広島工業大学

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TECH SESSION INTERVIEW

チームラボ工藤 岳TAKASHI KUDO

テクノロジーの結集で生まれるアートから
新しい価値観を提案していく

エンジニアやCGアニメーター、建築家や数学者など、多分野のスペシャリストが集まり、国内外で評価されるデジタルアート作品を発表し続けている「チームラボ」。テクノロジーとアート、さらに自然や都市空間などが融合した作品群は、どれも幻想的かつ神秘的で、訪れる人の心をつかみます。そんなアート集団のメンバーの一人、工藤岳さんにご自身の半生やチームラボでの仕事、表現したいこと、高校生へのメッセージなどを聞きました。

大学時代の縁に導かれてチームラボの一員に

―― まず、チームラボの概要を教えてください。

チームラボは2001年に5人でスタートした会社で、様々な専門領域を持ったメンバーがプロジェクトごとにチームを結成して仕事を進めています。デジタルアート作品ばかり注目されていますが、アプリ開発やwebサイト制作などのクライアント案件も多数手がけているんですよ。創業メンバーは、出身大学こそ違いますが、私を含めてみんな学生時代の友人。設立と同じ年に私は日本を出たので、チームラボの一員になったのは10年ぐらい後です。

Homogenizing and Transforming World ©teamlab

―― 10年間はほかの仕事をされていたのですか?

大学を卒業して、中東からヨーロッパをバックパック一つで放浪していました。最後に行きついたのがスウェーデン。ストックホルムで4年半、ゲーム雑誌の編集長をして、実家の都合で帰国しました。でも、日本では雇ってくれる会社がなくて…そんな時に、昔の遊び仲間が誘ってくれてチームラボに入りました。

―― チームラボに⼊られてからはどんな仕事を?

入った当時は広報メンバーがいなかったので、ソーシャルブランディングチームを立ち上げました。メディアはもちろん、一般の方にもチームラボについて広く知ってもらい、ブランドを確立していく仕事です。同時にチームラボのwebサイトの整理や、プロジェクトのディレクション的なこともやっていましたね。いろんな業務に携わっていた感じです。

物事の真の理解に必要なのは「体験」すること

―― 国内外にチームラボを代表する作品がたくさんあります。もっともやりがいを感じたプロジェクトは?

アブダビのサディヤット文化地区に建設中の「teamLab Phenomena Abu Dhabi(チームラボフェノメナ・アブダビ)」が、一番やりがいを感じているプロジェクトです。数年前に依頼があって、30年ぶりに現地に足を運んだんですが、子どもの頃に暮らしていた都市というつながりや、先方も日本が好きということで、大いに話が盛り上がりました。延床面積1万7000㎡ぐらいの巨大な建築作品が、2024年に竣工予定です。待ち遠しいですね。

teamLab Phenomena Abu Dhabi ©teamlab

―― 広島でも大規模なアートプロジェクトが開催されました。

2019年は広島城、2022年は福山城を舞台に作品を作りました。城って全国各地にもともとある遺産ですが、住んでいる人は意外とその価値を知らない。アートを通じてそれに気付いてもらうことも、私たちの目的の一つなんです。
それと個人的に、未来性が感じられる「広島」という街がとても好きです。スウェーデン語に「ちょうどいい」という概念で使われる「Lagom(ラーゴム)」という言葉があるんですが、良い意味で広島はまさにLagomな印象です。

―― チームラボの作品全てに共通するコンセプトはありますか。

インターネットが普及して、すごく便利になりましたよね。でも、(インターネットで)物事の本質をどこまで理解できるんだろう? 例えば、最近注目を集める「メタバース」。仮想世界で人間はいろんな体験をしますが、その場の空気感まではつかめません。人が世界と関わるには、やっぱり足を運ぶのが一番。身体的に情報に入り込む、その体験こそが価値観を広げてくれる。これが、チームラボのアート作品全般に言えることです。

チームラボ福⼭城光の祭 ©teamlab

―― 今後のテクノロジーの進化に期待することは?

ずっと昔から、人間の中には美しいもの、かっこいいものなどを「表現したい」という欲求があったと思うんです。そのために絵を描く画材道具が生まれたように、テクノロジーの正しい使い方も「表現の具体化」だと思っています。テクノロジーありきで、こういう新しいものを作りましょう、というのは少し違う気がする。テクノロジーの進化は、表現の幅を広げるためのものであってほしいですね。

社会で直面する「正解がないこと」に立ち向かう力を

―― 未来を担う高校生に伝えたいことはありますか。

今の高校生が同じかどうか分かりませんが、自分が高校生だった時は、大人が正しいと思うことばかり押し付けられていました。将来の目標も特になくて、本を読むか友人と遊ぶという毎日でしたが、自分は、その「押し付け」を気にしなかったのが良かった。そもそも、高校生でやりたいことが決まらないのは普通です。それに、普段の生活に無駄は一つもない。大人になった時に、きっと何かが役立ちます。もちろん、無駄だと自分で決めつけてしまったなら、そのまま無駄になってしまうと思いますが。

―― 社会人になる前の心構えのようなものは?

高校の試験問題には、必ず正解がありますよね。でも、社会に出ると正解がない仕事に直面します。時には、訳が分からないことが正解だったりもする。これが、学生と社会人の大きな違い。自分で解決する力、突破する力も必要になります。高校生で諦観しすぎてもまずいので、とりあえず「社会の判断基準は正否だけではない」ことを、心にとどめておいてください。

―― 工藤さん自身が今後も大切にしていきたいことは何ですか。

世界放浪の旅とか好きなことをしてきましたが、「人との縁」は大切に守ってきました。高校の友人とは今でも年3回は会うし、小・中学校の友達とも連絡を取り合っています。この絆はずっと大事にしていきたい。社会に出た時、仕事と関係なく会える人間ってめちゃくちゃいいですよ。高校生のみんなも、今しか出会えない仲間を一人でも多く見つけてほしいですね。

チームラボ
工藤 岳(くどう たかし)さん

1977年、東京都生まれ。4歳からUAE(アラブ首長国連邦)の首都アブダビで過ごす。中学3年生で帰国。1996年に早稲田大学文学部(哲学)に入学。卒業後、タイ、シリア、レバノン、ヨーロッパ各国を放浪。スウェーデンでゲーム雑誌の編集に従事し、2009年に帰国。翌年、チームラボのメンバーに。