学部長メッセージ

生命学部長 松林 弘明

「食」と「医療」は世界的に重要な課題となっている。

世界の人口はすでに70億人を突破し、2050年には90億人に到達すると言われます。こうした中、2つの課題の重要度が増しています。

一つは「食」です。人口が爆発する新興国では、飢餓や栄養不足に苦しむ人も多くなっています。また食の安全性確保という問題も無視できません。もう一つが「医療」です。今後は先進国の大半で少子高齢化が進行します。それに伴い、医療と介護の問題が顕在化するでしょう。今、世界全体が「食」と「医療」の問題に向き合っています。そんな時代を背景として2012年に誕生したのが「生命学部」なのです。

本学部には、「生体医工学科」と「食品生命科学科」の2学科が設置されています。生体医工学科が目標とするのは、医学に加え、電気・電子工学や情報処理工学の知識を持った臨床工学技士の養成です。食品生命科学科では、食品科学と生命科学を基盤に、食品の開発・製造・流通・管理に関わる専門知識を身につけ、さらに微生物・動物・植物・環境バイオテクノロジーにも精通したスペシャリストを育成します。

両学科とも、理論だけでなく実習を豊富に取り入れ、さらには生命に対する高い倫理観の醸成までも視野に入れているのが特徴です。

高度医療を支える「臨床工学技士」を養成する生体医工学科

昨今の高度医療には、人工心肺装置や人工透析装置といった機器が不可欠です。これらを使いこなすには、機器の機械的・電気的特性を知らなければなりません。その点、広島工業大学には、工学の蓄積があります。機械や電気・電子、情報処理のベースがあるため、機器操作や改善に必要な知識を修得しやすいのです。

本学科では学生の意欲を高めるため、1~2ヶ月に1度、現役の臨床工学技士を招き、現場で活躍するプロの声を聞く機会を設けています。さらに手術室やICU(集中治療室)など病院の現場と同等の設備を用意して授業や実習に活かしたり、6週間の病院実習も実施するなど、さまざまな工夫を重ね確かな技術の修得につなげています。

またチーム医療の一員として医師と意見交換したり、患者と対話することもある臨床工学技士には、コミュニケーション能力も大事。そこで、コミュニケーション能力のアップにつながる学生の活動を積極的に評価するよう、制度を整えました。

今後、医療機器は、いっそう高度化するでしょう。診断・治療を行うロボットが登場するかもしれません。こうした社会の要請に応えられる、能力の高い臨床工学技士を輩出していきます。

食とバイオに関するスペシャリストを育てる食品生命科学科

一口に「食」と言っても、製造・管理、新商品開発、流通管理など、領域は多彩。各領域で専門家が力を発揮するからこそ、「日本の食は安全でおいしい」と世界中でブームなのです。一方、「バイオ」は、日本は世界の先頭を走る分野であり、市場規模は国内だけで7兆円とされます。共に世界のトップクラスにある2つの分野を同時に学べるのが、食品生命科学科の魅力と言えるでしょう。

広島県には清酒・味噌・ソース・酢・パンなど、醸造・発酵技術を用いる食品メーカーのほか、全国規模の食品企業が多数あります。これらの企業と協力し、新商品開発に取り組む先生もいます。研究を通じ、企業の現場を体感するチャンスが、本学科には豊富にあるわけです。そうした活動のおかげか、本学科卒業生の就職率は98%以上と高く、多くが地元の食品関連メーカーに進んでいます。この実績を基盤に、今後はバイオ関連企業とも連携を深めていくつもりです。

食品の質と安全性を高めるには、物事を理論的にとらえるという科学的な思考が欠かせません。工学系をベースとする本学科には、そうした思考を重視する姿勢が根付いています。本学科の学生に対する企業の評価が高いのも、この姿勢によるところがあるのではないでしょうか。

足るを知る、知るは足らず。

「足るを知る」とは中国の思想家、老子の言葉で「足るを知る者は富み、強めて行う者は志有り」(満足を知っている者は富者であり、努力している者は志がある)と続きます。人間の欲望にはきりがない、欲深くならず分相応で満足できる者は、心が富んで豊かに生きられる...そんな人生の真理を表しています。
しかし学究の道を歩む者においては、知ったことに満足せず、さらに上を目指してほしい。そんな意を込めて、私は「知るは足らず」と付け加えています。