電気システム工学科
深山 幸穂
教員紹介

プロフィール
- 【専門分野】
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○計測・制御工学
○信号処理
- 【担当科目】
- 制御工学 、 システム制御 、 ソフトウェア工学 、 信号処理 、 コンピュータ計測システム
- 【研究テーマ】
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1.プラントの計測・制御
2.音波を用いた位置制御、温度分布計測
3.信号解析と自動採譜システムへの応用
4.信号処理による合奏音からの特定楽器音の分離
- 【ひとこと】
夢なくして成功はありません。足元にも及ばないような課題でも楽観的に努力していれば道が開ける。それが若者の特権です。
研究紹介
深山 幸穂FUKAYAMA Yukio
工学部 電気システム工学科 教授
温度が測れる。GPSのように活用できる。
『音』を使って、世の中をもっと便利に
PROLOGUE
ある有名なシンガーソングライターはデビュー当時、楽譜が読めませんでした。見よう見まねで覚えたギターで作曲し、その音をバンド仲間が楽譜に再現していたのです。「そんな苦労、今ならしなくて済むかもしれませんね」と語るのは深山先生。先生は、バイオリンやフルートなど音色の異なる楽器が同時に奏でる音を識別したり、いろんな音が混ざり合うピアノ曲からそれぞれの音を取り出す研究を行っています。しかし、これも先生に言わせれば「初歩の初歩」。音を利用すれば、いろんなことができるらしいのです。
いくつも重なり合った音を個別に取り出し、楽譜に再生
ピアノ曲は通常、右手でメロディーを、左手で和音を弾きます。また、鍵盤を同時に押さえることで、一度に複数の音を奏でられます。言わばたくさんの音の集合体ですね。これを正しく分離し、音の長さに合わせて配置すると、アドリブで自由に弾いた曲からでも楽譜を作ることができるわけです。
音階は周波数で表現できます。楽譜の真ん中に位置するラ(A)音は440Hzで、楽器調整の際の基準であることを知っている人もいるでしょう。そこで、マイクで拾った音源に、周波数分析の手法である『ウェーブレット変換』を適用するのです。すると、音が周波数のグラフとなって現れてきます。
しかしよく見ると、余計な個所にも音の痕跡があります。これは、楽器の音に「倍音」が含まれているため。どの楽器でもある音を弾くと、オクターブ上でも微かに音が鳴ります。これを倍音と言い、音色のもとになっているのですが、曲から楽譜を作る際には倍音が邪魔になります。そこで倍音を省くように対策を施します。こうした手順を踏めば、ある程度の曲は楽譜に再現できるのです。
これだけではありません。音にはいろんな活用法があります。


グラフとほぼ一致しています
「打ち水」で温度がどれだけ下がるかを、音を利用して計測
「夏は打ち水をすると涼しく過ごせる」と言いますね。では実際、どの程度温度が下がるかを計りたい。この場合、どうしますか? 計りたい場所に温度計をそのまま設置するだけでは、屋外では太陽の輻射熱があるため、正しい気温が計れません。
そこで音の「高い温度で早く伝わる」性質を応用するのです。計りたい場所を囲むように複数のスピーカーを設置。打ち水を行う個所を決め、一斉に水をまいた後、すかさずスピーカーから音を発生。それを集音器で拾い、スピーカーから届いた音の到達速度の違いから温度を割り出すのです。このやり方で検証してみたところ、1平方メートルあたり1リットルの水をまいた場合、気温は0.5度下がるとわかりました。
震災などの災害で多くのがれきが発生すると、その集積場でがれきの一部が自然発火し、火災となる場合があります。こうした問題の解決にも「音」が役立ちます。音によって、ある程度の広さの温度を一斉に計り、高温になっている個所のがれきに適切な処理を施せばよいのです。
音をGPSのように利用する方法もあります。車に音波受信機を付け、広場を囲むスピーカーから一斉に音を出します。すると、車と各スピーカーとの距離に応じて、音の到達時間に差が出ます。どのスピーカーの音がいつ届いたかという情報から、車の現在位置がわかるのです。屋内駐車場など、GPSの電波が届かない場所では有効だと思います。

音の技術は、工場やプラントなど産業分野にも適用できる
「曲を聴いて楽譜を作る」方法は、工場や産業プラントなどへも応用できます。工場では、多くの産業機械が、モーターの回転音や駆動部のきしむ音など、様々な音を出します。そこで正常な状態の音を記録しておき、実際の稼働音と比較するのです。機械の不調は音に表れるので、修理が必要かどうかわかるわけです。他に、例えばダクト内の空気流量(圧力)を測ることもできます。
温度を測る、位置を調べる、不調を知らせる、圧力を測る…音によってこれらが測定可能です。しかも機械を止める必要もなく、全て非接触で行えるため、装置さえ配置すれば、後は簡単です。電波と違って免許不要で、誰もが気軽に行えるのも長所の一つです。
スマートフォンなどに搭載された「音声認識技術」も、出発点は音をどう取り出すか。音を取り出す仕組みが向上すれば、音による特定個人の識別も可能になるでしょう。
音が活用できる技術領域は、予想以上に大きいのです。私もその中で、様々な可能性を追求していきたいと思います。
