©Hiroshima Institute of Technology. All Rights Reserved.

環境土木工学科

森脇 武夫

教員紹介

森脇 武夫MORIWAKI Takeo

工学部 環境土木工学科 教授

研究者情報

プロフィール

【専門分野】
○地盤工学
○地盤防災
【担当科目】
地盤工学Ⅰ/Ⅱ 、 基礎構造設計 、 都市総合工学A 、 土木基礎工学 、 技術者総合演習
【研究テーマ】
1.粘土地盤の圧密沈下と地盤改良に関する研究
2.地盤災害の防止・軽減に関する研究
3.廃棄物処分場の有効利用に関する研究
【ひとこと】

大学では、これからの科学技術や社会の変化に柔軟に対応し、自ら考え工夫して問題を解決できる力を身に付けてください。

研究紹介

森脇 武夫MORIWAKI Takeo

工学部 環境土木工学科 教授

豪⾬による⼟砂災害は、
どのようなメカニズムで起こるのか?
PROLOGUE

猛烈な⾬によって⼭が崩れ、⼟砂が建物を押し流し、街や⽥畑を埋め尽くす...。⼈々の⽣命を奪い、貴重な財産を台無しにしてしまう豪⾬・⼟砂災害が毎年のように発⽣しています。
こうした災害は、地盤がどうなった時に発⽣するのか?を研究しているのが森脇先⽣。「⾏政の定める⼟砂災害警戒区域は"数⼗年に1度"と⾔われる災害を前提とするもの。しかし今や"数⼗年に1度"の豪⾬・⼟砂災害が、ほぼ毎年起きている。従来とは違った発想での災害対策が早急に求められます」と先⽣は語ります。

豪⾬による⼟砂災害は、どの地域でも発⽣する可能性がある。

1999年6月、広島市西部で30人以上の犠牲者が出る大きな土砂災害が起こり、これをきっかけとして土砂災害防止法が制定されました。
しかし広島ではその後2014年、2018年と大きな豪雨災害が起こりました。
2018年7⽉の豪雨災害で⻄⽇本の広い範囲に被害が及んだ⼀番の要因は、⾬の降り⽅にあります。積乱雲が連続して発⽣し激しい⾬が続くバックビルディング現象は、過去もありました。2014年8⽉の災害時も、この現象によって幅3km・⻑さ15kmという狭いエリアに集中的な⾬が降り、⼭を崩したのです。しかし2018年のケースはその規模がケタ違いで、積乱雲が広島県全域を覆うほど巨大なものでした。⾬の降り⽅も、⼤きなピークが2回もやって来ました。1回目だけならギリギリ保っていた⼭も、2回目で耐えきれなくなってしまったのです。
2014年や2018年の豪⾬で被害を受けなかったからといって、「⾬に強い⼟地」とも⾔い切れません。数⼗年、数百年のスケールで⾒ると、⼤半の⾕で順繰りに⼟⽯流が起こっています。今回はその⼟地が崩れたけれど、次は別の⼟地かもしれない。⻄⽇本、特に広島・島根は、花崗岩が風化してもろくなった真砂⼟(まさど、あるいはまさつち)が広く分布する土壌です。条件が揃えば、どこでも災害に直⾯する可能性があるのです。

どの程度の水を含むことで土がどういった状態になるのか、実験で確認しています。

「時間あたり⾬量」と「累積⾬量」をかけ合わせ、危険度を⽰す。

災害に関するいろいろな制度や仕組みは整えられたものの、やはり住民自身が危機を察知し素早く避難行動に移らないと、被害を減らすことはできないのです。昨今は1時間あたり100mmを超える猛烈な⾬が起こることも珍しくありません。これほど⾬の降り⽅が変わってきているのだから、災害の危険性をわかりやすく示す、新たな指標が必要ではないかと考えました。
そこで私は仲間の研究者たちと共に、R’(アールダッシュ)という指標を開発しました。これは時間あたり⾬量と累積⾬量を特別な計算式に⼊れ、危険度を算出したものです。「今降っている⾬」と「過去に降った⾬」の2つの条件をかけ合わせて1つの数値で表した指標は、これまでありませんでした。R’で過去の豪⾬・⼟砂災害を調べなおすと、R’の数値が125でがけ崩れが起こり始め、250で⼟⽯流が発⽣、400を超えると⼤規模災害につながる、とわかりました。

その場所の危険度を自分で把握すれば、素早い避難行動が期待できる。

大規模災害があると気象庁や自治体から警告が出されますが、行政の情報は厳密性を要求されるため公開に多少時間がかかりますし、地域の細かな区分にも限界があります。その点、R’は降雨量から値を算出できるので、自分が今いる場所の危険度を、よりピンポイントに測ることができます。特定の式に入れれば誰でも数値が計算できるため、行政の指示に頼りきるのではなく、地域の危険を自分で把握できるのです。それが避難行動を促すと期待しています。
大学では実際に降雨実験を行い、R’が示す値と地盤の状況との相関関係を調べています。大量の水を含んだ地盤がどういう状態になるか詳細な工学的データを取得することで、R’の精度はいっそう高まるはずです。
関連して、⼟砂災害の履歴マップ作成も進めています。これはその地域にどういった⼟砂災害があったかを⽰す地図で、新しくその地域に⼊ってきた⼈も過去の履歴がわかるようになります。過去の⼟砂災害がわかると、事前に危険を認識できるようになるでしょう。ハザードマップをより的確なものにできると思います。
災害によりダメージを受ける人を少しでも減らすため、手を尽くしていきたいですね。

2018年7月、広島で発生した豪雨災害時の雨量から、各地域でR’がどういった値になったかをグラフ化したもの。R’の値が高くなった時に土石流が発生しており、明確な相関関係にあることがわかります。