情報端末やデジタル家電の進化の理由には、半導体デバイスの向上が挙げられます。トランジスタやLSIなどを搭載した半導体デバイスは、情報端末やデジタル家電の制御を担当する重要な部品。ここが小型化・集積化したことにより、小型・薄型・軽量でありながら高機能な製品が実現しているのです。
もっと小型で軽量な情報端末やデジタルを造るため、メーカーは今も半導体デバイスを1ミクロンでも薄くしようとしのぎを削っています。ところが、単に小さく、薄くしても、デバイスの強度や変形などを正確に予測しないと、不良品となってしまいます。いかに小型で高機能だと言っても、構成材料の性質や形状を適正に設計しなかったばかりに簡単に壊れる製品となったのでは、意味がありません。
そこで、どういう形状や薄さなら半導体デバイスの強度や変形が保たれるか、ということを明らかにする必要があります。しかし、これが容易ではないんです。半導体デバイスは、IC(集積回路)や金属、樹脂の複合体ですから。特に樹脂などの高分子系機能材料の解析が難しい。樹脂は温度と時間で性質が変わるからです。そこで私は、プラスチックの熱粘弾性を数値解析するプログラムを、自作することにしました。1980年代のことです。
プラスチックなどの高分子系機能材料は「粘弾性体」とも呼ばれます。通常、粘性(ねばり強さ)は液体の、弾性(外から力を受けた後、元に戻ろうとする力)は固体の性質と言われますが、高分子系機能材料は、双方を併せ持っているのです。
「粘弾性体」である高分子系機能材料は、「熱」や「時間経過」に影響を受けます。例えば、プラスチックの基板に素子を取り付ける際、高温のはんだを用いますが、プラスチックは100℃以上の高温に触れると柔らかくなり、反りが発生するのです。また高分子系機能材料には、時間の経過によって、外部から重さが加わることで伸びが発生したり(クリープ現象)、また外部から力を受けた時に物体内部に発生する力(応力)が減少する(応力緩和現象)、という特徴があります。
「熱」や「時間経過」で変化するプラスチックの性質(熱粘弾性)を解析するプログラムが、半導体デバイスの小型・軽量化、高性能化には、どうしても必要だったのです。私はまず、温度や時間の変化により、プラスチックの性質がどう変わるかを実験。同時に、熱応力を求める熱粘弾性を明らかにするための基礎式を、自分で組み立てていきました。さらに、プラスチックと、セラミクスや金属など他の素材を複合した場合、熱粘弾性応力はどう変化するか、といった領域にまで研究を拡大。10年をかけてプラスチック複層体の熱粘弾性応力を解析するプログラムを開発したのです。これにより、温度の上下がプラスチックにどういった変化をもたらすか、ミクロン単位で簡単にシミュレーションすることが可能になりました。
半導体デバイスに対する要求は、年々高度になっています。もっと薄く、軽く、かつ高機能で、省電力に貢献できるものを...というニーズを受け、いっそうの高密度化・高集積化へと向かっています。また今後、新たな機能材料が登場する可能性もあります。一方では、信頼性の高い部品をできる限り低コストで製造したい、といった声もあります。これらを実現するため、高分子系機能材料の弾性係数や膨張率、熱的・機械的性質を解析するプログラムにも、さらなる進化が求められるでしょう。そうした時代の要請に対応するためにも、研究をもっと重ねなければなりません。
ゼミの学生には、解析プログラムを確立するのに貢献する様々な基礎研究に取り組んでもらっています。ただし、私から「あれをやれ、これをしろ」と口うるさく指示することはありません。学生が主体的にテーマを決め、自ら行動するのが基本原則。自分で考え、実験や検証を繰り返し、時には失敗や挫折しながらも進んでいく...という体験を、学生には味わってほしいと考えています。自ら決断し、動く姿勢を持った研究者・技術者こそ、新しい可能性を切り開くことができるのですから。
ゼミ取材 こぼれ話
以前は大手電機メーカーに在籍。洗濯機や冷蔵庫など、いわゆる「白物家電」についての強度信頼性の研究に携わっていた、という中村先生。部署異動で半導体の研究を行うことになった当初は、白物家電との考え方の違いに当惑した、と言います。「開発期間も構造も、何もかも違う。一番の違いは、サイズの小ささですね。エアコンだと問題にならないような変形も、半導体デバイスの場合、致命的になる。小さく薄いのだから壊れやすいのは当然なのに、それを壊れないようにするためには...と実験と解析を繰り返す日々でした」。国内留学も経て、そんな先生を支える原動力となったのが、「負けてたまるか!」という反骨心。無茶に思える要求も、どうすれば解決できるか考え続けた結果、先生は独自の粘弾性応力解析プログラムを開発できたのです。