軽くて丈夫な「マグネシウム合金」の活用に寄与する研究で、4年生が学会優秀賞を受賞

2018年11月01日

マグネシウム合金を有効活用するには、接合性向上が不可欠

重量は鉄の1/5と軽く、実用化されている金属の中で最軽量。
なのに高強度。
資源は豊富にあり、人体にも無害。リサイクル性も高い。
それがマグネシウム合金です。
軽量かつ高剛性(曲げやねじりに対し変形しづらい)という点が評価され、航空機やF1カーといった分野では従来から重用されてきました。最近は一般車でも、軽量化のため様々な部位に使われるようになっています。
またスマホやノートパソコン、デジカメといった、軽さと丈夫さを同時に求められる製品で、マグネシウム合金は不可欠なのです。

写真左はパソコンの本体カバー。右は釣具のリール。いずれもマグネシウム合金で作られています。軽さと剛性を同時に求められる分野で、マグネシウム合金は重要な役割を果たしています。

写真左はパソコンの本体カバー。右は釣具のリール。いずれもマグネシウム合金で作られています。軽さと剛性を同時に求められる分野で、マグネシウム合金は重要な役割を果たしています。

強度を保ちながらいっそうの軽量化を図るため、今後は、マグネシウム合金にプラスチックなどの軽い材料を接合した「マルチマテリアル」がどんどん登場する、と言われています。その際、重要となるのが接合性(いくつかの材料をつなぎあわせ一体化させること)です。異種材料との接合性を高めるには金属に表面処理を施し、接着剤が浸透しやすくしてやる必要があります。
ところがマグネシウム合金は、表面処理しにくいという欠点を持っているのです。優秀な利点がありながら鉄やアルミのように用いられることが少ないのは、この欠点のためです。

グレーの金属はマグネシウム合金。半透明の白い部品はプラスチック。異種の材料同士が強固に接合されています。強度と軽さを両立させるマルチマテリアルは、ますます増えると予想されています。

グレーの金属はマグネシウム合金。半透明の白い部品はプラスチック。異種の材料同士が強固に接合されています。強度と軽さを両立させるマルチマテリアルは、ますます増えると予想されています。

接合性向上のため、マグネシウム合金にどうやって表面処理を施せばよいか?
このテーマにチャレンジにしたのが、水野真希さん(機械システム工学科・4年)。他大学の学生や金属加工メーカーの技術者も加わった混成チームで進めた研究の成果は、第10回 軽金属学会・中国四国支部大会(2018年7月28日)で発表されました。そして、数々の研究がひしめく中、見事に優秀賞を受賞したのです。
その水野さんに、研究についてお聞きしました。

「学会でのプレゼンも私が行ったのですが、特に緊張しませんでした。大学の授業でプレゼンの機会が度々あったおかげかもしれません」と語る水野真希さん(機械システム工学科・4年)。研究成果が評価され、優秀賞を受賞。

「学会でのプレゼンも私が行ったのですが、特に緊張しませんでした。大学の授業でプレゼンの機会が度々あったおかげかもしれません」と語る水野真希さん(機械システム工学科・4年)。研究成果が評価され、優秀賞を受賞。

「他大学の学生やメーカーの技術者も加わった中での研究でしたが、水野さんは臆することなく自分のやるべき作業を進めていました」と話す指導教授の日野実先生(機械システム工学科)。(写真右)

「他大学の学生やメーカーの技術者も加わった中での研究でしたが、水野さんは臆することなく自分のやるべき作業を進めていました」と話す指導教授の日野実先生(機械システム工学科)。(写真右)

陽極酸化処理で皮膜を形成。後処理で接着強度を最大化させる。

金属材料の表面処理には「化成処理」「めっき・真空蒸着」などいろんな方法があります。が、今回の研究で選択したのは陽極酸化処理。マグネシウム合金を対象とした場合、最も有効に表面処理が行えるのはこの方法だ、と見込んでのことです。
「アルカリ性溶液にマグネシウム合金の試験片を浸します。この試験片に陽極(+極)の電極をつなぎ、直流電気を流すのです。すると溶液中の酸素イオンが陽極に集まり、マグネシウムと反応して金属の表面に皮膜を形成します。これが陽極酸化処理です」
通電後のマグネシウム合金を取り出し、表面の状態を安定させるために酸性溶液に一定時間、浸します。これで陽極酸化処理の工程は終了。
次に、処理後の試験片2枚を接着剤でくっつけます。十分に接着した後、引張試験機を使って2枚の試験片を上下に引っ張り、接着面を剥がします。剥がすのにどれほどの力が必要だったかを測定し、また剥がれた面の状態を観察して、接着強度を評価します。

「マグネシウム合金の表面に形成される皮膜は、電気を強く、長く流すほど成長し、厚くなります。しかし皮膜が厚いほどいいわけでもありません。と言うのも、できた皮膜はアルカリ性で、そのままでは接着強度が上がらないからです。そこで陽極酸化処理を行った後、酸性溶液に浸ける、という後工程が必要になります。酸性溶液につけることで皮膜の極性を変え、酸性に近づけるわけです。
ところが酸性溶液に浸けると、せっかく形成された皮膜が溶けてしまいます。皮膜が厚すぎると極性転換に時間がかかってしまうし、酸性溶液に浸けすぎると皮膜がなくなってしまう。"膜厚"と"酸性溶液に浸す時間"のバランスをどう調整すれば、接着強度は最大化するか。そこに一番苦労しました」 と水野さんは振り返ります。

マグネシウム合金の試験片をアルカリ性溶液に浸し、陽極の電極をつなげて直流電気を流します。すると陽極に酸素イオンが集まり、マグネシウムと反応して皮膜を形成します。皮膜が形成されると電気抵抗が上がり、比例して電圧も上がります。つまり今何ボルトかを見ておくことで、膜厚が測定できるのです。

マグネシウム合金の試験片をアルカリ性溶液に浸し、陽極の電極をつなげて直流電気を流します。すると陽極に酸素イオンが集まり、マグネシウムと反応して皮膜を形成します。皮膜が形成されると電気抵抗が上がり、比例して電圧も上がります。つまり今何ボルトかを見ておくことで、膜厚が測定できるのです。

陽極酸化処理を行った後、酸性溶液に浸します。今回の実験では5秒間(厚さによっては20秒間)浸しました。これにより、アルカリ性だった皮膜の極性が酸性に近づき、接着強度が高まるのです。

陽極酸化処理を行った後、酸性溶液に浸します。今回の実験では5秒間(厚さによっては20秒間)浸しました。これにより、アルカリ性だった皮膜の極性が酸性に近づき、接着強度が高まるのです。

処理を施した後の試験片を光学顕微鏡で見て、表面の状態を調べます。表面を拡大すると、陽極酸化処理によってどう変化したかが詳細にわかります。

処理を施した後の試験片を光学顕微鏡で見て、表面の状態を調べます。表面を拡大すると、陽極酸化処理によってどう変化したかが詳細にわかります。

陽極酸化処理した後のマグネシウム合金の表面の状態を、顕微鏡で拡大したもの。5000倍(×5000)では、表面にできたたくさんの孔が確認できます。この孔に接着剤が入り込むことで、接着強度が上がります。接合性を良くするには、こうしたポーラス(多孔質体=多くの孔がある)な皮膜を形成する必要があるのです。

陽極酸化処理した後のマグネシウム合金の表面の状態を、顕微鏡で拡大したもの。5000倍(×5000)では、表面にできたたくさんの孔が確認できます。この孔に接着剤が入り込むことで、接着強度が上がります。接合性を良くするには、こうしたポーラス(多孔質体=多くの孔がある)な皮膜を形成する必要があるのです。

次に挑戦したいのはマグネシウム合金の"着色"。

水野さんたちの研究チームは、膜厚4~5μm(マイクロメートル。1μm=0.001mm)、5~7μm、7~9μmという3つのパターンで実験。後処理で酸性溶液に5秒浸すと、いずれのパターンでも、化成処理の場合より接着強度が向上することを突き止めました。膜厚9~12μmを酸性溶液に20秒浸す実験も行いましたが、同様の結果が得られました。そして全てのケースで、後処理を全くやらないより、後処理をやる方が接着強度は高まることを確認しました。
「陽極酸化処理と後処理によって接着強度が高まると実証できたのは、大きな成果でした。
ただ残った謎もあります。膜厚が大きいと接着強度も高いのでは...と予想していたのですが、実際は逆でした。膜厚4~5μmの方が接着強度は高く、7~9μmの方が低いという結果が出たんです。今回の膜厚パターンの場合、後処理5秒では短かったのかもしれません。ベストバランスを見出すのは本当に難しい、と改めて実感しました」

「接着剤で貼り合わせた試験片を引張試験機に装着。上下に強い力をかけて引き剥がし、接着面がどれくらいの力で引き剥がされたか、剥がされた表面はどういう状態だったかを確認し、接着強度を判断します。

接着剤で貼り合わせた試験片を引張試験機に装着。上下に強い力をかけて引き剥がし、接着面がどれくらいの力で引き剥がされたか、剥がされた表面はどういう状態だったかを確認し、接着強度を判断します。

陽極酸化処理で9μmの皮膜を形成し、5秒の後処理を行った試験片を引き剥がしたもの。接着面に接着剤の偏在がなく、均一に剥がされていることがわかります。この状況は、接着性の高さを示すもの。引き剥がしには6.25MPa(メガパスカル)、およそ255kgの重さに耐えられるほどの応力を要しました。

陽極酸化処理で9μmの皮膜を形成し、5秒の後処理を行った試験片を引き剥がしたもの。接着面に接着剤の偏在がなく、均一に剥がされていることがわかります。この状況は、接着性の高さを示すもの。引き剥がしには6.25MPa(メガパスカル)、およそ255kgの重さに耐えられるほどの応力を要しました。

陽極酸化処理で9μmの皮膜を形成し、後処理なしで接合した試験片を引き剥がしたもの。接着剤が多く残っている部分とほとんど残っていない部分が偏在しています。これは、残っていない部分の接着が十分でなかったことを示しています。要した応力は4.86 MPa、およそ200kgの重さに耐えられる程度でした。

陽極酸化処理で9μmの皮膜を形成し、後処理なしで接合した試験片を引き剥がしたもの。接着剤が多く残っている部分とほとんど残っていない部分が偏在しています。これは、残っていない部分の接着が十分でなかったことを示しています。要した応力は4.86 MPa、およそ200kgの重さに耐えられる程度でした。

対照実験として化成処理を行った後で接合した試験片を引き剥がしたもの。やはり接着剤が残っている部分と残っていない部分が偏在しています。引き剥がしに要した応力は5.01 MPa、およそ204kgの重さに耐えられる程度です。

対照実験として化成処理を行った後で接合した試験片を引き剥がしたもの。やはり接着剤が残っている部分と残っていない部分が偏在しています。引き剥がしに要した応力は5.01 MPa、およそ204kgの重さに耐えられる程度です。

陽極酸化処理を行うには、前処理として試験片表面の不純物や汚れを取り除かないといけません。使用する溶液を温めておくなど様々な下準備が必要で、1日で処理できる数は、試験片4~5枚がやっと。地道な積み重ねが、確かな成果を生んだのです。
「陽極酸化処理で、"表面処理困難"というマグネシウム合金の欠点が克服できるとわかりました。接着強度の向上により、マルチマテリアルへの取り組みも本格化するでしょう。
今後、もっとマグネシウム合金の可能性を追究していきたいと考えています。興味を持っているのは"マグネシウム合金の着色"というテーマ。マグネシウム合金は着色しづらく、今はグレーしかありません。多彩に着色できるようになれば、車のボディーなどに採用されることもあるでしょう。マグネシウム合金の付加価値向上に寄与したいと思います」
水野さんの瞳は、マグネシウム合金によって生まれる未来を見据えていました。