敗を恐れないことの大切さを学んでほしいと思っています。

左は紙に印刷された豊田先生の名刺。
右は、その名刺にニッケルの薄膜を
つけたものです