私の研究課題は、音響工学と機械工学を融合させることです。例えば、音のエネルギーでモノを動かす、とか。「そんなバカな!」と思うかもしれないけど、私たちはいつもそれらを経験しているんですよ。大きな太鼓を叩くと、そばにある小物が震えるということがあるでしょう? これは音のエネルギーが振動となって伝わるから。また、音をマイクで拾うと大きくなりますね。あれは音のエネルギーを電気信号に変えることで実現しているのです。
私は音の中でも、超音波に注目しています。イルカや犬などは超音波をしっかり聞き分けるのですが、人間の耳には残念ながら感知できません。でも人間は、この超音波を様々な場面で活用しているんです。医者が患者の内臓を調べる時に行う「エコー検査」や、漁師が魚を探す時に用いる「魚群探知機」などでは、超音波が活躍しています。
最近、実用化が急速に進んでいるのが「超音波モーター」。超音波の振動エネルギーを利用し、モーターを回すんです。極めて正確な位置で止められ、また変速機がなくてもゆっくり動ける、という通常のモーターにない特性を持っています。瞬時にピントを合わせないといけないカメラのオートフォーカスのような動作だと、力を発揮しますね。
音エネルギー、中でも超音波の利用は、今後いっそう盛んになるでしょう。
研究室では、超音波を使った車の自動運転の実験を行っています。車の先端には、超音波センサーを取り付けています。センサーから超音波を出し、前方に障害物がないかどうか自動で感知するんです。障害物があると、超音波が跳ね返ってくる。そこで障害物までの距離を測り、自動でよけるわけです。この実験は学生にも人気ですね。ウチの研究室には機械好きが多いですから。
ただ、超音波を利用した機械を作るには、それを制御する複雑なプログラムが必要になります。学生には、単に機械をくみ上げるだけでなく、ソフト面も大いに勉強してもらいたいですね。
また、「何でも勝手にやってくれる」機械が必ずしも良いとは限りません。超音波センサーを搭載した車も、全自動にすることはできますよ。でもそれだと、「運転する楽しみ」を人から奪ってしまうことになる。そうではなく、運転をもっと快適にするためのサポート役として機能する方がいいんです。「人の気持ちを感じて上手にサポートしてくれる」機械が、これからはどんどん求められるのではないでしょうか。
私のゼミでは「超音波エネルギーの利用」とともに、「音の情報処理」が大きなテーマ。どちらも、同じくらいの数の学生が研究に取り組んでいます。
音はエネルギーであるとともに、情報でもあります。同じピアノの音でも「楽しそう」に聞こえることもあれば、「寂しげ」な場合もありますよね。時には「危ない」と感じるかもしれません。音色や強弱を変えることで、何かを伝えられるという意味で、音は間違いなく情報なんです。人間は音をどうとらえているのか、どういう種類の音が人を心地よくさせるのか...。これらを明らかにしたいと、ある音を聞いた時の人の脳波測定を行うなどして研究を広げています。
ゼミの学生には、アイディアを出す→設計する→図面を作成する→組立・加工する→動作を試す、というモノ作りの一連の手順を、全て主体的に経験させます。上手くいかない場合は、最初に戻ってやり直しです。この繰り返しが経験となり、知識となり、自信になっていくんですよ。卒業生は自動車関係に就職する者が多く、研究開発、生産技術の分野で活躍しています。
ゼミ取材 こぼれ話
楽器好きが高じて研究へ
楽器が好きです、という里信先生。今の研究に出会ったのも、高校時代にシンセサイザーなど電子楽器を通して、音とテクノロジーが融合していることに興味を持ったのがきっかけ。大学でも音の研究をしている先生に学び、音響工学・音のエネルギーを使う研究をし卒業研究もこのテーマだったとか。趣味の世界から研究の世界へ。「好きこそものの...」とはいうものの、研究を語る先生は楽しげでもありました。