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地球環境学科

三浦 智恵美

教員紹介

三浦 智恵美MIURA Chiemi

環境学部 地球環境学科 教授

研究者情報

プロフィール

【専門分野】
○生殖生理学
○動物発生学
○環境保全学
【担当科目】
環境基礎生物学 、 環境応答学 、 生物圏の科学 、 環境科学演習 、 環境共生計画演習 、 環境生物実験
【研究テーマ】
1.魚類の成長と性成熟の関係に関する研究
2.昆虫を利用した生体防御に関する研究
3.次世代の養殖用飼料の原料に適した新規昆虫の探索
4.多様な漁場環境における真珠貝養殖技術の開発
【ひとこと】

生殖細胞は命の連続性を担う重要な細胞です。この生殖細胞に関するテーマを研究することで命のつながりについて一緒に考えることができると良いなと思います。

研究紹介

三浦 智恵美MIURA Chiemi

環境学部 地球環境学科 教授

自分の“子”を生むための生殖細胞は、
自己の成長にも関係している?
PROLOGUE

精子や卵といった生殖細胞が、新たな生命を生み出すもとになっていることは、多くの人が知っているでしょう。しかし最近の研究によると、生殖細胞はどうも、生命の連続性を担うだけではないようなのです。個体そのものの成長に影響を及ぼしていたり、個体にダメージを与える物質から生命を守ったり、などの働きを持っているのだとか。生殖細胞には、まだまだ未知の謎が残されています。それらを明らかにしようとしているのが三浦先生。生

ウナギのメスがオスより大きいのは、生殖細胞が持つ成長制御機構の影響

ティラピアという淡水魚がいます。この魚の体から生殖腺を切除してしまうと、成長がうまくいかなくなる場合があります。またティラピアは、メスよりオスが大きくなります。ウナギだと、逆にメスが大きくなります。
なぜこのようなことが起こるのでしょう。動物の場合、個体の成長を促す成長ホルモンは、脳下垂体から分泌されます。実は同様に作用するホルモンが、精巣や卵巣にもあります。だから生殖腺切除で成長が阻害されたり、雌雄で大きさが異なったりするわけです。生殖細胞の役割は、生命の連続性だけでない。個体の成長にも関わりが深いのです。しかしそのメカニズムはほとんどわかっていません。
また雄の精子のもとになる精原細胞は、酸化ストレスを与えると強い抵抗力を示します。調べると、精原細胞は抗酸化酵素を豊富に持っていました。これは生命の連続性を保障するために身につけている、幹細胞としての強さなのでしょう。雌の卵にも同様の生体防御機能があるかもしれませんが、研究された例はほとんどありません。
生命の連続性をはじめ、成長制御や生体防御を明らかにする。それが私の第一の研究テーマです。

モザンビーク・ティラピア
ウナギも飼育。
ホルモンを加えると精子まで
人為的に発生させられるので、
生殖細胞の研究がやりやすいのです。

昆虫は世界で最も繁栄する動物種。その利用可能性は大きい

二つ目の研究テーマが「昆虫」です。昆虫は単体だと小さな存在ですが、全動物種の75%以上を占めており、世界で最も繁栄しています。昆虫資源は、生物資源、つまりバイオマスとして、大きな可能性を持っているのです。
カイコの繭の中にいるサナギを調べてみると、ある種の多糖類を発見しました。共同研究を進めていた私たちのチームはこれを「シルクロース」と名付け、真鯛のエサに混ぜて与えてみました。すると通常と比較して、細菌性の病気に対する免疫力が格段に向上したのです。
魚の養殖の際は病気を防ぐためワクチンを投与しますが、クロマグロなど常に泳ぎ続けている魚へワクチンを与えるのは、極めて困難です。またエビなど、ワクチンが存在しない種もいます。こうした場合、シルクロースのような糖を与えることで、効果的に伝染病を防げるのではないでしょうか。昆虫由来の天然の生成物なので、消費者の抵抗感もほとんどないはずです。
シルクロースは既に製品化されました。しかし未着手の昆虫資源は、まだまだ豊富に存在します。第一のテーマと関連して昆虫の生殖や成長、免疫に焦点をあてるのも面白そうです。

カイコガのサナギ。
これらを単離・精製すると、
多糖類のシルクロースが取れます
シルクロースは製品として
市場でも販売しています。
右のマークも研究チームで考案しました

アコヤ貝についても研究を進め、大きく美しい真珠の生産に貢献

「貝類の養殖に関する研究」も⾏っています。アコヤ貝は、真珠の養殖に欠かせません。真珠はアコヤ貝の生殖腺で作られます。しかし、大きく美しい真珠を作らせるのは、容易ではありません。
まず、アコヤ貝自体が大きく元気でないといけません。貝を育てる場所も吟味する必要があります。水温や潮流、海中に溶け込む酸素の量、エサとなるプランクトンの量、さらには貝殻に付着する生物まで。さまざまな要因が、アコヤ貝の成長に、引いては真珠の生産に影響を及ぼします。
貝がいなくとも、海中環境の調査はできます。私は貝に見立てた板を海中に吊るし、表面に付着する生物を調べています。アコヤ貝のエサを横取りするこれらの付着生物は、きれいに駆除しなければなりません。そこで付着生物の種類や性質、付着時期などを調べ、効率の良い駆除方法をつなげるわけです。
体細胞は、どんなに強くともやがて死んでしまいますが、生殖細胞は、次の世代につながっていくという、生体の中で極めて特殊な役割を持っています。生命の連続性はどの生物にとっても重要ですが、その機能や制御についてはまだわからない部分も多いんです。さまざまな角度からアプローチして、生命の不思議さを解き明かしていこうと思います。

アコヤ貝。
写真中央部の生殖腺に核を入れることで、
真珠を作り出してくれます