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広島工業大学 副学長 林孝典×広島県 政策監 山中ゆかり

広島工業大学と広島県がタッグを組み
地元で挑戦する理系人材を応援

広島工業大学と広島県が2023年2月2日に締結した「包括的連携協定」。大学と県が連携して技術系人材を育てること、デジタル技術を使って地域課題を解決することなどを目標に掲げています。このたび、連携協定を主導する広島工業大学の林副学長と広島県の山中政策監に、協定の骨子や今後の取り組み、これから必要とされる人材などをテーマにお話を伺いました。

協力体制を強化し地域課題に向き合う

―― 包括的連携協定を結ばれた背景について教えてください。

林副学長(以下、林)
広島県と広島工業大学では、それぞれ将来のビジョンを策定しています。広島県の『ひろしまビジョン』では、県民一人一人が「安心」の土台と「誇り」により、夢や希望に「挑戦」している姿を目指し、DXの推進、ひろしまブランドの強化、人材育成の視点でさまざまな施策が進められています。一方、本学が目指す大学像を具体的に示す『HIT Vision』では、社会に貢献できる倫理観を持った技術系人材の育成、持続可能な社会を創造する研究の推進、地域社会における創造の拠点となることなどを掲げています。広島の地で活躍できる専門性の高い技術系人材の育成や、デジタル技術等を活用したさまざまな地域課題の解決など、お互いの将来像に重なる部分が多く、ビジョン実現に向けてこれまで以上に協力していきましょうという方針が固まりました。
山中政策監(以下、山中)
これまで広島県は、限られた予算と人員で地域のさまざまな課題解決に取り組んできました。近年、取り組む課題は複雑化しており、対応できる人材の確保も十分とは言えません。そこで、たくさんのノウハウや強みを持つ大学の力をお借りしたいと考えました。以前から複数の分野で相互連携がありましたが、総合的な協力体制を敷けたことをとても心強く感じています。

―― 連携協定ではどんな取り組みを進められますか?

連携事項は11項目と多岐に渡りますが、特に重点的に進めていこうとしているのが、「教育・文化の振興」「地域防災」「地域の安全・安心」の3項目です。具体的には、地元広島県で活躍できる技術系人材を育てること、県民全般に向けて学びの機会を提供すること、デジタル技術等を活用して災害復旧事業に係る業務の迅速化を図ることなどに取り組んでいきます。

―― スタートしている取り組みはありますか?

県内で活躍できる技術系人材育成の第一歩として、県が運営する「ひろしま業界研究講座」を学内で開催しています。学生には地元企業の強みや魅力を理解してもらった上で将来のキャリアプランを考えて欲しく、できれば広島で就職して地域社会の発展に貢献してもらいたいです。それから、1・2年生のうちに複数の県内企業で職場体験ができる理系学生向けの「パッケージ型インターンシップ」を県と共同開発し、今年の夏から本格的に動き始めています。
山中
広島県はこれまでも学生の県内就職に向けて働きかけてきましたが、デジタル化が進んでIT人材が幅広い業界で求められるようになり、理系学生の採用競争が激しくなっています。県内企業からは「思うように人材が確保できない」という切実な声を聴きます。もちろん、広島で就職するのか、県外で就職するのかについては、学生の皆さんに自由に選択する権利があるわけですが、学生には是非広島で働く可能性や選択肢を知った上で就職先を決めてほしいと思っています。地元企業のことをよく知らずに県外就職を選択しているとしたら、それは非常にもったいない。そうならないように、学生の皆さんにしっかり地元企業の情報を提供し、将来の選択肢を増やすお手伝いができればと考えています。
広島県の産業は「ものづくり」が特徴ですが、今後は農林水産業などあらゆる業界においてデジタル技術の活用が期待されています。高度な専門知識を身に付けた理系人材が活躍できるフィールドは、本当に幅広いと思います。

―― 連携協定でほかに進行中のプロジェクトは?

本学では昨年から「リカレント教育」にも取り組んでいます。本学が提供するリカレント教育の特徴は、パッケージ化された講座ではなく、本学で教えている内容であれば申し込みいただいた企業のニーズに合わせて講座内容をカスタマイズできる点です。今後は県と連携して広く情報発信し、活用いただける機会を増やしていきたいと考えています。
山中
県職員からも「技術的なことを学び直したい」「最新技術を知りたい」「事務職だけど技術の基礎を理解したい」といった声が上がります。そういう時に活用できるかもしれません。
情報技術などは特に進化のスピードが早いですから、大学を卒業しても学び続けることが求められます。ぜひ、本学のリカレント教育を活用してもらいたいです。

専門知識・技能だけでは通用しない! ?

―― これから求められる人材についてお聞かせください。

山中
技術系人材は不足していますが、単に技術を持っているだけでは社会で通用しません。では何が必要かというと、課題の本質を見抜く力、周りとコミュニケーションを取りながらニーズを正確に把握する力、技術を解決に結びつける企画力などです。これらがそろって初めて何らかの課題解決に貢献できます。言うのは簡単ですが。
確かに簡単ではないですね。本学では2020年度から、確かな「専門力」、社会人としての基礎となる「人間力」に加え、自ら課題を発見し仲間とともに解決していく「社会実践力」も備えた技術者を育成する新教育プログラムを実施しています。例えば、1・2年生の混成チームでさまざまな課題解決に取り組む必修科目などは、学生達に結構評判ですよ。
山中
「人間力」という広島工業大学の目標は素晴らしい。技術力プラス人間力があれば最強ですね。

女性の能力があらゆる分野で注目されている

―― 広島工業大学の女子学生の割合や就職について教えてください。

本学全体の約10%が女子学生です。学部で見ると環境学部や生命学部は20~30%ですが、工学部と情報学部では10%に届いていません。一方で、理系出身の女子学生を求める企業は年々増加しています。女性はコミュニケーションが上手で、男性にはない視点を持っていますから。
山中
確かに女性はコミュニケーション能力が高いですね。ミーティングでも、押し黙ることなく周りの反応を見ながら場を作ってくれます。

―― 理系女性の活躍にはどんな後押しが必要でしょうか。

本学では女子学生が将来自信をもって働けるように、JCDセンター(女子学生キャリアデザインセンター)を設置しています。女子学生が主体となって、地域貢献につながるさまざまなプロジェクトを企画・運営する団体です。本学の女子学生の80%以上が所属して、男子学生が羨ましがるくらい楽しそうに活動しています。
山中
「女性の活躍推進」は大学と県との連携項目の一つです。理系女性の就職先は男性中心の職場が多くなる傾向があり、その分、女性に配慮した仕組みが遅れがちです。県としては、女性にとっても居心地の良い職場となるよう、企業の意識改革を促し、実践に向けた取組を支援していかなければならないと感じています。
IT業界においても女性の割合はまだまだ少なめです。ITを使って社会を暮らしやすくしていくためには、女性ならではの着眼点や発想も必要です。大学として、もっと理系女性を育てていきたいです。
山中
少し視点が変わりますが、女性の処遇を改善するだけでなく、男性の働き方を変えることが、結果として女性の働きやすさにつながることもあります。例えば、広島県庁では、男性職員の育児休業取得の促進に率先して取り組んでいます。湯﨑知事も10年以上前に都道府県知事で初めて育児を目的とした休暇を取得して話題になりました。育児と聞いても、まだ学生の皆さんには実感が湧かないかもしれませんが、働く意欲があれば安心して働き続けることができる環境を手に入れることは、人生の豊かさを実感する上でとても重要なことです。男性の意識を変え、また男性が育児に参加しやすい環境を整えていくことも、女性の活躍への後押しにつながるのではないかと思います。

理想の社会を自分の頭で考えられる人に

―― 理系人材を増やすために見直すべきことはありますか?

理系人材不足を根本から解決するには、初等教育からいわゆるSTEM教育を通して科学技術に興味を持ってもらうことが必要です。本学でも小学生を対象としてものづくりの楽しさが体感できるイベントを毎年開催しています。また、大学における学びの面白さやその先に広がる世界について、高校生や中学生に紹介できる機会を増やしていければと考えています。
山中
自分が将来やりたいことを見つけて、その目標を実現するために何を学ぶか。若いうちから考えることは大切だと思います。
そうですね。一方、なかなか目標が立てづらい時代でもあるので、やりたいことが見つからない学生には「目の前の勉学に全力で取り組むことで見つかる“やりたいこと”もある」と伝えています。今の学びが将来の仕事にどう活きるかイメージできる授業を展開したいと思いますが、AIなどのデジタル技術は日々進化しており、常に学生の興味を引く授業を進めるためには、教える側も日々勉強です。
山中
最近は毎日のようにChatGPTが話題になっていますね。
まさに今、学生に正しい活用方法を理解してもらっているところです。生成される情報をそのまま鵜呑みにせず、自分自身が思考停止に陥らないことの重要性を伝えています。便利なツールではあるので、効果的な使い方を考えてほしいです。

―― 広島工業大学の理系人材の育成テーマは?

昨年「TECH SESSION」のイベントで、チームラボの工藤岳さんに「テクノロジーとアートの未来について」と題して講演いただきました。その中で、デザイン思考とアート思考の話をされました。デザイン思考が顧客の課題をいかに解決するかという「相手」本位であるのに対して、アート思考は「自分はこう思う、自分はこうしたい」という「自分」を主語に据えた考え方です。昨年策定した本学のパーパス、“未来の、その先をつくる。”を具現化していくため、デザイン思考だけではなくアート思考も発揮できる人材を育てていきたいです。ChatGPTに頼ってばかりでは、アート思考は育ちません。
山中
アート思考の「自分はこう思う、自分はこうしたい」というのは、「ひろしまビジョン」の若者の「挑戦」に重なるものがあります。広島県は、学生の皆さんの「挑戦」を後押しするため、また広島県の産業DXを牽引する人材を育成するために、2023年度から「ひろしまDX人材育成奨学金」を新たに作りました。概要を説明すると、デジタル技術を県内の大学で学び、「将来、広島県内企業等で働きたい!」という学生に対して、修学に必要な資金を無利子で貸し付けるものです。卒業後、広島県内企業等へ就業し、DX推進に資する仕事に8年間従事していただくと、貸付金の返還を免除される仕組みになっています。詳しくは県のホームページに掲載されている募集要項を確認してみてください。将来の選択肢が増えることで、「自分はこうしたい」に一歩近づけるかもしれません。広島はものづくり産業が盛んで自然も豊か。そんな広島県を誇りに思って、自分の夢や希望を叶えるために挑戦できる場所にしてもらいたいと思っています。

林 孝典 氏

岐阜県出身。1990年、筑波大学大学院工学研究科修士課程修了。日本電信電話株式会社勤務を経て、2017年に広島工業大学 情報学部 教授に就任。2023年より同大学の副学長を務める。専門は「通信・ネットワーク工学」。博士(工学)。

山中 ゆかり 氏

広島県出身。1995年、広島県庁に入庁。総務局財政課、研究開発課等を経て、2022年に総務局経営企画チーム 政策監に就任。広島県内の企業や大学と連携し、ひろしまブランドの強化、子育て・高齢者支援、教育・文化の振興(人材育成)などに取り組む。