広島工業大学

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TECH SESSION INTERVIEW

株式会社ELYZA野口 竜司RYUJI NOGUCHI

より良い未来のために
AIを活用できる人材を育てていく

さまざまなシーンで活躍し、私たちの生活に不可欠な存在となりつつあるAI。だからこそ、AIへの理解を深めること、有効活用する視点を身につけることは、より良い社会や暮らしの実現に直結します。そこで今回は、AIに関する情報発信や導入支援などに取り組む野口竜司さんに話を伺いました。

「AIを使う人」が求められる時代に

―― 野口さんがAIの分野に関わることになったきっかけは何だったんでしょうか?

大学生の頃、ゼミでゲーム理論について研究していたんですが、そこでAIに近い技術に触れる機会があったんです。また、在学中にご縁があってベンチャー企業に入社し、さまざまな事業に関わる中で、AIのレコメンドエンジン立ち上げの責任者になりました。自身のキャリアとAIが、少しずつ結びついていったかたちです。

―― これまでのキャリアを通じて、特に印象に残っているエピソードはありますか?

数年前に「文系AI人材になる」という著書を出版したのですが、それがキャリアのターニングポイントになったと感じており、強く印象に残っています。書籍の内容について多くの方から反響があり、仕事の質や人とのつながりも大きく変化しました。

野口氏の著書「文系AI人材になる」

―― 著書のタイトルにもなっているように、野口さんは「文系AI人材」の必要性を説いています。その理由について教えてください。

「文系AI人材」とは私が独自に使っている言葉で、AIを「つくる」人ではなく、AIを「使う」人のことを指しています。世の中を見渡してみると、AIをつくる人のコミュニティや教育は確立されていた一方で、使う側の環境は未成熟の状態が続いていました。しかし、企業の生産性向上や社会課題の解決を実現するためには、AIを有効活用できる人材が増えていくことが不可欠です。そんな現状を変えたいという想いもあって、書籍を執筆しました。

2年前のAIは「レガシー」だと考える

―― 「AIの活用は難しい」という先入観を持っている人は多いのでは?

実際にそう感じている方は少なくありません。ただ、近年はAIの民主化が進んでおり、誰でも簡単に活用できるようになりつつあります。そのため、AIの専門知識を身につけるよりも、うまく活用するための視点を磨くほうが重要だと考えます。

―― どのような視点が重要になるんでしょうか?

大切なのは「イシュードリブン」※1 であることだと考えています。「このAIを活用することでどのような課題が解決できるのか」「今の事業にAIを掛け合わせることで新しいことが実現できないか」といった視点を持つことが重要ではないでしょうか。
また、多様なAIを知って使い倒す力と、別々のAIを組み合わせて目的達成に向けて最適化する力、両方のバランスが求められると感じています。

―― 人にAIの概要や使い方を伝える際に、意識していることはありますか?

AIに対しての苦手意識を生まないよう留意しています。具体的には、専門的で難しい内容ではなく、AIを活用するうえで本当に必要な知識を、必要な順番で伝えるようにしています。また、AIの仕組みがブラックボックス化していることも、苦手意識を抱く原因の一つです。そのため、実際にAIツールに触れてもらい、どんなことができるのかを体験してもらうことも大切にしています。

―― AIを勉強するにあたって、注意すべきポイントはありますか?

「AIはものすごいスピードで進化している」ということを、まずは認識していただきたいと思っています。私はよく「2年前のAIはレガシーだ」と言っているのですが、それくらい新しい技術やサービスが生まれるのが早いんです。そのため、過去の技術や事例は一旦まっさらに忘れて、現在のAIはどんなことができるのかを都度アップデートしていく必要があると思っています。もちろん、過去の知識が一切不要になるということではなく、基礎や歴史として学び、応用していくことも大切です。

―― アップデートするためには、普段どのように行動すればいいでしょうか?

大きく3つのアプローチがあると思っています。1つ目は、新しい技術をキャッチアップして発信している人から情報を得ること。2つ目は、AI技術が使われているニュースアプリを活用すること。最初のうちに興味のある分野のニュースを中心にチェックすることで、アプリが欲しいジャンルの情報をレコメンドしてくれるようになるからです。そして3つ目は、実際の現場でどのようにAIが活用されているかを見ること。私はAIアドバイザリーとしてさまざまな企業に伺う機会があるため、その度に現場の様子を見るようにしています。

横のつながりを増やすことが成長につながる

―― AIに関わる中で、やりがいを感じるのはどんな瞬間ですか?

「AIのことがわからない、でも知りたい」とおっしゃっている方が、自ら学び実践する中で、AIを使いこなすようになる姿を見ると、この仕事をしていて良かったと感じます。また、AIがビジネスの現場で活用され、愛される存在として機能している様子を見るのも嬉しいですね。

―― 未来の社会を担う高校生に向けて何かメッセージはありますか?

AIを他人ごとではなく、自分ごととして捉えてほしいと思っています。そのためには、可能な限り早いタイミングで先端技術教育を受けたり、超高速で進化を続けるAI技術に触れたりする機会を見つけてほしいですね。
また、コラボレーションする能力を身につけてほしいと考えています。人は一人では何もできません。私自身もさまざまな企業や団体に所属し協業することで、いろんな情報や知見が結びつきましたし、選択の自由も増えました。副業も当たり前の時代ですし、ぜひいろんなコミュニティに身を置いて、さまざまな人との交流を楽しんでほしいと思います。

―― 最後に、野口さんの今後の目標を教えてください。

今後もAIにはずっと関わっていきたいと思っています。その中で特に注力していきたいのが、AIやDXの事業責任者たちのコミュニティを運営していくことです。責任者のみなさんはかなり孤独な立場で、かつ困難な業務を担当しています。私自身もかつてはゼロベースでAIについて勉強し、とても苦労した経験があります。だからこそ、横のつながりを育てていきたい、同じ立場の人とコミュニケーションできれば勇気が湧きますし、学習の機会にもつながり、結果としてビジネスや社会を変えるヒントが生まれると信じています。

※1 すでに顕在化している課題に対して、それを解決していくための思考法

株式会社ELYZA
野口 竜司(のぐち りゅうじ)さん

東京大学松尾研究室発のAI企業、株式会社ELYZAのCMOとして、多くの企業のAI導入をサポート。その他、著名人との対談を通じた情報発信や、金融分野におけるAIの活用推進、AI人材の教育に従事するなど幅広く活躍中。