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電子情報工学科

谷岡 知美

教員紹介

谷岡 知美TANIOKA Tomomi

工学部 電子情報工学科 准教授

研究紹介

研究者情報

プロフィール

【専門分野】
○アメリカ文学・アメリカ文化
【担当科目】
アメリカ学A/B など
【研究テーマ】
1.1950年代アメリカでおこった、「ビート世代」の文学・文化、特に詩人アレン・ギンズバーグ(Allen Ginsberg, 1926-97)の文学研究。彼の作品、思想、文化活動を、アメリカ合衆国の政治、文化、歴史の文脈に置き、「ビート世代」の文学的価値の重要性を問うことで、ギンズバーグが20世紀のアメリカ文学とアメリカ文化、政治、経済の文脈においていかに同時性をもって存在したかを検証する。
【ひとこと】

英語やアメリカに関することで知りたいことがあれば、何でも聞きに来てください。幅広い視野をもって世界をみながら、充実した大学生活を送ってください。

研究紹介

谷岡 知美TANIOKA Tomomi

工学部 電子情報工学科 准教授

量子力学的な視点・手法で、「ことばの力」は計測できる?
PROLOGUE

小学生の頃、マイケル・ジャクソンなどの洋楽に新鮮な感動を覚えた、それが英語を好きになる第一歩だった、と語る谷岡先生。大学の進路も英文科を選び、英米文学に傾倒するようになった先生は、主に1950年代アメリカの文学や大衆文化を対象に研究しています。それだけでなく、最近では電子情報工学科の先生の協力を得て、「ことばの力」を論理的に究明しようと取り組んでいるのです。先生曰く「“ことばの力”を量子力学的に計測できないか、と考えているのです」とのことですが…。文学・言語と量子力学に、どんなつながりがあるのでしょう?

ビート世代の叫びが、多くの大衆の心を揺さぶった

ポップミュージックや映画といった、一般大衆が楽しめる「大衆文化」というものが誕生したのは、20世紀のアメリカでのことです。私はこの大衆文化、中でも1950年代に起こった「ビート世代」の創作活動に注目しています。
ビート世代の特徴は、宗教的価値観や規範に基づく従来のストーリーを疑い、既存の政治や社会体制に背を向け、人間本来の根源的な欲求や葛藤、成長を描写する点にあります。ビート世代は、後に続くヒッピー文化や、ビートルズなどのロックミュージシャンにも影響を及ぼしました。そう考えると、現代の音楽やアートは全て、何らかの形でビート世代とつながっている、と言っても過言ではないでしょう。
私が特にフォーカスしているのは、アレン・ギンズバーグの「HOWL(吠える)」という詩です。これは本として出版することを前提としたものではなく、ギンズバーグ自らの肉声の叫びまで含めて一つの作品とする朗読詩です。思いの丈を詰め込んだ彼の詩の叫びは、時にわいせつであったり、反道徳的であったり、文字の組み合わせもそれまでの慣習を大きく逸脱していたりもしました。しかしそれが、サンフランシスコのギャラリーに100人ばかりの聴衆の心を揺さぶったのです。

発表後、映画化もされた
ギンズバーグの「HOWL(吠える)」

今の時代の音楽やアートにもつながっている

1950年代、第二次大戦で戦勝国となったアメリカは、世界一の裕福である一方、政治的にも社会的にも様々なゆがみをはらんでいました。そのゆがみに誰よりも早く気づき、小説や詩、音楽などの手段で表出してみせたのがビート世代です。それが、一般大衆の共感を呼んだわけです。
恐らく、原始時代にも詩に近いものはあったはずです。しかし文字がないので、誰かに伝えるには、歌ったり叫ぶしかありませんでした。文字を開発し本として読めるようになって、詩の味わい方は変わりました。そのルールを破り、原始時代の行為に引き戻した点も、反響を呼ぶ原動力となったのかもしれません。
ギンズバーグの友人であったボブ・ディランは、自分の叫びをコンサートという形に昇華させました。今の若者はSNSなどを通じて自分の歌やダンスを気軽に披露していますが、ギンズバーグのHOWL(吠える)は、そうした行為の原点だった、と私は捉えています。
これほどまで大衆を動かしたギンズバーグの詩には特別な力があったのだと思います。いや、彼の詩に限らず、ことばには全て何らかの力があるのではないでしょうか。その力を定量的に計測・分析することはできないか。最近はそういった研究にも取り組み始めました。

ギンズバーグと「ことば」に関する著書

「ことば」には、「量子」と似た力・性質がある

例えば私がゼミの学生に「明日10時、食堂で」と言ったら、翌日の10時に学生食堂で待ち合わせよう、という意味を含みます。「どこの食堂」で「何をするか」と具体的に言っていませんが、学生は私の意図を正しく理解するでしょう。そのことばは、私と学生の普段の関係性があって成立します。私と学外の人なら、違った意味として伝わるかもしれません。つまり、ことばには人を動かす力があるし、ことばの力は関係性や発話の状況で変わってしまったりもするわけです。
これは、量子力学の理論と似ています。量子は様々な力を同時に保有しており、その力は観測した時点で初めて確定します。人もまた、普段からいろんな感情を抱いています。その意志が他人に伝わるのは、ことばとなって発話された時です。シチュエーションに左右され、思いとは別のことばとして発される、ということもあります。そして発せられたことばは、受け取った人々に多彩な影響を与えます。この「ことばの意味や価値は、発せられた時に確定する」という点が、量子のふるまいに似ているのです。
文系のど真ん中を歩んできた私が、理系の大きなテーマである量子力学と接点と見出すのですから、研究とは不思議なものです。成果を出すにはまだまだ時間が必要でしょうが、楽しみながら、広い視野を持って研究を続けていきたいですね。

「量子の世界」と「ことばの世界」の
ふるまいの共通点についても研究