升井 義博

ますい よしひろ

升井 義博 Yoshihiro Masui

工学部 電子情報工学科 准教授
出身:広島県広島市(崇徳高等学校)
y.masui.78@cc.it-hiroshima.ac.jp
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省電力で高機能のLSIがなければ、スマートフォンは誕生しなかった?

スマートフォンやパソコンに代表されるIT機器は言うまでもなく、テレビやエアコン、冷蔵庫に洗濯機といった家電製品など、身の回りのさまざまな製品に搭載されているLSI(集積回路)。IT機器や家電製品を制御し、思い通りに操作するための「頭脳」と言っていい存在です。このLSIをもっと便利にしようと研究を進めるのが升井先生。先生が研究するのは『消費電力の極めて小さいLSI』の設計。「究極的にはバッテリーを必要としないLSIにしたい」と先生は意気込んでいます。

「ボタンを押す」エネルギーで稼働する、省電力LSI。

LSIは電気で動く回路なので、当然、電源が必要です。スマートフォンも充電せずに使っていると、バッテリー切れになってしまいますよね。しかし私は、充電しなくても半永久的に動く、消費電力の極めて小さいLSIについて研究しています。その極めて小さい電力を、どこから持ってくるのか?世の中のあらゆるところに転がっていて、利用されていないエネルギーを活用しようと考えています。
例えば、エアコンのリモコンを思い浮かべてください。本体を操作するためにいろいろなボタンを押しますよね。「ボタンを押す」時には物理的エネルギーが発生します。これを効率よく電気に変換することができれば、その電力によってLSIを動かせます。また、水洗トイレを考えてみてください。用を足したら水を流しますね。ここに水力発電のような仕組みがあれば、「水が流れる」エネルギーを電力に変換できます。
このように、さまざまな場所にあるエネルギーを上手に集めてきて活かそうという考え方を「エネルギーハーベスト」と言います。しかし、それぞれの場所で生まれるエネルギーは、電力にするとごく微小。そこで、微小な電力でも稼働するLSIの存在が重要となるわけです。

LSIのさらなる省電力化が実現すれば、もっと便利になる。

数年前のノートパソコンには、LSIの熱を冷やすファンが不可欠でした。ファンを回すスペースと電力が必要なため、ノートパソコンの小型化には限界があったのです。しかし今はファンが付いていないノートパソコンもよく見かけます。これは、LSIが省電力化し発熱量が下がったからです。スマートフォンやタブレットPCが誕生した背景には、LSIの省電力化が大きく貢献しています。いつの日かエネルギーハーベストを利用しバッテリー不要、という日が訪れるかもしれません。
しかし、そうは言っても簡単ではありません。利用できる電力は小さいので、スマートフォンを動かすほどの電力を発生させることは、現段階では難しいのです。しかし、エアコンのリモコンや家庭の室内電灯スイッチ用のLSIなら実現可能です。電灯スイッチが電源不要になると室内配線の手間がかからず、リフォームなどもしやすくなるでしょう。
研究は学生たちと一緒に進めているのですが、既成概念にとらわれない彼らと設計するのは楽しいですね。思ってもみないような発想が飛び出してきたりします。そうした柔軟さが、イノベーションの原動力になるのです。

手前の白いスコープでLSIをとらえ、奥のノートパソコンに拡大して表示。極小のLSIの設計具合を目視で確認できる。

「ガン細胞」を検知するLSIの開発も進行中。

他大学や民間企業と協働して取り組んでいる研究テーマもあります。それは医療系機器に用いるLSIの開発です。一言で表すと、「ガン検出ができるLSI」を研究しています。
ガン細胞と健康な細胞では、電気的特性が異なります。スマートフォンのような装置から電磁波を飛ばすと、ガン細胞の箇所だけ電磁波を反射するとします。これをアンテナとLSIで受信できれば、電波の反射具合の相違から、ガンの疑いのある箇所を特定できるわけです。通常、ガン検査には大型の機械が必要で、専門の医療機関でなければ検査できません。しかし私たちが考えているシステムなら、自分でも簡易検査が行えます。簡易検査でガンの疑いがあれば、医療機関で精密検査を受ければいいのです。
生物・バイオ関連の分野で一番問題となるのが「再現性」です。同じ条件で同じ刺激を与えても、同じ結果が得られないケースがあります。しかし電気の分野は、条件が変わらなければ何度やっても同じ測定が可能。つまり、生体反応を電気信号に置き換えることで、確かな結果が得られるのではないかと考えています。
LSIを進化させることで、産業や医療の発展に貢献したいですね。

LEDの電灯を点灯させるためのチップ

乳ガンを検出するためのチップ。医療分野での活用を見据えたLSIを研究中。

ゼミ取材 こぼれ話
「LSIを省電力化するには、2つの側面からのアプローチが必要です。1つは、チップ内で使用するトランジスタそのものの質を向上させる、半導体製造の側面。そしてもう1つは、それらをより良い形で活用するための回路設計の側面。私たちが行っているのは後者です」と語る升井先生。LSIは日進月歩の勢いで進化しており、今や搭載部品は10ナノメーターレベル(1ナノメートル=10億分の1メートル)まで小型化されています。しかし、それでもなお進化する余地があるのだそうです。「もう限界だろう、と思っても、そこまで到達してみるとさらに先が見えてくる。LSIの世界は終わりがない。そこが楽しいところでもあります」と先生は笑います。