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食品生命科学科

吉本 寛司

教員紹介

吉本 寛司YOSHIMOTO Kanji

生命学部 食品生命科学科 教授

研究者情報

プロフィール

【専門分野】
○アルコール医学生物学
○中毒学
○神経薬理学
【担当科目】
医学概論 、 病理学 、 生理学 、 公衆衛生学 、 生化学実験
【研究テーマ】
1.物質(アルコール)依存、耐性形成のメカニズム
2.エネルギーホメオスタシス調節因子の多機能性
3.ストレスと生体反応
【ひとこと】

広島工業大学、三宅の森で品格を備えた弘毅な人に成長し、現代社会を生き抜く強い力を身につけてください。

研究紹介

吉本 寛司YOSHIMOTO Kanji

生命学部 食品生命科学科 教授

人はなぜアルコール依存になるのか?
脳内で起こる「ハマる」のメカニズムを解明
PROLOGUE

勉強で疲れたし、気分転換にゲームでも…と始めると、楽しくてなかなかなやめられない…そんな経験は誰でもあるでしょう。夢中になりすぎ、「ご飯だよ」と親が呼ぶ声も耳に入らずゲームをやっていて、叱られてしまったり。人間はこのように、いろんなものに「ハマる」という性質を持っています。アイドルが好きすぎて追っかけをするのも、お酒が大好きな人が飲み過ぎてしまうのも、「ハマる」という点では同じ現象。この「ハマる」のメカニズムについて研究しているのが、吉本先生です。

適量なら良い付き合いができるのに、飲酒に溺れてしまう人がいるのはなぜ?

お酒と人の付き合いは長く、新石器時代前期には人はお酒をたしなんでいたと言われます。仲間と飲めば楽しいし、落ち込んだ気分を癒やしてくれるなど、飲酒には良い面もあります。しかし、好きが高じて量が増えていくと、問題が起こってきます。アルコールは、タバコや覚醒剤、睡眠薬、脱法ドラッグなどと同様に、依存性を持つ薬物です。
習慣的に飲酒していると「以前と同量では酔えない。もっと飲みたい」という状態が生まれます。これを「耐性」と呼びます。耐性ができてさらに飲み続けていると、お酒が欲しくてたまらないと感じることが増えます。これは「精神依存」という状態です。
さらに進行すると、お酒を飲んでいないと手の震え、発汗、血圧上昇、不安・イライラ感が止まらず、やがて幻覚を見たりけいれんするといった症状が現れます。ここまで来ると「身体依存」で、もはや個人の努力ではお酒を止められません。肝臓などの臓器や脳にも悪影響を及ぼし始め、重篤な病気にかかるリスクが上がってしまいます。
適量であれば良い付き合いができるのに、人はなぜ飲み過ぎ、アルコール依存になってしまうほど「ハマって」しまうのでしょうか。

脳内「報酬系」で得られる「多幸感」のバランスが崩れてしまう

「ハマる」状態は、脳のメカニズムと深く関連しています。 脳は約1000億個もの神経細胞で構成されており、ホルモンなどの神経伝達物質を通じて情報をやりとりしています。脳内には「報酬系」と呼ばれる領域があり、視床下部外側野、側坐核、扁桃体、前頭眼窩野などの部位に広がっています。ここで働くのがドーパミンやセロトニンといった物質です。ドーパミンは喜びや快楽などの「多幸感」をもたらす物質で、人の意欲とも深く関わります。しかし過剰に放出されると「依存」を起こしてしまうため、セロトニンがその調節を担っているのです。
アルコールを飲んで気持ちよくなるのは、報酬系で快楽物質が働くからです。セロトニンが機能している間は快楽に溺れることもありませんが、そのバランスが崩れてしまうと、ドーパミン過剰の状態から抜け出せず、やがて依存になってしまうのです。
バランスを崩す要因としては、もともと遺伝的にセロトニンが少ない場合もありますし、長年の飲酒によって神経伝達物質の働きが変化する場合もあります。しかし「このレベルを超えたら依存が始まる」という明確なラインはなく、個々の身体状況によっても大きく異なります。

「ハマる」とは意欲そのもの。人生を充実させてくれるものでもある

昨今では「物質によらない依存」にも注目が集まっています。典型的なものが、ゲームやギャンブルです。共にやり始めると熱中し、寝食を忘れてのめり込んでしまう危険性を秘めています。ネットを見過ぎたり、やたら買い物したり、吐くまでドカ食いするのも、依存という点ではアルコールと同じ。脳内報酬系で多幸感を味わう経験を繰り返すうち、制御できなくなってしまうのです。
依存は物質的・身体的な要因だけでなく、仕事がつらい、家族とうまくいかない、将来が不安といった社会的・心理的なストレスも大きく関わります。それが依存の解決をいっそう複雑にしています。
だからと言って「ハマる」ことが全て悪いわけではありません。ジョギングをする人が走っているうちに経験する「ランナーズハイ」も、メカニズムは同じです。ランナーズハイなら誰に迷惑をかけることもありません。また天才的な棋士やプログラマーのように、一つの分野にハマることで道を究め、新たな価値を生み出す人もいます。「ハマる」とは意欲そのものであり、「ハマる」経験がないと、人生は充実しません。
「ハマる」が、脳の各部位のどういった働き・連携から生み出されているのか、さらに研究を深めていきたいと思います。

1000億もある神経細胞がどう連携して
「ハマる」状態が発生するのか、
詳細に明らかにしようと
研究を進めています