"部室"をもっと快適に~最優秀賞を獲得した環境デザイン学科4年生(受賞時)の建物が完成

2018年03月25日

※環境デザイン学科は、2016年より建築デザイン学科に名称変更しました。

学生の斬新な発想による部室が誕生

魅力的な建築物を生み出す、クリエイティブな建築系人材の育成を後押ししようとの主旨のもと、広島県は2013年から「ひろしま建築学生チャレンジコンペ」を主催しています。広島県が小規模公共物のデザインを募集し、優秀作を選出。最優秀に選ばれると、実際の建築物になります。まさに、建築分野の学生にとって自らの発想と技術を試す格好の場なのです。2016年度までは広島県内在住の建築系学生が対象でしたが、2017年から全国に門戸が開かれるなど、規模が拡大しています。

2016年度の同コンペに寄せられた応募作品は50。この中で最優秀賞を獲得したのが、藤原陽平さん、林聖人さん、岡田直果さん(共に環境学部・環境デザイン学科4年 ※2016年の受賞当時)の作品です。
3人の作品は事業化され建築を開始。そして2018年2月24日、完成した建物を見学する式典が開催されました。

2016年「ひろしま建築学生チャレンジコンペ」の舞台となった、県立広島工業高校。同校の敷地内に建設された野球部・弓道部部室を前に、完成式典が開催されました。

2016年「ひろしま建築学生チャレンジコンペ」の舞台となった、県立広島工業高校。同校の敷地内に建設された野球部・弓道部部室を前に、完成式典が開催されました。

空気環境をデザインした"大屋根"

コンペの対象となった建築物は、広島県立工業高校の野球部・弓道部部室。その提案にあたり、藤原さん、林さん、岡田さんがコンセプトとしたのは未来を支える大屋根でした。
部室とは本来、生徒が部活動を円滑に行うための快適な空間であるはず。その快適性を創出する点に3人は工夫を凝らし、「大屋根」を思いつきました。

3人のデザインした部室の上には、広く延びる切妻屋根(※) が乗っています。他の部室の屋根と形状が似ており、校内景観にマッチした印象を与えます。
しかし中に入ると、3人のアイデアが見えてきます。敢えて天井板は貼らず、鉄骨と木製のルーバー(※) で屋根を支える構造を採用(写真1)。そのルーバーが長く伸び、ひさしを形成します。天井板がなく、ルーバーを通して外気が常に内部に入ってきて、内部空間が換気されます(写真2)。そのため、びっしょり汗をかいた部員たちが部屋に戻ってきても、湿気や匂いがこもらず、快適に過ごせるのです。またルーバーを木製にしたことで、ルーバーを通る風や光に温かみを加えています。
※切妻屋根:2面で山型の形状の屋根
※ルーバー:細長い羽板を隙間をあけて平行に並べたもの

作品の選定にあたった審査員の方々も、これらの点を高く評価。「小屋裏(屋根と天井の間の空間)を外気とつなぐというアイデアがユニーク。室内にいつもさわやかで温かな空気が存在している。"空気環境をデザインした"点が素晴らしい」「表層的なインパクトではなく、設計に携わる現場の設計者が気づいていない価値観、切り口で取り組んでいる。とても学生らしいアイデア」といったコメントをいただきました。

完成した野球部・弓道部の部室。「大屋根」の名にふさわしい大きな屋根は、ひさしの部分が長くなっています。雨が降っても部室前の通路を自由に通過でき、出入口も全部開放できるよう配慮されています。

完成した野球部・弓道部の部室。「大屋根」の名にふさわしい大きな屋根は、ひさしの部分が長くなっています。雨が降っても部室前の通路を自由に通過でき、出入口も全部開放できるよう配慮されています。

※写真1部室の内部から天井を見上げると、こんな感じ。木製のルーバーと鉄骨で屋根を支えているのがわかります。木製のルーバーが、光に柔らかさと温かみを与えます。

※写真1
部室の内部から天井を見上げると、こんな感じ。木製のルーバーと鉄骨で屋根を支えているのがわかります。木製のルーバーが、光に柔らかさと温かみを与えます。

※写真2屋根と居室の間に配置された木製のルーバー。このルーバーを通して部室内部と外部がつながっているため、常に外部の空気が中に入ってきます。

※写真2
屋根と居室の間に配置された木製のルーバー。このルーバーを通して部室内部と外部がつながっているため、常に外部の空気が中に入ってきます。

「ここにやってきて、建てられた部室の影を見た時、建物の持つオーラを感じた。このフレッシュなアイデアを持った作品を最優秀賞に選定して本当に良かった」と語る、審査員を務めたナフ・アーキテクト&デザインの中薗哲也氏。

「ここにやってきて、建てられた部室の影を見た時、建物の持つオーラを感じた。このフレッシュなアイデアを持った作品を最優秀賞に選定して本当に良かった」と語る、審査員を務めたナフ・アーキテクト&デザインの中薗哲也氏。

人が意識しなくても、快適さを保てる環境

案をまとめるにあたって、どんな苦労があったのか。受賞者の3人にお話をお聞きしました。

「部活動を終え、汗をかいて帰ってくる。そこで着替えるのだから、換気の良くない環境だと、匂いがこもってしまいます。そこにフォーカスして、部員が意識しなくても常にきれいな環境を保てるよう、クリエイティブな要素を入れていきました」(藤原さん)
「コンセプトを固めるのが大変でした。授業や実習で学んだとは言え、やはり知識が不十分で。今回の建築物がどういう価値を求めているのか、3人でいろいろ意見を出し合って、少しずつ形にしていった感じです」(岡田さん)
「造形的なインパクトがなく、平面図を起こしながら、"コンペでちゃんと評価されるか"とずっと不安でした。でもルーバーを木製にすれば温かみも柔らかさも出る、などのアイデアが出始め、自信の持てる作品になってきました」(林さん)

「審査評で"天井を張らないことで常に換気が保てる。その発想がチャレンジングだ"と言っていただいたことが嬉しかったですね。そこが一番、力を入れた点だったので」と藤原さん

「審査評で"天井を張らないことで常に換気が保てる。その発想がチャレンジングだ"と言っていただいたことが嬉しかったですね。そこが一番、力を入れた点だったので」と藤原さん

「コンペを通じ、改めて実感したのが"素材"の重要性です。素材は建築の顔。それを理解できたのが最大の収穫でした。現在、建築事務所に勤務していますが、仕事でいつもそのことを思い返しています」と林さん

「コンペを通じ、改めて実感したのが"素材"の重要性です。素材は建築の顔。それを理解できたのが最大の収穫でした。現在、建築事務所に勤務していますが、仕事でいつもそのことを思い返しています」と林さん

「限られた予算内でどうやってアイデアを反映し、建物として成立させるか。それを学ぶいい機会になりました。村上先生から受けた指導は、今の仕事に大きな影響を与えています」と岡田さん

「限られた予算内でどうやってアイデアを反映し、建物として成立させるか。それを学ぶいい機会になりました。村上先生から受けた指導は、今の仕事に大きな影響を与えています」と岡田さん

建築の基礎と実践をバランス良く学べる

広島工業大学の建築系の学科では、こうした学外のコンペに学生が積極的に参加しています。「ひろしま建築学生チャレンジコンペ」も、2014年~2016年の3年連続で建築デザイン学科の学生が最優秀賞を受賞しました。学生の指導にあたってきた村上先生は語ります。

「建築デザイン学科では、基礎理論はもちろん、建築の実務も修得できます。両方をバランスよく学べる環境が、チャレンジ精神溢れる学生を育てるのでしょう。4年生がコンペで優秀な成績を取ると、3年生も"負けていられない"となる。3年連続の最優秀賞受賞は、そんな良い連鎖のおかげです」

受賞者3人のプランを引き継ぎ、実施設計や施工の段階での管理・確認作業を行った現役の学生も式典に参加。
「アイデアをどうやって実際の建築にしていくのか、貴重なプロセスを学べました」「材料や施工法もわかっていないと、よい建築はできないと理解できました」「自分たちもいつかコンペで高く評価されるような作品がつくりたい」と大いに刺激を受けていたようです。

3人の指導にあたった村上先生(建築デザイン学科)※「今回の作品の木製ルーバーという優れた工夫は、私が何か働きかけたわけではなく、学生たちの自主的な発案によるもの。このような画期的なアイデアが出せる点に、彼らの可能性を感じます」※村上先生は、2018年4月に名誉教授になられました。

3人の指導にあたった村上先生(建築デザイン学科)※
「今回の作品の木製ルーバーという優れた工夫は、私が何か働きかけたわけではなく、学生たちの自主的な発案によるもの。このような画期的なアイデアが出せる点に、彼らの可能性を感じます」
※村上先生は、2018年4月に名誉教授になられました。

3人の先輩が残したプランを引き継いだ、建築デザイン学科4年(2018年3月時点)の左から二反田さん(県立広島工業高校)、三坂さん(県立広島工業高校)、湯浅さん(市立広島工業高校)「美しい建物とは、外観だけでなく細かな部分の設計や施工まで行き届いている。建物の機能を果たしているからこそ、外観も美しくなるのだということを学びました」

3人の先輩が残したプランを引き継いだ、環境デザイン学科4年(2018年3月時点)の左から二反田さん(県立広島工業高校)、三坂さん(県立広島工業高校)、湯浅さん(市立広島工業高校)。「美しい建物とは、外観だけでなく細かな部分の設計や施工まで行き届いている。建物の機能を果たしているからこそ、外観も美しくなるのだということを学びました」

今回誕生した部室は、ここで長く使われるばかりでなく、他の部室の建て替えを行う際にも参考とされるでしょう。
広島の街の新たな魅力を創造するため、あるいは建築における次のスタンダードを生み出すために、建築デザイン学科の学生たちはチャレンジングなプランを練っています。