加藤 浩介

かとう こうすけ

加藤 浩介 Kosuke Katoh

情報学部 情報工学科 教授
出身:愛知県長久手市(名古屋市立向陽高校)
k.katoh.me@cc.it-hiroshima.ac.jp

「あいまいで、やわらかな計算方式」が、イジメ問題を解決する?

人類は長い間「緻密で正確な計算」を追求してきました。巨大な鉄の塊である飛行機が空に浮かぶのも、ロケットが月面着陸できるのも、「緻密で正確な計算」を積み重ねた結果、と言えます。しかし、このやり方では解決できない問題も増えてきました。例えば「イジメ問題」。どれだけ正確な計算を繰り返しても、状況がコロコロ変わったり、人の心に関わるものなどはなかなか答えが見えません。こうした、複雑で予測の難しい問題を解決するため、「あいまいで、やわらかな計算方式」を活用しようというのが、加藤先生の研究テーマです。

エレベータを待ってイライラすることが減ったのはなぜ?

高いビルに入り、エレベータを利用したことがありませんか? 1階で、何十階も上に行ってしまっているエレベータを1階で待つのは、イライラするものですよね。でも最近の高層ビルでは、こうしたイライラに悩まされることがほとんどありません。1基のエレベータが上の階に行ってしまっても、別のエレベータが自動に動き、すぐ下の階に来れるように待機していますから。
このエレベータの制御には、ニューラルネットワークと言う、生物の脳からヒントを得た自律学習システムが応用されています。あるエレベータが動いたら別のエレベータが利用回数の多い階で待機する、といった状況に応じた最適な運行を、エレベータ自身が判断して行っているんです。おかげで、私たちはイライラすることもなくエレベータに乗れる、というわけです。
ここで使われているニューラルネットワークが「あいまいで、やわらかな計算方式」、すなわち「ソフトコンピューテイング」の1つです。

不確かな状況でも判断を下す柔軟性を、システムに採り入れる

飛行機を飛ばしたり月面着陸を成功させるのに必要だった「緻密で正確な計算」はハードコンピューティングと呼ばれます。ハードコンピューティングで欠かせないのは、どれだけ正確な情報を、どれだけ詳細に収集・分析・処理できるか。
しかし私たち人間は、常に詳細で正確な情報が集まるのを待って判断しているわけではありませんよね。空が曇ってる、雨が降りそう...といった、あいまいで、不正確な状況でも私たちは「よし、傘を持って行こう」「面倒だからいいや」などと判断し、行動しています。
あいまいで不確かな状況であっても、それなりの答えを導き出す、というやり方を取り入れたのが「ソフトコンピューティング」。つまり、極めて人間の思考に近い方法と言えます。だからソフトコンピューティングには、人間と同じように、刻々と変化する状況に対応できる柔軟性があるんです。
ソフトコンピューティングは既に、多方面で活躍しているんですよ。例えば、地下鉄のスムーズな運転&省エネや、新幹線の速度アップ&省エネに応用されたり。「人間の判断」を必要とする場面はたくさんあるから、まだまだ用途は広がっていくと思います。

システム上の「クラス」で、「イジメ」が発生する原因は?

ソフトコンピューティングの手法で「人工学級シミュレーション」というものを新潟大学の前田義信准教授が試みられており、これから共同で研究を進めていこうと考えています。この研究では、システム上で擬似的に学校の1クラスを作ります。クラスには数十名の「生徒」がいて、それぞれ「旅が好き」「にんじんが嫌い」などの属性をランダムに持っています。後は生徒たちが互いに関わり合うようにするだけ。
すると「生徒」たちは、自分と属性の近い「生徒」を探し、グループを作り始めるんです。やがてクラスは数グループに分かれます。しかしどのグループにも入らない、孤立した「生徒」も発生します。その属性を見ると、他と共通する属性が少ないんですね。これは、実際に学校で起こる「イジメ問題」そのもの。
人の心が関わる問題は、原因を探るのが難しいんです。しかしソフトコンピューティングを用いると、システム上で擬似的にクラスを作り、シミュレーションを繰り返せば原因が究明できます。やがてはイジメ問題の解決にも貢献できるのではないでしょうか。
現代は、複雑で難解な問題が次々と生まれています。これらをうまく解決するため、人間の知恵・判断に近いソフトコンピューティングを、幅広く活用していきたいですね。

ゼミ取材 こぼれ話
“ニューラルネットワーク”“ファジイ理論”“遺伝的アルゴリズム”“マルチエージェントシステム”先生の口からは、様々な用語が飛び出して来ます。いずれも“ソフトコンピューティング”を構成する技術のこと。問題によって応用する技術を使い分け、より求める解決策に近いものを導き出そう、というわけです。先生は言います。「学生によく言うのは“あきらめの悪い人間になれ”。わからないと思ってもそこであきらめず、粘って努力すれば、ちょっとでも答えに近づける。答えに到達できなくても、近づいた分だけ成長できる」。これは先生自身が、難解な問題を解決するためどの技術が使えるのかと、いつも粘って努力している...からこその言葉なのかも知れません。