松島 治

まつしま おさむ

松島 治 Osamu Matsushima

環境学部 地球環境学科 教授
出身:愛媛県(愛媛県立松山東高等学校)
matsu88@cc.it-hiroshima.ac.jp

生物の体内では、様々な『情報伝達』が行われている

生物の体内では、絶えず情報伝達が行われています。例えば、危険そうな蛇を見ると、人間は思わず逃げ出そうとしますね。目で見た情報が脳に送られ、脳から足へ「逃げろ」と指令が送られた結果、足は動き出します。つまり目から脳へ、脳から足へと情報伝達が行われているわけです。赤ん坊が母親の母乳を飲む時も同じ。赤ん坊の母乳を吸う行為を見た母親の脳から送られた「母乳を出しなさい」という指令が乳腺を刺激し、乳腺から母乳が出てくるのです。ここにも情報の伝達があります。
私が明らかにしたいのは、この情報伝達を行うのはどんな物質なのか、ということです。ちなみに、乳腺から母乳を出す指令を伝えるのはオキシトシンと言う物質で、ほ乳類の出産行動に関するペプチドの一種であることが、すでにわかっています。
ペプチドとは、アミノ酸が結合してできた分子量で言えば数百~数千の物質。同じくアミノ酸の結合によってできているタンパク質は、分子量で数万~数十万とケタ違いの大きさです。タンパク質に比べるとペプチドは小さなものですが、ペプチドがなければ体内の様々な情報伝達が行われません。とても重要な存在です。

機能が分かっている情報伝達物質は、ほんの一握りしかない

私は主に、カタツムリやヒル、ミミズ、アメフラシなど無セキツイ動物の神経系・ホルモン系で働く情報伝達物質(シグナル分子)について研究を行っています。以前、ミミズの一種からあるペプチドを見出し、アミノ酸の並び方や遺伝子構造を調べると、オキシトシンとよく似ていることがわかりました。無セキツイ動物には、オキシトシンのようなセキツイ動物と共通のシグナル分子は存在しないというのがそれまでの定説でした。しかし、その物質をヒルに注射するとヒルは産卵行動に入ったので、機能面でもほ乳類の出産時に働くオキシトシンと同様であると言えるでしょう。私達はこの物質を新たなシグナル分子として「アネトシン」と名づけました。
しかし、機能がわかっているペプチドは、まだほんの一握り。生物の体内には、無限と言える種類のペプチドが働いています。何がどんな働きを持っているのか見分けるには、実験を繰り返すしかありません。こうした研究成果の積み重ねが、生命の不思議の解明につながります。

アネトシンをヒルに注射。
左が通常。中が30分後。左が60分後。
体型の変化と白い粘液が産卵行動の表れ。

アサリが環境保全に貢献? 魚は色認識ができる?

ゼミで学生が取り組んでいる研究は、バラエティーに富んでいますよ。ある学生はいろんな山から土を採取し、土に含まれる物質を調べています。その中にあるかもしれない、植物の生長を促進または抑制するシグナル分子を明らかにする、というのが目的です。
別の学生の研究では、海岸に住むアサリを取り上げていますね。アサリは水を取り込む入水管と、ゴミを粘液で固めて体外に放出するための出水管を持っています。二枚貝のこの水循環機能は水質浄化にも役立つと考えられています。
「魚は色が認識できるのか?」なんてテーマに取り組む学生もいます。研究を進めてみると、どうやら魚も色を認識しているようです。人間を除く陸上動物の大半は色認識ができないのに、なぜ魚はできるのか?ロドプシンという視物質の分子進化が関係していることはすでにわかっていますが、実験の組み立て方などに学生の創意工夫が見られます。
広い意味で生物学や環境学に分類されるテーマで、学生本人が興味を持てるなら、自由に取り組ませるのが松島ゼミの方針。このような研究活動を通して、自律性と想像力を持った卒業生を送り出したいと考えています。

ゼミ取材 こぼれ話
環境保護の重要性が叫ばれるようになった原因の一つに『環境ホルモン』問題があります。情報伝達物質を混乱させる化合物が環境にばらまかれると、生物に悪影響を及ぼす...というものです。「潮間帯に生息する巻貝の一種イボニシでは、メスなのにペニスができるということがあり、当時、船底塗料に使用されていた有機スズがその原因である」ことを国立環境研の研究者が解明しました。このようなことが起こる仕組みのひとつとして、情報伝達物質の機能のかく乱を挙げることもできるでしょう。