2005年度入学式式辞(2005年4月4日)

2005年度に入学された皆さんへ

入学式お祝いの言葉 「いざ宝探しに」

新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。また、大学院進学の皆さんおめでとうございます。ご来賓および保護者の多数ご臨席のもと、平成17年度広島工業大学大学院および学部入学の宣誓式を執り行うことができますことは、私たち本学関係者一同にとりまして最高の喜びです。今日は桜の満開には少し早いようですが、大学が1年で最も華やいだ雰囲気になる日です。教職員、在校生ともども諸君の入学・進学を心から歓迎します。
保護者の皆さま方におかれましては、長年にわたる教育の一つの区切りとなることかと存じます。高いところからではございますが、これまでのご苦労に対し敬意を表しますとともに、この度の入学を心からお慶び申し上げます。

さて、諸君はいま大学という新しい環境に入り、いささかの不安と意気込みとが交錯していることでしょう。
諸君は「宝島」という小説を読みませんでしたか。入手した宝地図をもとに主人公のジム少年は孤島に渡り、宝を探すというイギリスのステイブンソンによる冒険小説です。それを思い出したのは大学は宝探しをするところだからです。 大学という島での宝は、新しい知識であったり、技術であったり、生涯の友であったり、師であったり、先輩であったりします。これらの宝は「宝島」の宝にも増して諸君の一生を決めるほど大切なものになるであろうことは、これまでの私の経験から断言できます。
広島工業大学は、校祖の鶴虎太郎先生の信念であった「教育は愛なり」を建学の精神としています。私たちは、この「愛」は「可能性を信ずること」と理解しております。広島工業大学では、われわれ教職員は諸君一人ひとりの可能性を信じて教育にあたります。だから諸君も、これから大学生活や大学院生活を始めるにあたって、自分に可能性があることを是非信じて欲しいと思います。ジャングルで生き延びる力を発揮する諸君もいるでしょう。あるいは地図の解読に能力を発揮する諸君もいるでしょう。諸君にはそれぞれの能力があり、宝を見出す可能性があるということです。

服部之総という人の「黒船前後」という本の中に船の発達に関する興味深い歴史が紹介されていました。初めて鉄造船が建造されたのは1787年で、8トンほどの川船で船の名前はトライアルでした。現代はほとんどの商船は鉄でできていますが、船を鉄で造るということは船名のとおり、当時はまさに「trial、試み、試験的なもの」だったのです。なぜか。鉄の加工が難しかったからか。そうではありません。それどころか、当時の技術をもってしても、鉄造船のほうが木造船より1割多く荷物を積むことができました。にもかかわらず、二番目の鉄造船が世にでたのは、「トライアル号」建造20年後でした。その理由は笑い話ではありませんが、「水に沈む代物で船が造れるものか」という意見が支配していたからでした。ある事柄にとらわれると間違ったことがまことしやかに力を持つ例です。

似た話が飛行機の歴史にもあります。飛行機を発明したのはライト兄弟ですが、それは1903年でつい100年前のことです。しかし実はそれより400年も前に、日本では室町時代になりますが、レオナルドダビンチは飛行機を設計して図面を残しております。それは鳥の羽ばたきのように翼を上下運動させて飛ぼうとするものでした。しかし人が飛ぶには現代の飛行機のような固定翼でなければ飛べないことがわかるまで400年かかりました。羽ばたき飛行機の提唱者が天才レオナルドダビンチであったのが400年もかかった原因のひとつだったかもしれません。
新しい一歩を踏み出そうとするとき、あるいは新しい試みをしようとするとき、大なり小なり必ず既存の考えにとらわれることがあるということです。しかし既存のものにとらわれた狭い考えでは宝は発見できません。諸君には新しい考えで挑む気概を持って他から探しに挑戦して欲しいと思います。

ところで宝探しには地図が必要です。諸君は地図を持っているでしょうか。地図とは、これから4年間大学で学ぶにあたっての志、計画のことです。宝探しのための地図ですから一人ひとり異なっていていいのです。自分で鉛筆で書いたものでもいいのです。もしまだ持っていなかったら、新しいノートに是非書いてみてください。既に計画を持っている人も今日の入学式の日に改めて確認する意味でもう一度書いてみてはどうでしょう。 "○秘:広島工大島(じま)・宝探し作戦ノート"です。明日以降の活動も記録すると"宝探し記録"、すなわち日記となります。

本学では、「常に神と共に歩み、社会に奉仕する」という教育方針を掲げています。教育方針は、われわれがどのような考えで教育するか、諸君にどのような姿勢で学んでほしいかを言ったものです。宝探しにひきつけて言えば、在学中の宝探しは何のための宝探しか、宝探しの目標は何か、あるいは宝探しの心構えを言ったものです。いわば、大学が諸君全員に配布する宝探しのための共通の地図(official map)です。
「常に神とともに歩む」には人それぞれにとって深い意味がある言葉だと思いますが、宝探しで言えば、孤島のジャングルの中でも決して一人ではないよ、ということです。宝探しに出かけた君のことを常に支えてくれる人がいるよ、ということです。教育の場では、「自然を畏敬し、環境と倫理を重んずること」で具現化しようとしております。すなわちあらゆる学びの中で、環境と倫理を重視するということです。「社会に奉仕する」は人とのかかわりを大切にするということです。先ほど船の話をしましたが、「奉仕する」という言葉は、ギリシア語では、「下に」という前置詞と「船を漕ぐ人、漕ぎ手」という名詞からなっているそうです。だとすると、「社会に奉仕する」は「社会を根底から支えるようなところで社会という船を動かす」ということです。船に乗るお客さんでなく、環境と倫理を重んずる社会の漕ぎ手であろうということです。

話は変わりますが、本学では自動車での通学、1年生諸君のバイクでの通学を禁止しております。保護者の方々もご承知おきください。昨年、そして一昨年も2名の学生が交通事故で亡くなっています。免許取得後1年の事故率が圧倒的に高いことは皆さん承知のとおりです。また大学には、ハラスメントや相談ごとに対応する体制を整えています。諸君が悩むことや教員から不利益を被るようなことがあったら、迷わずしかるべき窓口に申し出てください。私たちは、今日ここにいる仲間が一人も漏れることなく、一緒に卒業したいと願っています。

保護者の皆様、今申し上げました思いをもってご子息をおあずかりしたいと思っています。教育という営みは、宝探しがそうであるように、一人の力でできるものではありません。特に学校教育の総決算が求められる大学教育にあってはなおのことです。本人、大学、社会、卒業生そして保護者の皆さまとの協力があって初めて実りある教育が実現します。今日は親しくお話する十分な時間はございませんが、本学では、保護者の皆様との懇談する機会として教育懇談会を各地で開催しております。是非ご出席いただき親しく教育について語り合うことができればと願っております。

新入生諸君、4年後ないしは大学院2年後の卒業式や修了式にはそれぞれが探し出した宝を持ち寄ることにしましょう。有意義な大学生活となることを願ってお祝いの言葉とさせていただきます。広島工業大学への入学あらためておめでとう。