©Hiroshima Institute of Technology. All Rights Reserved.

知能機械工学科

宇都宮 浩司

教員紹介

宇都宮 浩司UTSUNOMIYA Kohji

工学部 知能機械工学科 准教授

研究者情報

プロフィール

【専門分野】
○流体力学
○流体工学(流体機械工学)
○乱流工学・化学工学
【担当科目】
流体力学 、 機械流体工学 、 流れの力学 、 技術者倫理 、 自由デザイン 、 知能機械工学ゼミナール 、 社会実践 、 知能機械工学実験 、 エネルギー工学
【研究テーマ】
1.内部流れの抵抗損失の解明と機械の省エネルギ化
2.内部流れ(円管内乱流)の操縦・制御に関する研究
3.撹乱を受けた円管内乱流の非平衡挙動に関する研究
4.円管内乱流の発達過程の制御に関する研究
5.化学工学・環境工学、流体機械における内部流れに関する研究
【ひとこと】

広島工業大学は、工学の基礎を身につけるには、そして積極的に知識を増やし智慧を育むにはとても良いところと思います。興味本位では無く、生涯役に立つ、あるいは社会に貢献出来る、技術者としての基本を体得してください。鳥人間コンテストへの取り組みもその一環と考えています。
学生生活は長いようで短いですから、しっかりとした学力、特に基 礎学力を身につけることと、それを「ものつくり」へ展開できる実力を養うことが肝要と思います。是非、メカニカル・エンジニアの「卵」として、充実した日々を過ごしてください。
例えば「環境」や「エネルギ」など、最近・そして将来の技術の動向に興味を払ってください。特に機械の省エネルギ化、すなわち"地球に優しい機械"に大切な事は何かを考えてください。

研究紹介

宇都宮 浩司UTSUNOMIYA Kohji

工学部 知能機械工学科 准教授

生活、産業、防災まで。
私たちの日常は「流れの制御」と密接に関わっている
PROLOGUE

ゴルフボールの表⾯には、⼩さな凹み(ディンプル)がたくさんついています。なぜわざわざ凹みをつけるのでしょう?「あの凹みが空気の“流れ”を制御し、空気抵抗を減らします。だからゴルフボールは、真っ直ぐ遠くまで⾶ぶのです」と宇都宮先⽣は⾔います。野球でピッチャーが変化球を投げられるのも、ボールに⾼速回転を与えたり(カーブ、シュート)、無回転でボールの後ろに渦を作る(フォークボール、ナックルボール)など、流れをコントロールするおかげ。日常と密接に関連する⽔や空気の“流れ”には、まだまだ多くの謎が隠されています。

EVや航空機の航続距離の延長にも、プラントの省エネ化にも、“流体制御”が関連している

私たちは、⽔や空気といった「流体」の「流れ」を、さまざまな場⾯に利⽤しています。例えば、エアコンや洗濯機。エアコンは空気の流れを調節して室温を最適にします。洗濯機は⽔流を利⽤し、⾐服の汚れを落とします。各種の発電所も同様で、流体の流れを活用します。
飛行機やEV(電気自動車)の走行距離延長にも、流れの制御が関係しています。機体や車体の各所で発生する気流をコントロールして空気抵抗を減らし、空力特性を向上させたおかげで、飛行機の燃料消費量やEVの電気消費量が減り、長距離ドライブが可能となったのです。
SDGsに「安全な水とトイレを世界中に」という目標がありますが、上下水道の整備には流体制御の技術が欠かせません。また⼯場やプラントでは、生産設備をつなぐ配管の中を水や燃料、気体などが巡っています。発電所でも、⽕⼒などで作った蒸気の⼒でタービンを回し、電気を⽣み出しています。どれも流体がなければ、生産活動が成り立ちません。環境問題の中心は水と空気で、ポンプや送風機といった「流体機械」は産業や都市インフラで重要な役割を果たす、いわば「産業の心臓」であり、プラントやエンジニアリング、資源採掘で重要な要素である配管は「産業の血管」です。海底資源の採掘、CO₂削減、電力供給など、身近な問題にも流体力学は意識せずに重要な役割を果たす、いわば縁の下の力持ちです。
さらに、豪雨を起因とする土石流や河川の氾濫といった自然災害も増えています。これらの災害を防ぐには、河川の勢いをコントロールする流勢制御の知見が必要です。或いは大規模震災などで電力が逼迫したときに話題にでてくる「揚水発電」もまた、災害の影響の低減に重要な機械の施設ですが、ここでも流体の制御の知識が重要になります。
このように、生活、産業、そして防災といったあらゆる分野に「流体」が関わっているのです。この「流れ」や「乱流」の謎を解明しようと、私は研究を続けています。

配管内の内部流れのメカニズムを解明するために設置された装置。全長14mもあり、
この規模の実験装置を保有する大学は
そう多くありません

管路内の流れのメカニズム解明が、省エネやCO₂削減にも貢献

私が注目しているのは、流体機械内の流れや、プラントの配管やパイプラインといった管路の中を流れる『内部流れ』です。例えば、油⽥のパイプラインの場合。⽯油はポンプによってパイプラインに送り出されます。しかしそのままでは、⽯油とパイプ内壁が接する⾯で発生する摩擦抵抗により、流れが乱れ、⽯油がスムーズに進みません。ポンプを動かし続け、圧⼒をかけることで、ようやく目的地に到達するのです。⼯場・プラントの配管を通じて蒸気や各種液体を送る際にも、同様の抵抗が起きます。
仮に、そうした抵抗を1%減らせれば、ポンプに使⽤する膨大なエネルギーが削減できます。管路の『内部流れ』のメカニズムを解明し、制御法を確⽴することは、省エネの点でも⼤事なのです。これは⾝近にある交通機械やエアコンなど、⽇常使う機械の知能化・⾼機能化においても同様です。
また、管路内で早く安定した平衡状態の流れを作り出せれば、管路の短縮化が可能です。エアコンのような、中にいろんな管路を配置する機器の場合、管路の短縮分だけスペースを節約でき、⼩型・軽量化できます。エネルギーと部品の無駄を省くことができれば、CO₂の低減にもつながるでしょう。

測定に使用するセンサや機器も、
先生と学生が製作したもの。
計測法を考え出すことも、
学生にとっては勉強になります

「鳥人間コンテスト」にも挑戦。人力飛行機で大空を舞う

「流れ」は⼤きく分けて、乱れのない「層流」と、不規則で乱れのある「乱流」の2つがあります。ほんの微細な変動、例えば蝶が羽ばたいただけでも、周囲の空気には乱れが発生します。⾃然界の流れの⼤部分は乱流であり、もちろん管路の内部流れも、乱流が⽀配する世界です。
乱流は計算式で表すのが極めて困難で予測が難しく、とても厄介。『複雑系』と呼ばれる科学分野の典型です。メカニズムを明らかにするには、地道に実験を繰り返すしかありません。基礎研究では丹念で小さな努力の積み重ねが重要なのです。私は⼩さなリングを内部流れの中に挿⼊し、流れを積極的にかく乱することで流体を混合したり整流したりすると同時に、抵抗低減に結びつけられないか…という実験を⾏っています。そうして『乱流制御』に結びつけたいのです。
研究の傍ら、私はHIT Sky Project(広島工大 人力飛行機部)の顧問も務めています。学生たちと挑戦するのは琵琶湖で開催される「鳥人間コンテスト」です。流体力学・空気力学の知識を用いて、乱流をうまく制御しなければ、人力飛行機は遠くまで飛べません。学生の学びにとって、最良の題材・教材と言えるでしょう。元は自主デザイン工学という科目の1テーマからスタートして、2017年には滑空部門で、大会に初出場できました。今後も「百折不撓」を合い言葉に機体の製作・開発や改良を重ね、大会への再出場と記録更新を目指します。
「流れの制御」という課題は、⽣活・産業と密接に関わる、機械⼯学の基礎と⾔ってもいいでしょう。壮⼤なテーマだけに簡単ではありませんが、研究のしがいは⼗分にあります。

長い機体を全員で持ち上げ、出発点に搬入
最後まで微調整を繰り返し、
最善を尽くしました
そしてテイクオフ。
琵琶湖の空を22m、
滑空しました