ゲームで社会の未来像を学ぶ。 ~建築工学科・初年次ゼミナール

2018年08月10日

西日本の大学で初の公共施設マネジメント・シミュレーション

「さあ、ゲームを始めましょう」
学生たちに語りかけるアドバイザーの声。
と言っても、遊びではありません。これは授業です。
それも恐らく、西日本の大学で行われるのは初めての。

少子高齢化で高齢者が増える一方、税収増は望めない。そんな中、これまで通りの行政サービスを提供するには、従来とは異なる大胆な発想が欠かせません。
社会の未来にどんな発想が必要か、公共施設マネジメント(FM)という観点から学んでいこう、というのがゲームの趣旨。チャレンジしたのは、入学して日も浅い建築工学科の1年生・約90名です。

「初年次ゼミナール」は1年生を対象に、各学科で提供する専門分野の学びについて、興味を深めてもらうためのもの。今回行われるのは、FMをテーマとするシミュレーションゲーム。1年生はまだFMについて詳しくありません。うまくゴールを果たせるでしょうか?

「初年次ゼミナール」は1年生を対象に、各学科で提供する専門分野の学びについて、興味を深めてもらうためのもの。今回行われるのは、FMをテーマとするシミュレーションゲーム。1年生はまだFMについて詳しくありません。うまくゴールを果たせるでしょうか?

FMゲームに使用するアイテム。「A地区」「B地区」とエリアを示すカードもあれば、「福祉センター」「小学校」など施設を示すカードも。ひときわ大きい「社会情勢カード」には、「2045年(30年後)」などと書かれていますが...。

FMゲームに使用するアイテム。「A地区」「B地区」とエリアを示すカードもあれば、「福祉センター」「小学校」など施設を示すカードも。ひときわ大きい「社会情勢カード」には、「2045年(30年後)」などと書かれていますが...。

「お金」を余らせながら、子供・高齢者福祉を充実させるには?

「最初に、準備です。A地区、B地区と書かれたエリアカードを並べてください」
1グループ10名程度に分かれた学生たちは、アドバイザーの指示に従ってエリアカードを順番に並べました。

<準備>
1)A地区、B地区、C地区、D地区と書かれたエリアカード4枚を並べる。
2)社会情勢カードを裏にしたまま(カードの指示が読めない状態)で横に置く。
3)エリアカードの左下の「初期設定」を読み上げる。
4)初期設定に沿って、「小学校」「図書館」「福祉センター」「公民館」などの施設カードを、各エリアカード内に配置する。
5)初期設定に沿って、赤の「子供」コマ、青の「高齢者」コマを施設カード内に、寝かせた状態で配置する。(赤・青コマ1つ=1000人)
6)初期設定に沿って、黄色の「お金」コマを施設カード内に配置する。(黄色コマ1つ=1億円)

<目的>
1)エリアカード内の「人口待機エリア」に待機する子供と高齢者をゼロにする。(小学校や福祉センターなど、どれかの施設に収容する)
2)お金をできる限り多く余らせる。

<ルール>
1)施設を新設する場合、予算が必要。またエリア内に施設を造るスペースが必要。
2)同一エリア内に同じ機能の施設は複数個設置できない。
3)施設内の子供・高齢者コマがなくなれば、その施設は廃止できる。施設にかかっていたお金コマは回収でき、別の予算として使える。
4)施設は複合化できる。小学校と図書館、公民館と福祉センターなどを複合化すれば、一つの施設に多くの子供・高齢者が収容でき、予算・スペースを余らせることができる。
5)子供・高齢者コマは隣り合う地区に移動させることができる(1回のみ。斜めの地区移動はできない)

「準備が整ったら、スタートです。1枚目の社会情勢カード、"2030年"をめくって、指示に従ってください」
アドバイザーの合図に、各テーブルで学生たちがコマや施設カードを動かしはじめました。

初期設定の状態。人口待機エリア(各地区カードの右下)に待機状態の子供・高齢者コマもなく、予算も各施設に充当されています。しかし「社会情勢カード(2030年)」をめくると、状況が一変します。

初期設定の状態。人口待機エリア(各地区カードの右下)に待機状態の子供・高齢者コマもなく、予算も各施設に充当されています。しかし「社会情勢カード(2030年)」をめくると、状況が一変します。

「ここに赤のコマを置けばいいんだよね?」「最初は寝かせて置くんだよ。そして隣の地区に移動させた子供・高齢者コマは立たせる」学生同士でルールを教え合いながら、初期配置の形に近づけていきます。

「ここに赤のコマを置けばいいんだよね?」「最初は寝かせて置くんだよ。そして隣の地区に移動させた子供・高齢者コマは立たせる」学生同士でルールを教え合いながら、初期配置の形に近づけていきます。

2030年の社会情勢カードには「子供が2000人減少、高齢者が3000人増加、施設予算2億円以上削減」と社会変動を示す言葉が。そして「B・C地区から子供コマを1つずつ取り除き、B・C・D地区の人口待機エリアに高齢者コマを1つずつ置いて下さい」と書かれています。この人口待機エリアのコマをなくし(=施設に収容し)、同時にお金コマを2つ以上、余らせないといけません。

2030年の社会情勢カードには「子供が2000人減少、高齢者が3000人増加、施設予算2億円以上削減」と社会変動を示す言葉が。そして「B・C地区から子供コマを1つずつ取り除き、B・C・D地区の人口待機エリアに高齢者コマを1つずつ置いて下さい」と書かれています。この人口待機エリアのコマをなくし(=施設に収容し)、同時にお金コマを2つ以上、余らせないといけません。

答えは一つじゃない。自分たちで何が適切か判断しないといけない。

各グループの学生たちが頭をひねります。
「正解は一つではありません」
とアドバイザーは付け加えますが、一つでないから、余計に難しいのです。学生自身が「これが適切じゃないか?」と判断しなければいけません。

「公民館はコマの収容数が少ないよね。時代に合わないから、廃止しよう」
「そんな簡単に施設を廃止してもいいの? 後で困らないか?」
「廃止して福祉センターを作った方がいいじゃん」
「公民館1つの廃止じゃ福祉センターは作れない。予算が足りない」
「高齢者コマを1つ、DからCへ移動させては? Cの福祉センターは十分空きがある」
学生たちは意見を交わしながらコマを動かし、少しずつ状況を改善していきます。
ゲームに夢中になりながら、学生たちは行政サービス実現のためどのような条件を克服しなければならないか、を学んでいきます。

「C地区に人口と施設が集まり過ぎじゃない」「本当だ、D地区が寂しい感じになってきたよ」「他にいい策はないか」学生たちは知恵を絞ります。

「C地区に人口と施設が集まり過ぎじゃない」「本当だ、D地区が寂しい感じになってきたよ」「他にいい策はないか」学生たちは知恵を絞ります。

「この高齢者コマを一つ動かせれば、施設をもっと小規模にして、予算を余らせることができるんだけど」という意見に「規模を小さくたら、高齢者のみなさんが不便に感じないかな?」と疑問を呈する学生。このゲームは「不便かどうか」までを考慮するものではありません。しかし現実の福祉は単純な数合わせではないことを、1年生が感じ出したようです。

「この高齢者コマを一つ動かせれば、施設をもっと小規模にして、予算を余らせることができるんだけど」という意見に「規模を小さくたら、高齢者のみなさんが不便に感じないかな?」と疑問を呈する学生。このゲームは「不便かどうか」までを考慮するものではありません。しかし現実の福祉は単純な数合わせではないことを、1年生が感じ出したようです。

「D地区に公民館を新設すればいいじゃん」「それより公民館と福祉センターを複合化したらどうだろう」「予算はどれくらい余るかな」「予算より、人口待機エリアの人を収容することを優先しよう」それぞれの考え方の違いでぶつかり合いながら、学生たちの共通のゴールに向かって徐々に協調し始めます。

「D地区に公民館を新設すればいいじゃん」「それより公民館と福祉センターを複合化したらどうだろう」「予算はどれくらい余るかな」「予算より、人口待機エリアの人を収容することを優先しよう」それぞれの考え方の違いでぶつかり合いながら、学生たちの共通のゴールに向かって徐々に協調し始めます。

2030年の課題を何とかクリアしたと思ったら、社会情勢カードはもう一つありました。それは2045年の社会情勢を示し、それに応じた公共施設の配置を考えよ、というもの。一段と子供は減り、高齢者が増え、税収も減るという予測を目の当たりにし、学生たちは社会の抱える課題の大きさを実感していました。

「2030年の課題を何とかクリアしたと思ったら、社会情勢カードはもう一つありました。それは2045年の社会情勢を示し、それに応じた公共施設の配置を考えよ、というもの。一段と子供は減り、高齢者が増え、税収も減るという予測を目の当たりにし、学生たちは社会の抱える課題の大きさを実感していました。

公共施設マネジメントの面白さと共に、社会の抱える課題を実感

ゲーム終了後、グループごとに最終状況を発表。人口待機エリアに子供・高齢者コマを残したままのグループはありませんでしたが、余らせたお金コマは0~5までと差がありました。施設の改廃や複合に積極的に取り組んだグループは、より多くのお金を余らせることができたようです。
シミュレーションゲームを通し、学生たちは公共施設マネジメントとは何かを学びました。そして日本の抱える課題を理解するきっかけとなったようです。

「施設を工夫してお金を余らせるだけなのに、スペースや収容人数の制約があってうまくいかなかった。お金を余らせるのがこれほど大変だとは思いませんでした」「15年後、30年後にこれだけ高齢者が増えるのか、と改めて実感しました。現実には人口待機エリアにずっと置いておけないので、しっかり考えないといけないと思います」と語る、建築工学科・1年の齊藤智香さん(左)と齋藤恵さん(右)

「施設を工夫してお金を余らせるだけなのに、スペースや収容人数の制約があってうまくいかなかった。お金を余らせるのがこれほど大変だとは思いませんでした」「15年後、30年後にこれだけ高齢者が増えるのか、と改めて実感しました。現実には人口待機エリアにずっと置いておけないので、しっかり考えないといけないと思います」と語る、建築工学科・1年の齊藤智香さん(左)と齋藤恵さん(右)

「ゲームは思った以上にうまくまとまりました。お金コマも5つ余らせることができ、成功じゃないかと思います。みんなで意見を出し合い、いいアイデアを取り入れたのが良かったのではないでしょうか」と建築工学科・1年の杉原健人さん。

「ゲームは思った以上にうまくまとまりました。お金コマも5つ余らせることができ、成功じゃないかと思います。みんなで意見を出し合い、いいアイデアを取り入れたのが良かったのではないでしょうか」と建築工学科・1年の杉原健人さん。

「ゲームとしては2030年、2045年の2つの段階だけど、現実はその間にもいろんな変化が起こります。さらに2045年以降も社会は続いていくのだから、より厳しくなる状況にきちんと対処していかないといけません。ゲームを通して、現実の厳しさも理解できました」と建築工学科・1年の末吉修士さん。

「ゲームとしては2030年、2045年の2つの段階だけど、現実はその間にもいろんな変化が起こります。さらに2045年以降も社会は続いていくのだから、より厳しくなる状況にきちんと対処していかないといけません。ゲームを通して、現実の厳しさも理解できました」と建築工学科・1年の末吉修士さん。

今回の初年次ゼミナールのアドバイザーを務めてくれた、廿日市市役所の建築技師・大江さんは、広島工業大学の卒業生(2000年・大学院卒業)。「ルールが複雑なので短い時間でできるか不安でしたが、学生のみなさんはすぐにルールや目的を理解し、どんどんシミュレーションを進めていました。今回の経験を通じ、FMの面白さを感じてもらえれば、と期待しています」。ちなみに廿日市市役所に勤務する43名の建築技師のうち、約半数の21名が広島工業大学出身者なのだそうです。

今回の初年次ゼミナールのアドバイザーを務めてくれた、廿日市市役所の建築技師・大江さんは、広島工業大学の卒業生(2000年・大学院卒業)。「ルールが複雑なので短い時間でできるか不安でしたが、学生のみなさんはすぐにルールや目的を理解し、どんどんシミュレーションを進めていました。今回の経験を通じ、FMの面白さを感じてもらえれば、と期待しています」。ちなみに廿日市市役所に勤務する43名の建築技師のうち、約半数の21名が広島工業大学出身者なのだそうです。

初年次ゼミナールにあたり準備を進め、アドバイザーまで努めて頂いた廿日市市役所のみなさん、ありがとうございました。