小西 智久

こにし ともひさ

小西 智久 Tomohisa Konishi

環境学部 地球環境学科 助教
出身:広島県廿日市市(広島県立廿日市高等学校)
t.konishi.Vd@cc.it-hiroshima.ac.jp

地震や土砂災害対策から農業の発展まで。『人工衛星』情報は多彩な分野に応用できる。

地球上を周回する人工衛星。その数は約3,500とも言われ、地球を俯瞰する位置からさまざまな情報を送っています。スマートフォンの地図アプリで現在地が特定できるのも、人工衛星を利用して現在地を測位するGPSが組み込まれているからです。そんな人工衛星の情報を多方面に活かそうと考えているのが小西先生。先生は、災害対策や農業分野などへの貢献を視野に入れ、衛星上から地球を観測する「リモートセンシング」研究に力を入れています。

災害の全体像をつかむには、人工衛星のレーダー情報が有効。

右の図をご覧ください。これは2014年8月、豪雨により土砂崩れを起こした広島市安佐南区・安佐北区の被災現場を人工衛星から撮影したものです。緑で覆われた山々のあちらこちらに、茶色の筋が走っているのがわかりますね。これは、土石流によって木々が押し流され、むき出しになった山肌です。また画像上の青い線は、以前から広島県が指定していた危険渓流情報を、認識しやすいよう色付けしたものです。こうしてみると、土石流は、ほぼ危険渓流に沿うように発生したことがわかります。
豪雨や土石流などの自然災害で、地域は深刻なダメージを受けます。どこにどれほどの変化をもたらしたのか、という災害の全体像をつかむのに、衛星情報はとても有効なのです。
右の図は人工衛星に搭載している光学センサで観測した画像(デジタルカメラで撮影したような画像)ですが、現地が雲に覆われていると、下は撮影できません。豪雨災害がある時期は天候不順の日が多く、早く撮影したいと思ってもなかなかできないものなんです。そういう場合に有効なのが、雲を透過するレーダーです。私は、特にレーダー情報を、災害状況の分析に活用したいと考えています。

人工衛星がとらえた、水害から1ヶ月後の被災地(広島市安佐南区・安佐北区)の様子。
Landsat image courtesy of the U.S. Geological Survey.

衛星情報を活用すれば、大地震の後の復興支援も素早く行える。

2016年4月、熊本で大きな地震がありました。衛星による観測データは、地震被災の状況把握にも役立っています。
衛星のレーダーがもたらしたデータを解析すると、西熊本駅の北を走る白川と、南を流れる緑川を南北に結ぶように液状化が起こっていることが明らかになりました。古くはそこに河川が流れており、埋め立てた土地らしいのですが、それを裏付ける資料は残っていません。一見すると、普通の土地となんら変わりのない場所でした。しかし衛星の観測データは、旧河川とされるラインに沿った液状化を見逃さなかったのです。
被災の状況を示すこうした確かなデータがあれば、被災者に対する復興支援も迅速に行えます。大地震などの災害が発生した時、被災者に対して「どんな災害に遭ったか」を公的に認定することが、後の支援に不可欠です。しかし状況を把握するため、交通も乱れがちな被災地に直接行って調査する手法に頼っていては、認定に時間がかかってしまいます。そんな時、衛星を利用した被災地情報があれば、どの辺りで大きな変化があったか短期間でわかるわけです。その地域の人に対し優先的に罹災(りさい)証明を発行する、などの弾力的な判断が可能になるでしょう。

熊本大地震後、地域にどんな変化があったかを表している。地震発生前後で変化した場所が赤くなっており、上の赤く太いラインは白川、下のラインは緑川。その2つを結ぶ黄枠内のタテの赤いラインが液状化した箇所で、旧河川の存在を示す。
(C)JAXA/HIT

農作物の生育状況をタイムリーに把握できるなど、農業の進化にも貢献。

災害以外に、農業分野でも、衛星データを活用したいと考えています。
田んぼを例にとりましょう。水を張る前の田んぼの表面はでこぼこしています。このでこぼこにレーダーがあたると、レーダーは散乱します。しかし水を張ると、レーダーの後方散乱は小さくなります。苗を植え、繁っていくと、レーダーの散乱は、再び強くなります。
つまり、レーダーの散乱と稲の成長の間には、相関性がある、ということです。相関性を精密に出せば、稲の生育状況のタイムリーな把握が可能になります。どのタイミングで肥料をやればいいか、収穫はいつがベストか、農業経験の浅い人間でもわかるようになるでしょう。病害などの事態への対処も早くなるはずです。
しかも衛星データは、70~100km四方の範囲の情報を一度に収集します。それほど広範の情報を一度に俯瞰できるため、農業の効率化にも寄与するわけです。
稲だけではなく、野菜でも果実でも同じ仕組みが使えます。また日本にとどまらず、アジアなど世界で農業を進める際にも有用。農業を、より将来性の大きな事業へと進化させることができるのではないか、と期待しています。

レーダーの散乱具合から、水田の稲の生育状況がわかる。

ゼミ取材 こぼれ話
衛星のデータが示す状況が、現実と確かに相関していると結論付けるためには、現地に足を運ぶフィールドワークが欠かせません。小西先生も稲の生育を確認するため、あるいは災害の状況を調査するため、何度も現地を訪れています。「水害や地震が起こった後の被災地の状況は、行ってみないとわかりません。土の状態、ほこりやメタンの臭いが混じった空気の状態、そういうものを目で見て、肌で感じる経験が、観測データの解析には重要なんです」。ライフラインの復旧も十分でない被災地の調査は容易ではありませんが、被災後の支援や将来的な防災に貢献する研究成果を出すため、今後もできる限り現地に行きたい。先生はそう語ります。