河川整備と里山再生。双方の課題を実現するため着目したのは、"放置竹林"だった。

2017年12月18日

学生2人が日本建築学会でタジマ奨励賞を受賞
コンペこそ、建築家としての技量を磨くチャンス

実践的な場での切磋琢磨こそ、建築家としての能力・スキルアップにつながる。そんな考えのもと、建築工学科・向山研究室では建築関係のコンペに、積極的に学生が参加しています。
同研究室に所属する玉井佑典君と川岡聖夏さん(ともに4年生)は、日本建築学会が主催する「日本建築学会設計競技」に挑戦しました。競技会では統一のテーマが設定されます。今年のテーマは「地域の素材から立ち現れる建築」。全国で建築を学ぶ学部生・大学院生、あるいは建築関係の社会人から、このテーマに沿った多数の建築作品が集まりました。
そして玉井君と川岡さんの提案した建築物は、学部生による優秀作品TOP10に贈られる「タジマ奨励賞」を受賞したのです。

2人が提案した作品は「Stone & Bamboo」。広島県の北西部に位置する淺原(あさはら)地区の小瀬川周辺を対象に、里山機能の向上や魅力づくりに貢献することを目的としたものです。

タジマ奨励賞の賞状を手にする玉井君(写真左)と川岡さん(写真右)

タジマ奨励賞の賞状を手にする玉井君(写真左)と川岡さん(写真右)

地域の課題を解決し、同時に里山の魅力アップにつなげたい

2人は今回、地域に眠る「素材」を最大限に生かして、これまでにない新しい発想で建築を創造するというテーマに挑戦し、その中で、地域の素材として、「石(Stone)」と「竹(Bamboo)」に着目。

「全国的に放置竹林が問題になっていますが、淺原(あさはら)地区も例外ではありませんでした。竹は放っておくとどんどん根が伸びて繁殖し、周囲の樹木を圧迫します。また、景観だけではなく、生い茂った竹林内には光が届かず、生態系にも無視できない影響を与えてしまうんです。
一方、川に恵まれた広島は、河川整備という大きな課題も抱えています。そこで、河川整備と放置竹林の解消という2つの課題を同時に解決するため、土地に由来する竹と河原の石を使った提案を行いました。それだけにとどまらず、里山の魅力アップにも活用できないか、と工夫してみました」

玉井君は2年生のときから建築工学科のメンバーで構成する活動グループ「建築屋たち」に参加。建築技術を活かしながら、さまざま地域課題に取り組んでいます。

玉井君は2年生のときから建築工学科のメンバーで構成する活動グループ「建築屋たち」に参加。建築技術を活かしながら、さまざま地域課題に取り組んでいます。

川岡さんは女子学生キャリアデザインセンター(JCDセンター)のメンバーとして、後輩の女子学生のサポートや、JCDセンターが企画するプロジェクトにも参加しています。

川岡さんは女子学生キャリアデザインセンター(JCDセンター)のメンバーとして、後輩の女子学生のサポートや、JCDセンターが企画するプロジェクトにも参加しています。

邪魔モノの竹を、地域資源として活用する

「竹はまず根切りを行い、竹やぶの拡大を食い止めます。河川整備については河原の石を頑丈な金属製の網で包み、小さな堤を不連続に築きます。仮に大雨などで水量が増しても、風車状に幾重も設置された堤にぶつかることでそこに滞留するため、流速は減衰します。これによって氾濫などの河川災害を食い止められるわけです。これは『信玄堤』と呼ばれる、古くからある土木技術なんですよ」(玉井君)
「堤の延長線上の壁には、トラス(三角)状に組んだ竹を架けて屋根を造ります。その下に生まれたスペースを、レストランやギフトショップ、工房、湯処などとして利用するのです。レストランではタケノコを使ったメニューを揃え、工房では竹を素材とする竹紙づくりが体験できるようにします。湯処で燃料に使うのも竹チップです。つまり、竹という資源を循環させながら、人々が楽しめる空間をつくり出すわけです。
常に人の手が入ることによって竹林が整備され、動物や植物の生態系をよみがえらせることも可能になる、と考えています」(川岡さん)

川の流れを滞留させるように、風車上に石の堤を配置。これは『信玄堤』と呼ばれるものです。

川の流れを滞留させるように、風車上に石の堤を配置。これは『信玄堤』と呼ばれるものです。

堤の先には、竹で組んだ三角状の屋根を配置。下のスペースをレストランなどに活用します。反対側のスペース(写真左側)は遊水林として活用。竹の根切を行って生育を管理しつつ、野生動植物が生息できるビオトープにします。

堤の先には、竹で組んだ三角状の屋根を配置。下のスペースをレストランなどに活用します。反対側のスペース(写真左側)は遊水林として活用。竹の根切を行って生育を管理しつつ、野生動植物が生息できるビオトープにします。

コンセプトを強調するため、敢えて手描きパースで

「実は今回の作品は、研究室の先輩の卒業研究がベースになっています。提出期限までのスケジュールはタイトでしたが、ベースがあった分、模型を作ったり、パースを書いたり...と、作品にいかにインパクトを持たせるかという部分に時間を割くことができました」(玉井君)
「中でもパースは、先生のアドバイスを受けて、手描きで作成しました。今はパソコンで書かれたキレイに描かれたパースが主流なのですが、今回の場合、手描きの方が"竹と石による里山の再生"というコンセプトとマッチする、と考えました。おかげで審査員の目に留まりやすかったのも良かったのではないかと思います」(川岡さん)

手描きのパースを多用した提案書。竹と石による里山機能向上というコンセプトをよく表している、と評価を得ました。

手描きのパースを多用した提案書。竹と石による里山機能向上というコンセプトをよく表している、と評価を得ました。

「競技会では、単なる構想ではなく具体的な形として表現しなければいけません。そうした場数を何度も経験することによって、

「競技会では、単なる構想ではなく具体的な形として表現しなければいけません。そうした場数を何度も経験することによって、"やりきる力"が身につきます」

地域の人々に感動を与える建築物を手がけたい

「鉛筆で仕上げて、提案までやりきった。この経験を積めたことが、自分にとっては大きな成果です。卒業設計も手書きでインパクトのあるものにしたいと思っています」(玉井君)
"地域の特性を生かした建物をつくる"という考え方は、今取り組んでいる卒業設計にも通じます。とても参考になりました」川岡さん)

「今回、自分たちが先輩の研究をベースにしたように、後輩たちの研究の役に立つようなものを残したい。そのために、もっと研究内容をレベルアップさせていきたいです」

「今回、自分たちが先輩の研究をベースにしたように、後輩たちの研究の役に立つようなものを残したい。そのために、もっと研究内容をレベルアップさせていきたいです」

「興味を持った建築物は、出来るだけ現地に足を運んで実物を見るようにしています。そんな中で、心が震えるような建築物に出会うことがあるんです。最近では、香川県にある豊島美術館が素晴らしく、いつか自分も、誰かに感動を与えられるような建築物を手掛けてみたいです」(玉井君)
「"地域の魅力・資源を最大限生かした、その場所だからこそできる提案"にこだわっていきたいと思います。そこで暮らす人々に喜んでもらえるような建築に携わることができたらうれしいです」(川岡さん)