2007年度に卒業・修了された皆さんへ
大学院修了および学部卒業の皆さん、修了および卒業にあたり、はなむけの言葉を申し上げます。皆さんは、このキャンパスでの学びを終えて、今日晴れて修了・卒業の日を迎えました。
おめでとうございます。
保護者の皆様にも、高いところからではございますが、心からお喜び申し上げます。
また来賓の皆様、第5期卒業および卒業後25年の同窓生には、お忙しいところ卒業生・修了生の船出に駆けつけてくださいましてありがとうございます。
卒業生の皆さんが1年生のとき私が担当した総合特別講義のことを覚えているでしょうか。
6~7人ごとのグループになり、何か事件に関する新聞記事を読み、報道されているような事件になるまでの経緯を想像・創作し、ことの顛末を"劇"に見立てて筋書き(せりふの台本)を作ることをやりました。
皆さんの学年では、食品スーパーで売れ残った魚介類や肉類などの加工日と消費期限を改ざんして販売していたことが発覚したことを報じた新聞記事を用いました。進行役、記録係など役割分担を決めて、それぞれグループでまとめてもらいました。
先日、皆さんが提出した記録を改めて読みました。いろいろな筋書きがありました。あるグループは、「今日も残ったよ・・・。もったいないなー」というアルバイトの学生の独り言から始まる筋書きを考えました。また「最近は業績が上がっていない。何とかしなさい!」という店長の命令から始めたグループもありました。
多くのグループが考えた筋書きは、「そんなことしていいのか?」や「それって大丈夫?」というせりふが、「大丈夫、大丈夫、わかりはせん」とか「ま、いいか」といったせりふで打ち消され、改ざんに至るものでした。
それから4年経ちました。残念なことに、この1~2年の間、皆さんが作った筋書きの「改ざん」に似た偽装事件がなんと多く明るみに出たことでしょう。
皆さんが事例とした改ざん以上に悪質なものも多くありました。売れ残った食品から原材料を回収して作り直した食品。ブランド産地を名乗りながら実際は他の産地のものを使った食品。牛肉100%と表示しながら、豚肉や鶏肉を混ぜていた事件など食品だけに限っても、消費日改ざんどころではありません。
4年前、総合特別講義の中で仮想の"改ざん"に関わった皆さんは、立て続けに起きている最近の悪質な事件をどう思っているでしょうか。
広島工業大学の教育方針は、「常に神とともに歩み、社会に奉仕する」です。
総合特別講義でも話しましたが、この教育方針によって培うものは、「技術者としての基礎知識とそれを応用する力」は当然として、同時に、「社会と環境を重視する認識と環境保全や社会奉仕のために行動する力」、そして「高い技術者倫理とそれを実践する力」です。
「倫理を実践する力」については、「『やってよい』と『やっていけない』の判断を瞬時に行う力」と授業で言いました。倫理は即座に判断する反射的な反応を必要とするからです。そして、「反射的な反応は、多くのスポーツがそうであるように、繰り返し繰り返し行うことによって体で覚えて初めて可能」と申しました。防火訓練になぞらえて、その繰り返しを"倫理訓練"とも言いました。社会で起きているいろいろなことに対して自分をその中に置き、自分だったらどうするか、常に自分の対応を考えることで、"倫理訓練"を行うことができます。
皆さんが学んだ広島工業大学の教育方針の「常に神とともに歩み社会に奉仕する」は、この力を身につけることだったのです。 卒業・修了して社会に出てからも、総合特別講義でやったように、自分を事件の当事者に置き換えることによって技術者としての"倫理訓練"を続けて欲しいと思います。
総合特別講義の復習になってしまいました。
皆さんは、今日、広島工業大学での学びを終えて社会に出て行きます。車で言えば、小中高校時代に作られたシャーシに、エンジンを搭載し、運転席を取り付け、いろいろな色に塗装された外板を取り付け、車輪をつけ、積み出しをする場面に似ております。大学院修了の皆さんは特別仕様車かも知れません。
ただ、車と皆さんとでは大きな違いが一つあります。それは、車はいったん使い出したら後は中古車として特別な場合を除き商品価値は下がる一方ですが、皆さんの価値は皆さんのこれからの成長によって高まるということです。
"倫理訓練"のように、自分をある場面の誰かに置き換えることによって、ものの考え方が訓練され、成長することができます。また本を読むことも皆さんを成長させます。もちろん取り組んだ仕事の経験によって成長することは言うまでもありません。
ここで大切なことは皆さんの成長の可能性を制限的に考えてしまわないことです。本学の建学の精神である「教育は愛なり」の「愛」は、皆さんの可能性を信ずることだと、総合特別講義の中で申しました。これからは皆さんが自ら自分を教育することになりますが、自分の可能性を制限的に考えないでください。「教育は愛なり」の精神で自分を教育して欲しいと思います。
最後に一つ。
皆さんの中には、いわゆるU-ターン就職をして出身地に帰る人もいるかと思います。また広島出身者でこのまま広島にとどまる人もいるかと思います。保護者の皆さまからの強い希望もあって、広島工業大学では昨年からU-ターン就職に力を入れております。
実は、私自身、Uターン就職は若者の可能性を制約することになりあまり前向きに考えていませんでした。青雲の志ではありませんが、「故郷を出(い)でて世界に羽ばたき最前線で活躍する」、若者はそういう気概を持つべきだと考えていました。
しかし、昨年5月、呉で行われました呉地域と本学との産学官連携に関するシンポジウムに出席して、「これからは地方の力になる人材が必要だ」という思いを抱かされました。広島工業大学にはそうした人材育成が期待がされているのではないかと思わされました。
地方が疲弊して国が栄えるはずはありません。文字どおり「オンリーワン」的な地方の企業や仕事の屋台骨(やたいぼね)を担う中核技術者として働き、地域社会のために奉仕する、それがこれからの時代の最前線なのではないか、ということです。
地方は経済的な問題をはじめ、多くの困難を抱えていますから、半端な気持ちではできません。生まれ育った土地に対する愛着がその困難を乗り越えさせる力となります。
Uターン就職をして出身地に帰る皆さん、生まれ育った地域は、新しい力として皆さんを必要としています。高い志を持って帰り、地域社会に奉仕して欲しいと思います。
よい船出を願って、卒業・修了のはなむけの言葉とさせていただきます。