越智 秋雄

おち あきお

越智 秋雄 Akio Ochi

工学部 知能機械工学科 教授
出身:広島県
ochiakio@cc.it-hiroshima.ac.jp
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工具をダメにするほど厄介な素材を、どうやって切削するか

優れた製品も、設計図の段階では、まだ想像上の存在に過ぎません。設計図に従って素材をプレスしたり、切ったり削ったり研ぐなどしてようやく形になります。つまりこうした『生産加工』分野があって初めて、「絵に描いた餅」は「食べられる餅」になるのです。
「切ったり削ったり」と言っても、豆腐を包丁で切るようなわけにはいきません。切削する工具も、切削される側の素材も、どちらも金属やセラミックスなどをベースとしたもの。硬い材料同士がぶつかり合うのだから、簡単ではありません。しかも最近は、より硬く、より丈夫な素材を用いる傾向があります。
代表的なのがチタン合金です。チタン合金にはいろんな種類がありますが、いずれも強度が高く、軽く、耐食性があり、熱にも強いという特徴を持っており、航空機・潜水艦・自動車などの重要部材として使われています。発電機のタービンのような、さらに高い耐熱性が求められる部材に使用される、ニッケル基超耐熱合金という素材もあります。
このような『難削材』を通常通り切削加工しようとすると、工具の方がダメになります。ではどうやるか。それが私の研究テーマの一つです。

一つの課題を克服すると、より高度な次の課題が現れる

切削工具によく使われるタングステン合金も、非常に硬い金属です。それでも難削材加工は簡単にいきません。その理由の一つに、ある種の難削材が持つ「熱伝導率の低さ」という特徴が挙げられます。
金属の加工箇所は高温になるため、常に冷やさないといけません。ところが熱伝導率の低い素材だと冷却油剤をかけてもなかなか低温にならず、工具に悪影響を及ぼすのです。
この解決策として従来、加工箇所に上から供給していた冷却油剤を、下と真横から同時にあてる方法を考えました。上からだと生成される切りくずに遮られていた冷却油剤が直接刃先近くに届くようになり、加工能率が大幅に向上しました。
もう一つ「親和性の高さ」という問題もあります。「素材と工具が反応し合い、くっついてしまう」のです。これを解決するため、タングステン合金の刃の部分にコーティングを施して、素材と工具の親和性反応を抑える、といった方法があります。
他にも、生産加工の現場は、様々な知恵で難削材加工という課題を解決しています。しかし、新たな難削材は次々に登場します。異なる特徴を持つ難削材が現れると、また新たな工夫が求められるのです。こうした流れに終わりはありません。

下と真横の2方向から冷却油剤を供給しながら、難易度が高い「β相チタン合金」切削を行った例。

珍しいβ相チタン合金の切削加工の様子。加工音に耳を澄ませてください,材料や工具が削りにくさを一生懸命伝えてくれているのがわかります。

知恵を発揮する生産加工があったから、日本の『ものづくり』は強くなった

なぜわざわざ加工しづらい難削材を使うのか? それにより、高機能で利便性の高い製品が造れるからです。例えば自動車で言うと、エンジン性能や燃費の向上にこれらの素材から生まれる部品が不可欠。他の製品も同様です。すなわち、様々な知恵や創意を発揮し難削材加工を実現する生産加工があるからこそ、人々は快適で便利な生活が送れるようになった、とも言えるのです。
そのことを体感させるため、学生たちにも大学にある工作機械を使った切削加工などを行わせています。どんな素材があるのか。切削の際、素材や工具、工作機械にどんな力がかかるか。生産加工にどういった知恵が必要か...。どんな加工も、最高度の品質を求められる場面では、人間の知恵と手が必要なのだという、ものづくりに関わる者として最も大事な「わざ」と「こころ」を身につけてほしい。そう考え指導を行っています。
難削材の加工は容易ではありません。複雑形状の加工となると、さらに難易度は増します。しかしここで手を抜かず、技術を結集してきたことが、日本のものづくりを強くしました。そうした先人たちの姿勢を、学生にしっかり受け継がせたいですね。

ゼミ取材 こぼれ話
越智先生が学生に生産加工の実際を教えるための実験室には、工作機械がずらりと並んでいます。中には、1960年代に製造された機械も。「製造された年は古いけど、工作機械としては当時から世界最高峰であり、今でも間違いなく世界トップクラスですよ」と先生は教えてくれました。「私たちも学生の頃、日本の技術者たちが生み出したこれらの工作機械を見て、その精巧さに感動しました。世界から賞賛されるような高性能で精密な製品を日本が造れるようになったのは、世界最高峰の工作機械が日本にあったからだ、と言っても過言ではありません」。工作機械に向かい、全神経を研ぎ澄まして素材を切削している時は、全てのストレスから解放される、と越智先生は語ります。