2008年度に入学された皆さんへ
入学・進学おめでとうございます。皆さんを迎える今日は、大学の年間行事の中でも、最も晴れ晴れしい1日です。満開の桜も、皆さんの今日の入学式を待ち構えていたかのように咲き誇ってくれています。皆さんの心も晴れがましい思いでいっぱいであろうと思います。
保護者の皆さま、高いところからではありますが、ご子女の入学・進学を心からお喜び申し上げます。
ところで、今年は北京オリンピックの年です。多くのアスリートは、オリンピックに出場する夢を描いて、その実現のために練習に練習を重ねて挑戦します。先月開催された名古屋国際女子マラソンに2000年シドニーオリンピック優勝者の高橋尚子選手が出場しました。ご承知のように、高橋選手は前回のアテネオリンピックの選考に漏れた後、北京オリンピック出場という新たな目標を掲げ、改めて4年間の練習計画を立てて挑戦しました。残念ながら、タイムは2時間44分18秒で、代表選手には選ばれませんでした。
オリンピックは4年に1回です。4年という年限は1年に比べて断然長い年月です。それゆえオリンピックにはオリンピックの価値があります。ただ、長いようですが、目標を定めその実現のための計画を立てて高橋選手のように改めて挑戦するには適当な長さでもあります。偶然かもしれませんが、皆さんの大学生活もオリンピックと同じ4年間です。
大学での4年間は夢を描くには適当な長さです。辞書には、「夢」は「将来実現したい願い」と書いてありました。いわば、その時々の自分の「仕上がり図」と言っていいでしょう。そして「夢を描く」とは、自分が必要とされる場でいきいきとして用いられている姿を描くことです。
私は皆さんが履修する「自校教育論」という授業を担当しておりますが、昨年の授業で、4年間で何を目指すか、そしてそれを達成するために何をするか、考えていることを書いてもらいました。横方向に4年間で達成したい事項を並べます。縦方向は1年ごとに区切って、1年ごとの達成目標を書いてもらいました。オリンピックで言えば、出場する種目、目標記録、そしてそのための練習計画を書いたわけです。皆さんにも書いてもらおうと思っています。
夢を描き、その達成のための計画を立てることは将来を考えることではありますが、それは足元を見つめ直すことでもあります。もちろん現在の知識や経験をもとに立てるわけですから、必要があれば修正していけばいいわけです。
どんな夢をえがくか。今日、皆さんは4年間の新しい生活を始めました。これからの4年間の大学生活についてどのような夢を描き、その実現のためにどのような計画を立てるか考えてみてください。
大学には皆さんの夢を考えるためのきっかけとなるいろいろな宝の発見や人や知識との出会いがあります。ここには愛媛出身の人も多いでしょうが、私は、学生時代、愛媛県の今治市出身の矢内原忠雄という人の著作物に出会いました。今にして思うと私はそこから自分の夢を描いたようです。
資格を取得し専門家として働く夢もあります。課外活動で仲間と練習に励み、インカレ、それこそオリンピックに挑戦している場面を描くこともいいでしょう。専門分野のオリンピックに当たる場に挑戦することもあります。海外の大学に留学する夢もあるでしょう。生まれ育った町に帰り、町に新しい息吹を吹き込み、その活性化のために奔走している夢も考えられます。
広島工業大学では、「常に神とともに歩み社会に奉仕する」という教育方針を掲げております。「神」は、"Something Great"と理解していいかと思います。この教育方針に則り、教育の現場では、「基礎知識とそれを応用する力」を身につけると同時に、「社会に奉仕すること、環境問題にかかわること、そして技術者としての高い倫理を身につけること」を学習教育目標としています。「社会・環境・倫理」です。この3つはいずれも21世紀の技術にとって非常に重要なことです。技術を教える大学はたくさんありますが、本学のような教育方針を掲げる技術系大学は多くありません。このような教育方針の下で学べることを誇りに思っていただいていいと思います。
技術系の人間が「社会・環境・倫理」にかかわる夢は素晴らしいと思います。排ガスの少ない自動車エンジンあるいは燃費のよいエンジンの開発、ハンデイキャップを持った人たちが使える技術の開発、それはオリンピックに出場する夢と同じくらい世界的にまた人類的に価値があることです。本学でこれから学ぼうとする皆さんに持って欲しい夢の一つです。
本学には女子学生キャリアデザインセンターがあります。JCDセンターと言っております。本学では女性技術者の育成をこの数年の重点事項として力を入れておりますが、JCDセンターはその拠点です。15日には新入生歓迎のセミナーが計画されておりますので女子学生の皆さんは是非参加してください。
先日、そのJCDセンターの外部顧問になっていただいている「システム工房エム」という会社の社長さんの持田朝子さんから、本学訪問に対するお礼のメールをいただきました。島根県出身の人も多くおられると思いますが、持田さんの会社は島根県松江市にあるシステム開発のベンチャー企業です。メールには、「主婦であった私が夫の突然の他界により一夜にして代表取締役に就いてしまい、泣いている時間など無く、引き継いで13年になりました。御校の学生の皆さんそれぞれに自分では気が付かないだけで、さまざまな可能性を持っておられます。御校に入ったことをチャンスととらえ、チャレンジする学生さんが増えることを期待いたします」とありました。 これは私の思いそのものでした。持田さんは、主婦のとき、社長として働く可能性など"夢"にも思っていなかったのではないでしょうか。持田さんが言うように、広島工業大学に入ったことをチャンスとして皆さん一人ひとりの夢を描いてください。夢を描くときには自分で自分の可能性を制限的に考えないようにしてください。夢を描くことは、「自分が必要とされる場でいきいきとして用いられている姿を描くこと」なのですから。
その持田さんは、最近、聴覚障害を持つ方が携帯から110番するシステムを開発して、島根県警に納めたそうです。どれだけ便利で立派な電話が開発されても、聴覚障害を持つ方には無用の長物です。それを聴覚障害の人にも役立つようにしたのです。これはまさに「社会・環境・倫理」に関係した技術です。こんな技術に関わる夢を描いてもいいのではないでしょうか。
私は、留学やインターンシップに出かける学生に、「高い志と未知(未知数の未知)に向かう心意気、そして適度の楽天性」という言葉を贈っています。皆さんにも贈りたいと思います。
夢を描き、それを実現するには、「これをやりたい」という「志」と「さあ、やっていこう」という「未知に向かう心意気」が必要です。ただそれ以上に最後の「適度の楽天性」が必要です。なぜなら、事柄は計画どおりに運ぶとは限らないからです。計画どおりに行かないときには「適度の楽天性」が重要となります。名古屋国際のレース後、さばさばとメデイアに対応していた高橋選手の姿に、私はなにかほっとするものを感じました。
今日は皆さんにとって人生で一番素直になっている日の一つと思います。キャンバスは真っ白です。4年間の夢を描いてください。そしてその実現のための計画を考えてください。4年後、皆さんのオリンピックがどんなオリンピックになっているか楽しみにしながら、お祝いの言葉とさせていただきます。