乗り物の操縦には「むだ時間」がつきものです。船の操舵で言うと、船は舵を切るとすぐ曲がり始めるわけではありません。波や風の影響を受けるため、曲がり始めるまでおよそ5秒くらいかかるんです。この5秒が、船における「むだ時間」。むだ時間を知っていないと、曲がりたいポイントで曲がれない=船をうまく操舵できないことになりますね。天候がよくない時は波がもっと荒れますから、むだ時間の予測はさらにしにくくなります。
これを何とかできないか、と。気象や海の状態がどうであっても、まるで晴天の海のように快適に航海できるシステムは作れないか、と研究中です。もちろん完全に自動化できるわけではなく、操舵手は必要。しかしあらかじめ組み込まれたシステムが、気象や海の状態を把握して制御を助けてくれれば、操舵手は楽になるはず。船舶は特に港を出入する際、難しい操舵が必要となります。実際、海難事故の大半は出入港時に発生しているんです。操舵をアシストする制御システムの開発が成功すれば、事故削減に貢献できるでしょう。
『海』に関しては他にも、港に停泊中の船の安全を守るシステムなどにも取り組んでいます。
次は『陸』。日本の山は緑でいっぱいですよね。これらの森林は、適当な時期に余分な木をや枝を切ることで維持されています。切り倒した間伐材は持ち帰って材木として活用するのですが、最近は人手も少ないため持ち帰りが難しく、そのまま放置することも多いらしいのです。それでは他の木々にも悪影響を与え、森林全体がダメージを受けてしまう。何とかしよう、と私は間伐材回収システムの研究を始めました。
間伐材を粉砕してチップにし、エアパイプを通じてふもとまで送る装置はあるんです。この装置を、間伐材が放置された山の中腹まで運ばないといけない。私が研究しているのは、角度30度という日本の山の急斜面でもバランスを崩さず、自律走行で山道を登って目的地までたどり着く運搬車に組み込む制御システムです。
さらには『空』にも取りかかろうと準備中。災害救助に飛行船を利用しよう、という動きがあるのですが、その飛行船に積んで災害状況を監視するセンサや、障害物を除去するロボットアームなどに組み込む制御システムの開発を考えています。
私は弓削商船高等専門学校を卒業しましてね。船員として1年勤務した経験もあります。その後、航空自衛隊に入り、研究職技官として航空機の試験などを行っていました。昔から「乗り物」に興味があったんです。
乗り物に限らず昨今の機械には、制御するためのシステムが組み込まれています。この『組込み技術』が日本の産業を支えていると言っても過言ではありません。私もこれをもっと極めていきたいし、学生にも組込み技術をもっと知ってもらいたい。
そのきっかけづくりと考えているのが『ETロボコン』への参加。プラスチックのブロックで造られた二輪付ロボットに制御システムを組み込み、コースを自律走行させるんです。年1回、パシフィコ横浜で開催される全国大会出場を目指し、研究機関を始め、電機系メーカーなどがこぞって参加しています。
これに私たちのチームもトライしよう、と。学生たちと日々、設計と検証を繰り返しています。全国大会に進出するには、まず地方大会を突破しなければなりません。あなたも土井ゼミで、一緒に横浜を目指しませんか? ETロボコンへの取り組みの中で、組込み技術に関する基礎が身につきますよ。
ゼミ取材 こぼれ話
どの制御システムの場合でも、第一段階となるのが『運動モデル』作成。船や車、ロボットなど対象となる物がどんな状況でどう動くのか分かっていなければ、制御システムは組めません。土井先生は、より詳細な船の運動モデル作成のため、旧知の弓削商船高専の訓練航海に同乗させてもらったりするそうです。「特にほしいのが、出入港時のデータ。訓練航海は2泊3日という短いものなので、データ収集に最適です」。広い海原に出ると、もともと船が好きで、船員の経験もある先生の血が騒ぎ出すことでしょう。そこで得た活力が、"より便利な操舵システムの開発に貢献したい"という先生の意欲を生み出しているのかもしれません。