未来の建築家が挑むコンテスト―その1 木の家設計グランプリで最優秀賞を受賞

2018年02月16日

120作の応募の中から頂点へ
木造建築の可能性を追求する、現役の建築家でもある建築工学科の向山徹准教授。「建築は幅広い視野で考えないと、社会に役立つものにはならない」と考え、学生に積極的にコンペ参加を促しています。
2017木の家設計グランプリには、向山ゼミの3年生が、3グループに分かれエントリー。全120作の応募の中から見事、2つの賞を受賞しました。今回は、最優秀賞のグループを紹介します。

最優秀賞を受賞した林建吾さん(佐伯高校)、中村凌さん(美鈴が丘高校)、都田あゆみさん(基町高校)「ずれが織りなす再起の住まい」

最優秀賞を受賞した林建吾さん(佐伯高校)、中村凌さん(美鈴が丘高校)、都田あゆみさん(基町高校)「ずれが織りなす再起の住まい」

2017木の家設計グランプリとは
将来建築を支える学生に、日本の気候風土に合った木造建築の素晴らしさや面白さを感じてもらうことを目的に開催されています。課題テーマは「働く家を考える~働くことが暮らすこと...仕事場のある住まい~」。対象敷地は住宅地。家族構成は母、娘夫婦、子ども2人で、夫婦は敷地内に働く場を持つが職種は自由。応募資格は高校生~大学院修士までの建築学生。

最優秀賞受賞「ずれが織りなす再起の住まい」

団地の2区画分をつなぎ、段差を生かす
林さん、中村さん、都田さんのグループが最初に行ったのは、敷地調査でした。広島市内によくある丘陵団地を候補とし、実際に3カ所に足を運んで現場を確認。設計条件が「延べ床面積100坪」と広かったので、2区画分と判断。上下2区画を使い、その段差を生かそうと決めました。

模型で見る段差。一見マイナスと捉えがちな段差をうまく生かせたのも、敷地調査を大切にし、実際に足を運んで目視を行ったからです。

模型で見る段差。一見マイナスと捉えがちな段差をうまく生かせたのも、敷地調査を大切にし、実際に足を運んで目視を行ったからです。

チームで取り組むからこそ出たアイデア
敷地が決まったら、次は自分たちのイメージを絵で表し、形を決めていきます。「どんどん描いて、仮模型を作って、衝突し、話し合う、を繰り返しました」と都田さん。作品名にある「ずれ」は、中村さんが最初に作った仮模型が、屋根の高低差がありでこぼこだったところから生まれたアイデア。ずらすことで空間が生まれることに気付き、話し合いを重ねるうちに「壁をずらし開放感を持たせたらいいのでは?」と意見がまとまりました。向山先生に「そういう考え方もある」と背中を押してもらい、3人の挑戦がスタートしました。

壁をずらしたことで生まれた開放感のある空間に。左から林さん、中村さん、都田さん

壁をずらしたことで生まれた開放感のある空間に。左から林さん、中村さん、都田さん

「緑で緩くつながり、里道で交流できる」家
「緑に包まれた空間にしよう」「人工的に区画された境界線が、周囲との関係性を断っているのでは」という意見から、ずれが作り出す空間に緑や庭を配置。きっちりと境界された土地を緑で緩くつなげました。テーマの「働くことが暮らすこと」に沿い、コミュニティの在り方を考え、隣の家との間に「里道」を設け地域住民が通れる工夫も。その結果、「緑が境界線を曖昧にし、里道が交流スペースの役割を果たす案が生まれました」と中村さん。

すぐ隣には家がある前提ゆえ、里道を通って中央にある私設図書館へ向かう。自由に行き来できる交流スペースでもあります。

すぐ隣には家がある前提ゆえ、里道を通って中央にある私設図書館へ向かう。自由に行き来できる交流スペースでもあります。

まずは「手を動かさないと何にもならない」
イメージを書き、意見を出し、仮模型を作る。行き詰ると向山先生の「手を動かさないと何もならない」という言葉を思い出し、林さんは「とにかく書きました」と話します。途中インターンシップもあり時間がない中、このチームの設計図書(※) は何と手書き!「普通はCADで図面を描くのですが、他のコンペで設計図書を手描きしていた先輩の助言もあり、3人で力を合わせ完成させました」と中村さん。向山先生と先輩の教えが生きた、繊細な手描きの設計図書を応募しました。
※設計図書:建築物の施工に必要な図面や仕様書など

普段から手を動かしているからこそ完成した、手書きの設計図書。先輩も手書きの設計図で入賞を果たしています。

普段から手を動かしているからこそ完成した、手書きの設計図書。先輩も手書きの設計図で入賞を果たしています。

現役学生と、日本を代表する建築家が熱くぶつかるコンテスト本番
審査会場は、京都市にある京都造形芸術大学 瓜生山キャンパス。苦労して完成させた設計図書と模型を前に、審査員の先生や、コンペ協賛の会社の方から質問が寄せられます。代表して問いに答えた中村さんは「プロからの質問は緊張しましたが、貴重な経験でした。用意していた内容をきちんと答えることができました」と感想。実際に手を動かし続けた日々が、この日の自信につながったのでしょう。

コンペ会場の様子

コンペ会場の様子

今までの努力が実ったファイナル審査、そして最優秀賞
ベスト20選出の後、まさかのベスト10に選ばれた「ずれが織りなす再起の住まい」。午後からのファイナル審査のプレゼンは都田さんと林さんが行いました。「大学院の人は発表がうまく、見たこともない素晴らしい案がたくさんありました。聞いていておもしろいし、突っ込まれても自信を持って堂々と答えていて、圧倒されました」と振り返る都田さん。しかし、軍配は、全く賞など予想していなかった3人に上がったのです。

最優秀賞を獲得できた理由
「私たちだけでなく、向山ゼミの3グループとも『模型のレベルが高い』という評価をいただいたんです」と話す都田さん。向山ゼミの伝統、手を動かした結果が実を結んだ形です。また、「本が好きなので、図書館の空間には妥協せずこだわりました。壁をずらして配置することで、開放感がありつつもプライバシーが守れるスペースになりました。しかし完全に閉ざされたわけではないので、どこかに人の気配を感じながら仕事ができます」と勝因を振り返ります。
林さんは「学校が近く、児童も集える、地域とのつながりを持たせたのがよかったのでは」とコンセプト面を評価。
「一人ではきっと模型も案も偏っていたと思う。3人だから獲得できた最優秀賞。つらかったけれど、妥協せず頑張ったことは財産です!」と、中村さんはチーム力に感謝していました。

最優秀賞の賞状

最優秀賞の賞状

苦労と喜びを振り返ってくれた3人。コンペへ挑んだ経験、最優秀賞受賞の喜びは、きっとこれからの人生の糧となることでしょう。次回は、最優秀賞には及ばなかったものの、見事アンダー20賞に輝いたグループを紹介します。