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情報工学科

梅村 祥之

教員紹介

梅村 祥之UMEMURA Yoshiyuki

情報学部 情報工学科 教授

研究者情報

プロフィール

【専門分野】
○音楽情報処理
○画像処理
【担当科目】
画像処理基礎 、 画像処理応用 、 人工知能(学部及び大学院) 、 データ解析 、 情報工学基礎実験A
【研究テーマ】
1.音楽情報処理(自動作曲ほか)
2.映像処理(加工・生成、特徴抽出ほか)
【ひとこと】

Webで様々な情報が閲覧でき、高度で有用なフリーソフトをダウンロードして利用できる時代です。みなさんの好奇心しだいで、成長できます。

研究紹介

梅村 祥之UMEMURA Yoshiyuki

情報学部 情報工学科 教授

幾何学模様を利用して、自分好みの音楽を
自動で作れるシステム
PROLOGUE

通勤や通学の時、お気に入りの音楽を聞くとグッとテンションが上ります。また自分の部屋でゆったりした曲にひたると、気分が落ち着いて癒やされる…なんて人もいるでしょう。そうした音楽を、自動作曲するシステムは作れないか、と研究を続けているのが梅村先生。先生はいろんな角度から自動作曲にチャレンジしているのですが、中でも可能性が高そうなのが「幾何学模様」にあるらしいのです。幾何学模様から音楽を作るって、どういうことでしょう?

幾何学模様をなぞる2点を結ぶことで、音楽の基になる弦ができる

自動作曲についてはいろいろ研究されていますが、特に多いのがAIの活用です。ニューラルネットワークで大量の既存の曲を学習させ、AIに新たな曲を生み出させるのです。しかし大量の楽曲が必要ですし、何より「曲の生成過程がわからないブラックボックス」という課題があります。これでは、できた曲が「既に存在する曲の真似ではない」と証明できません。
私は以前から、自動作曲システムに取り組んできました。そして、幾何学模様(Spirograph)を利用した「スピロミューズ(SpiroMuse)」を開発したのです。
三角形や円などの図形を使って、フラクタルな幾何学模様をCG作成します。その模様を、まずA点になぞらせ、少し時間を遅らせてB点にもなぞらせます。A点とB点を直線で結ぶと、長さ・角度が刻々と変化する弦が発生します。この弦の変化を波形で表し、波形に合わせて音符を割り当てます。すると波形、すなわち弦の変化が、そのまま音楽になっていくのです。
波形に音符を割り当てた後、音符の長さ・高さを音楽ルールに合わせたり、コード(和音)処理するなど音楽的な調整を行えば、「作品」と呼べるような音楽が出来上がります。

幾何学模様から弦を作成。
弦の動きを波形に変換
A点が微細構造をたどる間に、
B点は緩やかな線をたどるため、
先にスタートするA点と、
遅れてスタートするB点を結ぶと、
伸び縮みする弦ができます
できた波形に5段階の音楽的処理を行って、
「作品」が完成

多重演奏も可能。図形によって曲調も変わる

同じ図形で、出発時間を変えたC点・D点を結ぶ2つ目の弦を作ります。するとA点・B点の弦とは異なりながら、共通性もある2つ目の波形ができます。つまり主旋律(A点・B点)に対する副旋律(C点・D点)が生まれるわけです。同様のやり方でいくつかの波形を作れば、多重演奏も可能になります。
雪の結晶のようなフラクタルな幾何学模様は、細部に行っても全体とよく似た形を成しています。この模様をなぞって音楽にすると、音楽で言う動機(モチーフ)が繰り返し登場することになります。動機の繰り返しによって音楽の主題が明確になるため、「単なる音の羅列」ではない「作品」になっていくのです。
私は1つの幾何学模様から、システムのパラメータをランダムに変更して50曲ほど生成しました。 聴き比べてみると、始めの10曲目くらいまで聴いて選曲すれば、その中に良い曲が入っていて、50曲全部調べるなくても良いかとがわかりました。つまり、苦労してあれこれパラメータをいじった末にようやく誕生するわけではない、ということです。
図形が変わると、曲のイメージも変わります。ある図形からはイージーリスニングのような爽やかな曲が生まれたり、別の図形からはバロック風の格調高い音楽ができたり。図形によって曲調が変わる点も、SpiroMuseの面白いところです。

同じ模様から複数の異なる弦を作成すると、
多重演奏が可能。
図形によってできる曲のイメージが変わります。

クラシック調ばかりでなく、ポップスやロックな音楽も作れる

他の手法による自動作曲システムも研究しています。山の稜線など地形を波形に置き換え、音符を割り当てて曲を作れないか、という「地形作曲」や、CGで魚の群れなどを再現し、群れの動きが設定した鍵盤に触れた時に音を鳴らす作曲法など、音楽に関わることはあらゆる角度から取り組んでいます。
中でも、SpiroMuseは最も有望ですね。今はクラシック風に仕上げることが多いですが、ポップス調やロック調などもできます。ゼミには、自分の好みに合わせてレゲエ調の曲を作れないか、とシステム改良に取り組む学生もいます。
波形から音楽に変換するプロセスの高精度化や、コード進行のバリエーションの多彩さなど、様々な点を見直し、システムをもっと向上させたいと考えています。そうすれば、生み出される音楽の多様性がさらに広がるでしょう。
楽器が弾けなくても、楽譜が読めなくても、一枚の幾何学模様があれば誰でも音楽が作り出せる。部屋の壁にかかった一枚の幾何学模様の絵から、部屋のムードにあったBGMが生まれる。そんな使い方のできるシステムになれば、私たちと音楽の関わりは、もっと楽しくなると思います。

単なる「音」ではない、
「作品」を自動生成するシステムの開発のため、
楽典など音楽の勉強も重ねています。