うつのみや こうじ
宇都宮 浩司 Kohji Utsunomiya
工学部 知能機械工学科
准教授
出身:福岡県
turbulence@me.it-hiroshima.ac.jp
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私たちは、水や空気といった「流体」の「流れ」を、日常の様々な場面に利用しています。例えば、エアコンや洗濯機。エアコンは空気の流れを調節して室内を冷やしたり温めたりします。洗濯機は水流を利用し、衣服の汚れを落としています。
スポーツも「流れ」と密接に関係しています。ゴルフボールの表面の凹み(ディンプル)がそうですし、野球でピッチャーが投げる変化球も、ボールに高速回転を与えたり(カーブ、シュート)、反対に無回転でボールの後ろに渦を作ったり(フォークボール)して空気の流れをコントロールすることで、ボールが曲がったり落ちたりするのです。F1カーが時速300kmで走れるのも、車体を工夫(空気力学)して空気の流れを制御しているからです。
産業に目を向けると、ほぼ全ての工場やプラント設備で流れの制御が行われています。例えばボイラ。ボイラは熱によって蒸気という「流体」を作り、配管を通して様々な箇所に送っています。発電所では、火力や原子力によって蒸気を作り、その力でタービンを回して電気を生み出しています。もちろんこれ以外にも、多くの機械で空気や水の流れが大切になります。自動車や飛行機もその恩恵を受けています。
私たちの文明は、流体をうまく利用し、制御することで発展してきた、と言っても過言ではないでしょう。私はこの「流れ」の謎を解明し、制御する方法を見つけたいんです。
卒業記念の一枚。実験と分析に明け暮れる、中身の濃い1年を過ごしたゼミ生たち。
私が注目しているのは、プラントの配管やパイプラインといった管路の中を流れる『内部流れ』です。例えば油田のパイプラインの場合。石油はポンプによってパイプラインの中に送り出されます。しかしそのままでは、石油とパイプの内壁の接する面での摩擦抵抗により流れが乱れ、石油がスムーズに進みません。ポンプを動かし続け、圧力をかけることで、ようやく遠くの目的地に到達するのです。同様の抵抗は、工場でボイラを使い配管を通して蒸気を送る際にも、プラント設備で各種液体をパイプで送る際にも起きます。
仮に、そうした抵抗を1%でも減らすことができれば? ポンプに使用するエネルギーが削減でき、莫大な省エネ効果が得られます。管路における『内部流れ』のメカニズムを解明し、制御法を確立することは、省資源という観点からとても大事なのです。これは身近にある交通機械やエアコンなど、日常使う機械の知能化・高機能化でも同様です。
省エネ効果だけではありません。管路内で早く安定した平衡状態の流れを作り出せれば、それだけ管路の長さは短縮できます。エアコンのような、中にいろんな管路を配置する機器の場合、管路が短くなればその分だけスペースを節約でき、機器の小型化・軽量化にもつながるのです。
撹乱リング(中央の茶色のもの)を実験装置のパイプに装着。
「流れ」は大きく分けて、乱れのない「層流」と、不規則で乱れのある「乱流」の2つがあります。流れは、スピードが早くなったり障害にぶつかると、必ず不規則な動きになり、乱流となります。自然界に存在する大部分の流れは乱流。もちろん、管路の内部流れも、乱流が支配する世界です。
『乱流制御』が、私の研究テーマなのですが、実に厄介なんですよ。乱流の場合、計算式で表すのが極めて困難。ちょっとしたきっかけで、予想外の乱れを起こす。何が原因となって乱れが起こるのか、明確でないことも多い。だから予測が難しい。『複雑系』と呼ばれる科学分野の典型です。
乱流のメカニズムを明らかにするには、実験を繰り返すしかありません。私は小さなリングを内部流れの中に挿入し、流れを積極的にかく乱することで流体を混合したり整流したりすると同時に、抵抗低減に結びつけられないか...という実験を行っています。
「流れの制御」という課題は、私たちの生活や、産業のあらゆる分野と密接に関わるもの。機械工学の基礎と言ってもいいでしょう。それだけ壮大なテーマだけに、簡単ではありませんが、研究のしがいは十分にありますよ。
内部流れの実験の最中。良いデータが得られれば、機械の小型軽量化や高効率化、そして知能的な機械開発に繋がる。
ゼミ取材 こぼれ話
直径10cm、長さ約14mの円管を使った実験装置を用いて実験を行う、宇都宮先生とゼミの学生たち。計測に用いる『熱線流速計』も、先生らの自作によるもの。センサのタングステン線の長さはわずか3.1μm(受感長さ約0.8μm)で、この精度のセンサは機械ではとても造れない、と先生は言います。「実験自体はもちろんですが、そこに使用する機器を自作したり、計測法を考えたりすることも、学生にとっては良い勉強になります」。余談ですが、先生はこんな話も教えてくれました。「今から約2300年前の紀元前250年ごろ、アルキメデスは揚水ポンプを発明しました。『水の流れを制御する』ことから、人類の科学は始まったんです。そして産業革命でその科学が飛躍的に発展したのもまた流体工学のお陰です」。人類の文明は、まさに流れの制御と共に発達したのかもしれません。