「建物は、なぜ壊れるのか?」私がこのテーマに深く関わるようになったきっかけが、1995年に発生した阪神・淡路大震災です。当時、私は、建築耐震構造を学ぶ一学生でした。地震の多い日本では、建築物の耐震性に関する研究が進んでおり、世界最先端と言われていました。それでもあの大震災では、多くの建物が壊れてしまった。なぜ壊れるのか?どうすれば壊れないのか?を、もっと突き詰めないとダメだ、と感じたんです。
建物の耐震性を上げるには、2つの対策があります。1つは、新しく建てる建物を強くしておくこと。もう1つは、古い建物を適切に補強することです。新しく建てる場合は、難しく考える必要はありません。費用が許す限りの耐震技術をつぎ込めば良いのです。
しかし、古い建物は?耐震性が低いからと言って、簡単に取り壊して建て替えるわけにはいきません。古い建物を利用している人々がいます。そこで暮らす家族がいます。古い建物を可能な限り使いながら、地震に耐えられるようにすることが大事。古い建物を『再生』できるような補強のあり方を考えていきたいのです。
補強するからといって、何でもかんでも強い部材をくっつければいい、というものではありません。新しく補強した部位は確かに地震に強い。けれど古い建物とうまくつながっていなければ、地震の際に新しい部分だけが残り、古い部分は崩壊してしまうこともあります。つなげた部分がしっかり強くなっているか、が大切なんです。
また、いかに有効な手段であっても、施工が容易でないもの、難しい技術を要するものは勧められません。そういう複雑な手段は、なかなか広がっていかない。今ある部材、今ある技術を応用してできる補強の方が、世の中に普及しやすいんです。耐震補強を考える時には、技術や素材の新しさだけに目を奪われていてはいけません。
学生たちと、「耐震性に問題あり」とされている建物を見学に行くこともやっています。補強工事の際には、許可を得て計測機器を持ち込み、実際にどれほど耐震性が向上したか調べたりもしています。実地での測定や検証を重ねると、学生の心にも「耐震性をもっと上げるにはどうすればいいのか?」といった使命感が芽生えてくるようです。
ゼミでは、現実にある古い建物の情報を基に、模型を作成。どういう力を加えると各部位がどうなるか、を検証します。では補強方法は?補強に用いる部材は?といったことを学生に考えさせるんです。
方法が見つかると、実際に試験体を製作します。鉄筋やコンクリートを使い、1/2~原寸大のサイズで。この作業を行うのも学生。研究のため...もありますが、建設部材を作ることがどれだけ大変か、またどんな配慮が必要なのか学生の間に体験しておけば、社会に出た後、大いに役立つはずです。
製作した試験体は、実験機にかけ、地震に相当する力を加えます。せっかく作った試験体ですが、敢えて壊してみるんです。その結果が、事前に解析した内容と一致すれば、実際の補強にも使える、ということ。もし違ったら...やり直しです。その他、建設途中でもし地震が発生したら、組立中の部材はちゃんと使えるのか、といった研究にも取り組んでいます。
古い建物が補強によって再生されれば、街並みも維持できます。長く安心して暮らせる街にするためにも、より的確な補強に取り組んでいきたいですね。
ゼミ取材 こぼれ話
東京などの大都市には、見上げるばかりの高層建築物が林立しています。“いつか大地震が来る”と言われているのに、あんなに高い建物を建てて大丈夫?と不安になりますが...。「地震の揺れに建物が共振することで、建物は崩壊しやすくなります。高い建物は地震時でも比較的ゆっくり揺れるため、地震の揺れに共振しづらい。だから大丈夫、と断言はできませんが、一般の人が不安になるほど、高い建物が地震に弱いわけではないんです」と答える貞末先生。「ゼミで培った知識を基に、ああいった高層建築物を手がけてみたいと意欲を抱いている学生もいます。“こういうものを作りたい”という純粋な思いは、この分野で働く上で、とても大事だと思います」。