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生体医工学科

竹内 道広

教員紹介

竹内 道広TAKEUCHI Michihiro

生命学部 生体医工学科 教授

研究者情報

プロフィール

【専門分野】
○医用機器学
【担当科目】
生体機能代行装置学 、 関係法規 、 血液浄化療法装置学 、 人工臓器 、 医療の安全基準 、 医療設備の安全管理 、 血液浄化技術演習 、 血液浄化療法装置学実習 、 生体機能代行装置学実習 、 生体計測装置学実習A/B 、 体外循環装置学実習 、 医用治療機器学実習B
【研究テーマ】
1.タンパク質の構造変化に伴う水の緩和時間と拡散係数の評価
2.血液浄化療法における酸化ストレスの計測と機能評価
3.磁気力を利用した重金属除去装置の開発研究
4.磁性活性炭の低分子タンパク質の吸着特製
【ひとこと】

こつこつと知識を積み上げていってください。基礎的学問を学ぶことに無駄はありません。

研究紹介

竹内 道広TAKEUCHI Michihiro

生命学部 生体医工学科 教授

体内の「病因性蛋白質」を、磁気+活性炭の力で退治する
PROLOGUE

タンパク質は、私たちの筋肉や血液、臓器などを作る重要な成分。生きる上で欠かせない栄養素です。しかしタンパク質にもさまざまな種類があり、体の中にたまると病気を誘発するなど、悪影響を及ぼすものもあるのです。「例えばリウマチの強い炎症が続くと、アミロイドというタンパク質が体のあちこちにたまるようになります。コレステロールなどと同様に、タンパク質にも“悪玉”があるんです」と語る竹内先生。病因性タンパク質を除去するために先生が着目したのは、『磁性をもった活性炭』です。

血液を浄化するため、不要・有害な物質を吸着する

治療の中に「血液浄化療法」と言われるものがあります。病気で腎臓がうまく機能しなくなった人は、人工透析装置で血液中の老廃物や有毒物を取り除き、きれいになった血液を再び体内に戻す「血液透析」療法を受けています。「血液透析」は比較的有名ですが、「血液浄化療法」は他の病気にも有効で、さまざまなケースで用いられています。
血液から不要・有毒な物質を除去する方法として、拡散・ろ過・吸着などの方法があります。中でも私は「吸着」に着目し、その効率を上げるため工夫しています。吸着の主流は物理的吸着と呼ばれるもので、迷路のような穴を作り、そこにピッタリはまりこんだ有害物質の分子をキャッチしてしまうのです。しかしこの手法では分子サイズによってターゲットが決まるため、有害・無害に関わらず一定のサイズ以外の分子はキャッチできません。
そこで考えたのは、磁性をもたせた活性炭の利用です。活性炭は、身近なところでは浄水器中の浄化剤や冷蔵庫の脱臭剤として使用されている、ごくありふれた素材です。

分⼦サイズが⼤きく異なる物質を、⼀つの⼿段で同時に除去できる

当初、私は透析治療の合併症の要因として知られるβ2ミクログロブリンというタンパク質を吸着させる研究していました。この物質は⾎液中にたまると骨や関節に沈着し、⼿⾜の痛みやしびれ、運動障害などを引き起こします。この物質の分⼦量は1万1800Dと巨⼤です。それをキャッチするため磁性活性炭を活⽤できないかと考え、温度などの条件を変えて実験していました。
するとある条件下では、β2ミクログロブリンだけでなく、α1ミクログロブリンも吸着できることが分かったのです。この物質の分⼦量は、3万3000 Dでβ2ミクログロブリンよりもさらに大きなタンパク質です。これらは除去すべき溶質で尿毒性物質です。これらの分子量の物質を除去する試みは、同時に生体にとって必要不可欠な分⼦量6万6000 Dのアルブミンを除去することになり問題となっています。しかしこの磁性活性炭へのアルブミンの吸着はほとんどないことが実験の結果からわかりました。
通常、活性炭に吸着したタンパク質は、その状態を保ちます。しかし、活性炭に磁性を持たせることにより吸着と分離が可能になれば、活性炭を再生し連続的に使用できると考えます。これらの特性が磁性活性炭の⼤きな特徴と考えられます。

磁性活性炭のサンプル。特許の関係で、
詳細な原料や製法は明かせませんが、
機能は確かです

排液中の尿素窒素を計測するシステムにも着⼿

活性炭が、磁性を持つことにより分子量3万3000 Dの物質までキャッチするのか、理由はいまだに分かっていません。今後は学生たちとともにメカニズムを解明していきます。
これとは別に、尿素窒素の計測システム開発に取り組む学生もいます。尿素窒素はクレアチニンとともに腎機能検査に用いられる物質で、血液浄化療法を受ける患者は採血して計測します。しかし、治療のたびに注射して血を抜かれるのは、患者にとってつらいものです。そこで、治療後の排液に含まれる尿素窒素をセンサーで計測しようと考えました。これだと採血は必要ありません。さらにこのシステムは、排液の連続モニタリングなどにも活かせます。万一、治療中にトラブルが発生しても、早い段階で対処できるでしょう。
臨床工学技士の主な業務は医療機器操作やメンテナンスですが、それだけで十分と考えてはいけない、と学生には言っています。クリニカルエンジニアと言えば、欧米ではドクターコースを修了し博士号を取得します。本来は、それだけ社会から重視される職務なのです。
ゼミでは他にも、遠隔監視型の血圧モニタリングシステムなど、さまざまなテーマを設定。学生たちが意欲をもって研究を進めています。科学の進歩を医療に応用できないか、新しい方法はないかと模索し続けるといった視点を、大学で養ってほしいと思います。