小松 正雄

こまつ まさお

小松 正雄 Masao Komatsu

工学部 知能機械工学科 教授
出身:大阪府
komatsu@cc.it-hiroshima.ac.jp

「金属が曲がる」理由が解明されて、まだ100年も経っていない

金属が曲がるという現象は、私たちもよく目にします。細い針金を手で曲げたことがある人もいるはずです。でも硬い金属が、なぜ小さな力で曲がるのか、不思議だと思いませんか? そのメカニズムが明らかになったのは、1930年代頃からです。
金属結晶中には『転位』と呼ばれる欠陥が存在します。通常、原子は上下左右に正しく配列されていますが、一部に配列のずれている箇所があります。転位とは、正常な配列の部分とずれている部分の境界を指します。金属に力を加えると、その力によってずれた配列の原子が元に戻ろうとして転位の位置が移動し、塑性変形する、つまり「金属が曲がる」わけです。金属の硬さ・曲がりやすさは、転位の活動しやすさが決めると言ってよいかもしれません。
ただし、転位の活動が起こるのは、音速を超えないスピードで曲げようとする場合。猛スピードの自動車が壁にぶつかる時、車体を形成する金属は、音速を超える急激な力によって変形します。この時、転位は活動していません。では一体どういう理由で、金属が曲がるのでしょう? 私は電子顕微鏡を使って、そういったことを調べています。

猛スピードの自動車が激突する時、金属にはどんな変化が起こっている?

猛スピードで金属が曲がる(変形する)『超高速塑性変形』のメカニズムは、まだ誰も明らかにしていません。金や銀などFCC(面心立方格子構造)と呼ばれる結晶構造を持つ金属を超高速で曲げると、積層欠陥四面体という、原子の抜けた穴が大量にでき、ここがもろくなるため、とわかりました。しかしそもそも、なぜ積層欠陥四面体が大量にできるのか? それが謎。電子顕微鏡を使い、ナノサイズまで微細に調べているのですが、原子はなかなか秘密を明かしてくれません。
物質の微細な構造を知ることは、産業の発展の上でとても大事なんです。例えば硬くてサビに強いステンレスをさらに丈夫するため、いろんなものの化合を考える場合。何をどれだけ化合すれば性質がどう変わるのかわかっていなければ、目的とする金属は生まれませんし、安心して使用できません。
超高速塑性変形の秘密も同じです。これがわかれば、超高速での変形にも負けない材料の開発につながるかもしれません。あるいはもっと別の、新材料開発に応用できるかもしれない。そのためにも、一つひとつ研究を重ねる必要があります。

  • 試験機

  • 試料受座

  • 金結晶中に生成した積層欠陥四面体

『超高速塑性変形』の謎は深い。それだけに取り組みがいがある

他にも、電子顕微鏡が得意とする様々な分野に取り組んでいます。例えば、結晶構造を持たないアモルファス金属が、きれいな結晶構造に変化する際の状況を調べたり。原子100個レベルの超微粒子の性質を詳しく見たり。同じアルミでも、超微粒子になると性質が変わります。通常は660℃程度の高熱にも耐えるのに、超微粒子のアルミは100℃で溶けてしまう。チタンも超微粒子になると活性化し、抗菌などに役立つようになる。様々な材料がナノレベルになって初めて見せる性質・挙動を追究しています。
ゼミの学生は、私の研究をベースに、それぞれの関心に応じたテーマを進めています。ガスを使って微粒子を生成し、その性質や挙動を調べる者もいますし、積層欠陥四面体についての研究を深める者もいます。私のゼミでは、研究対象とする材料を造るための装置も、自分たちで組み上げます。それで装置造りについて興味を広げる学生もいます。
私の研究の中心である超高速塑性変形の秘密には、研究者人生全てを使っても到達できないかもしれません。それほど大きな、取り組みがいのあるテーマです。少しでもその秘密に近づきたいですね。

ゼミ取材 こぼれ話
自動車のボディーには、高張力鋼(ハイテン)と呼ばれる金属が使われています。軽くて丈夫な高張力鋼が、自動車の性能向上に貢献してきた、と言っても過言ではないでしょう。「日本のモノづくりが優れていたのは、ハイテンのような付加価値の高い材料を造り、品質を向上させてきたからです。しかし今や、こうした材料は他の国でも造れるようになりました。しかも日本より低コストで。日本が世界で戦うには、他にない、新たな機能を持った材料を生み出していかなければなりません」と小松先生は語ります。先生の研究成果もいつか、新たな機能性材料の創造に貢献するかもしれません。