"潮流"がエネルギー問題の一翼を担う。小型軽量潮流発電システム・試作1号機が完成~環境土木工学科

2018年12月10日

海洋国家の日本には、再生可能エネルギーが豊富に存在する。

地球温暖化といった環境問題を引き起こす化石燃料はできる限り控え、太陽光や風力などの再生可能エネルギー(再エネ)を活用しようという動きが世界的に高まっています。
国土の狭い日本にも、豊富に存在する再エネがあります。それは「海洋エネルギー」です。
その中でも、広島工業大学では海の「潮流エネルギー」に着目。2012年度より国から研究開発の委託を受けて、民間の機械メーカーと共同して潮流発電システムの研究を続けてきました。そして2019年春、いよいよ試作機が稼働します。今後は、試作機による実用化を見据えた研究を重ねると共に、海外・インドネシアへ試験導入する計画も同時進行中。
この小型潮流発電システムについて、当初から研究・開発に携わる環境土木工学科・石垣衛先生にお伺いしました。

潮流発電システムを視察するためスコットランドを訪れた時の石垣先生。後ろに写っているのは、海底に設置する「着床式」の潮流発電システム。ブレードが約16ⅿもあり、大きな発電量を期待できますが、製造、設置、メンテナンスとも莫大なコストがかかってしまいます。そこで石垣先生のチームは、1機あたりの発電量は小さいけれど、コストが大幅に削減できる小型軽量潮流発電システムについて研究しています。

潮流発電システムを視察するためスコットランドを訪れた時の石垣先生。後ろに写っているのは、海底に設置する「着床式」の潮流発電システム。ブレードが約16ⅿもあり、大きな発電量を期待できますが、製造、設置、メンテナンスとも莫大なコストがかかってしまいます。そこで石垣先生のチームは、1機あたりの発電量は小さいけれど、コストが大幅に削減できる小型軽量潮流発電システムについて研究しています。

潮流エネルギーは、安定供給が期待できる。

石垣先生が潮流発電システムの研究をスタートさせたのは2011年。東日本大震災をきっかけに、社会の再エネに対する関心が高まった頃です。
「日本にとって、広大な海は貴重な資源です。海洋エネルギーを利用した発電には『波力』『温度差』などがありますが、私たちは研究対象として『潮流』を選択しました。『潮流』とは、潮の満ち引きによって起こる周期的なエネルギーです。太陽光や風力のように天候や気象条件によってエネルギー量が変動する、ということが少ないため、安定供給が期待できるのです」
広島工業大学のある広島県は、大小の島がたくさん点在する瀬戸内海に面しています。島と島の間を流れる海峡や瀬戸では潮流エネルギーが増幅されるため、潮流発電を行うにはうってつけです。
「瀬戸内の海峡や瀬戸には多くの橋がかかっており、周辺には港湾構造物も豊富です。これらの海洋構造物の一部に、小型の潮流発電装置を取り付ける方式を考えました。こうすれば、新たに発電施設の設置基盤を建設する必要はないので、コストを大幅に削減できます」
石垣先生が掲げた『橋脚・港湾構造物を利用した潮流発電技術』の研究は、2012年、NEDO(国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構)が実施する「海洋エネルギー研究開発/次世代海洋エネルギー発電技術」に採択されました。それを受け、民間企業との共同研究が加速したのです。

小型潮流発電装置の模式図。ブレードの回転を直接、発電機に伝える「ダイレクトドライブ方式」を採用した円筒形の発電機です。発電機本体は高さ、ブレードの回転径ともに2mというコンパクトなもの。その本体を、高さ3.5mのフレームが支えます。

小型潮流発電装置の模式図。ブレードの回転を直接、発電機に伝える「ダイレクトドライブ方式」を採用した円筒形の発電機です。発電機本体は高さ、ブレードの回転径ともに2mというコンパクトなもの。その本体を、高さ3.5mのフレームが支えます。

小型潮流発電装置を橋脚・港湾構造物に取り付けたイメージ図。構造物周辺に創出される流速が大きくなる領域(加速域)に複数の発電装置を設置することで、よりたくさんのエネルギーを取得できます。

小型潮流発電装置を橋脚・港湾構造物に取り付けたイメージ図。構造物周辺に創出される流速が大きくなる領域(加速域)に複数の発電装置を設置することで、よりたくさんのエネルギーを取得できます。

取得エネルギーを増大させながら、コストを下げるには。

この研究プロジェクトにおいて、民間の機械・電気メーカーであるシンフォニアテクノロジー㈱(旧 神鋼電機)と共同研究を実施中。シンフォニアテクノロジーは発電装置の開発を担当。一方、石垣先生を始めとする広島工業大学の研究チームが担当したのは、現場海域における最適な発電場所・位置の選定です。
「設置場所を見極める上で重要なのが、取得できるエネルギー量です。エネルギー量が大きければ、発電量も大きくなり、相対的に発電コストが下がります」
目標とする金額は、1kWh(キロワット毎時)あたり20円。ちなみに石油火力発電の発電コストは1kWhあたり15円程度、太陽光発電では1kWhあたり30円程度と言われるので、これらと同等に競争できる発電が可能になります。
「取得エネルギー量を最大化するには、潮流の激しい箇所に装置を設置すればいい。ところが流れの激しい場所で確実に据え付けを行うには、高度な技術が必要となります。また装置の劣化も早まるため、メンテナンスも頻繁に行わないといけません。つまり、取得エネルギーの高い場所ほど、製造・設置・メンテナンスのコストも高くなってしまうわけです。せっかく取得エネルギーを最大化しても、コストが高くなってしまっては意味がありません。取得エネルギーは増大させながらも、据え付けやメンテナンスのコストは少なくできる、最適バランスの箇所を選び出さないといけないんです」

激しい流れにさらされると構造物の劣化も早くなり、劣化を防ぐためのコストも高くなりがちです。エネルギー量は大きくしながらも、コストを抑えられる場所の選定が重要になるのです。

激しい流れにさらされると構造物の劣化も早くなり、劣化を防ぐためのコストも高くなりがちです。エネルギー量は大きくしながらも、コストを抑えられる場所の選定が重要になるのです。

1kWhあたりのコスト40.3円での発電が可能であることを確認。

大きな橋の場合、1本の橋脚を支える基礎杭は10数本に及びます。潮流は、10数本の杭の間を行き交ううちに様々に乱れ、渦を形成し、エネルギーを打ち消し合ったりします。また、深さも重要です。同じ箇所でも深さ10m地点では流れが激しいのに、17m地点では流速が小さくなる、といったケースもあるのです。こうした状況の中、コストバランスの最適地を見出すのは、容易ではありません。
研究チームは、広島湾の南西部に位置する山口県の大畠瀬戸で検証を実施。流速計を用いた橋脚周辺の海流の速度測定や、音響測探機※ による海底地形の測量などを行い、得られたデータから大畠瀬戸の海底地形モデルを作成しました。これにより、潮流のシミュレーションが可能になり、取得エネルギー量や、コストバランスの最適地はどこか、明らかにしていったのです。
「2016年の調査・研究では、最適地と思われる場所で発電1ユニットあたり年間84MW(メガワット)のエネルギーが取得できることがわかりました。発電コストに直すと、1kWhあたり40.3円です。そこからさらに研究を進め、2017年には海底で発生する乱流の影響をシミュレーションし、最適地の見直しを行いました。すると年間100MW以上のエネルギー取得も可能と計算できています。また据え付け場所の見直しで、今までは装置据付に不可欠だった高価なクレーン船が不要になるため、設置コストが大幅に削減できます。これらの成果により、目標の20円の達成が見えてきました」

※音響測探機:船底から音波を出して推進を計測する機械

検証の実施場所となった大畠瀬戸。日本3大潮流とも呼ばれ、国内有数の流れの速さで知られています。大島大橋という橋の第4橋脚で検証を行いました。

検証の実施場所となった大畠瀬戸。日本3大潮流とも呼ばれ、国内有数の流れの速さで知られています。大島大橋という橋の第4橋脚で検証を行いました。

橋脚の基礎杭の1本に測定機器を装着。上げ潮・下げ潮時の流速などを測定しました。10m、17mと深さも変え、浅い地点と深い地点の違いも検証しました。

橋脚の基礎杭の1本に測定機器を装着。上げ潮・下げ潮時の流速などを測定しました。10m、17mと深さも変え、浅い地点と深い地点の違いも検証しました。

インドネシアでの研究もスタート。小型潮流発電が世界に広がる。

研究で得られた知見を基に、共同研究相手であるシンフォニアテクノロジーは小型潮流発電システムのプロトタイプを製作。広島工業大学には2019年春までにやってくる予定です。このプロトタイプを用いて実海域実験を行うと共に、潮流発電の電気を地域社会でどう活用するか、送電・蓄電システムはどうするかといった検討に入っていきます。
また、この小型潮流発電システムを、インドネシアで実現するための調査・実験にも着手しています。インドネシアはASEAN最大の電力消費国である一方、数多くの無電化村を抱える多島国家です。島々に点在する無電化村の解消と、美しい自然環境の維持を両立させるため、環境負荷の少ない再生可能エネルギーによる電力設備の導入について国レベルで熱心に取り組んでいます。そうしたインドネシアの事情に、小型潮流発電システムがマッチしたわけです。
「既に広島工業大学はインドネシア政府と研究協定を締結しました。これに基づき、インドネシア東部のフローレス島やアロール島海域での調査・実験を進める予定です。第1段階として、インドネシア政府から現地の潮流データを提供してもらい、数値シミュレーションを実施しました。2019年には現地での実証実験を開始できれば...と考えています」
日本は言うまでもなく、世界の様々な国が海と直接つながっています。その海を利用し、低コストで電力を生むことができれば、多くの国に大きな恩恵をもたらすでしょう。
地球温暖化の抑制にも有効な小型潮流発電システムを一刻も早く実用化しようと、研究チームの努力はさらに続きます。

完成した小型潮流発電装置のプロトタイプ。銀色に光る部分が発電機本体。白い部分は本体を支えるフレームです。

完成した小型潮流発電装置のプロトタイプ。銀色に光る部分が発電機本体。白い部分は本体を支えるフレームです。

インドネシア政府との協定に基づき、同国の政府研究機関や大学研究者と共同で海流調査が始まっています。やがてはこの海でも、小型潮流発電システムを稼働させたい...石垣先生はそんな意欲を持っています。

インドネシア政府との協定に基づき、同国の政府研究機関や大学研究者と共同で海流調査が始まっています。やがてはこの海でも、小型潮流発電システムを稼働させたい...石垣先生はそんな意欲を持っています。