広島工業大学

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情報工学科

安塚 周磨

教員紹介

安塚 周磨YASUZUKA Syuma

情報学部 情報工学科 教授

授業で利用する教育リソース

研究者情報

プロフィール

【専門分野】
○物性物理学(特に、超伝導や金属-絶縁体転移など)
【担当科目】
基礎力学A/B 、 基礎力学A演習 、 機械系の物理学実験 、 機械系の物理学
【研究テーマ】
1.異方的超伝導体の発現機構の解明
2.水素吸蔵合金の電子物性
3.強磁場、高圧力、極低温下における新規電子相の探索
【ひとこと】

物理学に限らず、「何を問題にしなければならないのか?」ということを常に意識しながら学んで欲しいですね。

研究紹介

安塚 周磨YASUZUKA Syuma

情報学部 情報工学科 教授

高温超伝導の実現に寄与し、エネルギーなど世界の諸問題を解決したい
PROLOGUE

現在、パソコンやスマートフォンといった通信機器だけでなく、テレビやエアコンなどの家電にもインターネットが接続できるIoT(モノのインターネット化)技術やAI技術が急速に進化しています。これらの技術の進歩を支えているのは主に半導体産業です。しかし、AI処理やビックデータ解析により情報処理量が急激に増加し、コンピュータの消費電力も増加すると予測されています。そのため、コンピュータの消費電力を低減するために注目されているのが超伝導技術です。超伝導回路は、配線の電気抵抗がゼロであり、電力消費がありません。また、量子化された磁束を情報の担体として使用し、高速で低消費電力の論理回路を作ることができます。しかし、超伝導は今のところ、限られた環境下でしか使うことができません。この超伝導のメカニズムを解明することで、様々な分野に生かせないか、と研究を続けているのが安塚先生です[1]。

超伝導の実用には、多くの課題が残されている

銅やアルミニウムなどの金属は室温で電気抵抗が有限なので、電流を流すためには電圧をかける必要があるため、電気エネルギーの一部が熱(ジュール熱)として失われてしまいます。「超伝導」とは、この電気抵抗がゼロになった状態のこと。電気抵抗がゼロなので、超伝導線で作ったコイルを作り、そのコイルにひとたび電流を流すと、電圧をかけることなく電流を永久に流し続けることができます。また、超伝導体の上に磁石を置くと、下に落ちず、重力に逆らうように浮かぶ、という現象も見られます。これを応用したのがリニアモーターカーです。超伝導を使うと、世の中の様々なものがもっと便利になり、また省エネにも貢献できると期待されているのです。
しかしこれには、まだ多くの課題があります。その一つが、物質を極低温まで冷やさないと超伝導状態にならないということです。絶対零度(-273.15℃)に近いほど超伝導は起こりやすくなるのですが、そのためには液体ヘリウム(沸点-269℃)が寒剤として必要になります。しかし液体ヘリウムは非常に高価で、管理に手間もかかるため、手軽に扱えません。1911年に初めて超伝導現象が発見されて以来、多くの科学者が「より高い温度で超伝導を示す物質はないか」、「より高い温度で超伝導を起こすメカニズムはどのようなものだろうか」ということに興味を持って研究してきました。私も高温超伝導の可能性を追及したいと考えているのです。

超伝導の実験装置。
右に見える2つの青色の実験装置は
ギフォード・マクマホン冷凍機と呼ばれ、
冷媒(ヘリウム)の断熱膨張を
繰り返すことによって、
測定試料を-270℃まで
冷却することができます。

水素化合物に高温超伝導のチャンスが眠っている?

超伝導の研究はどんどん進み、1986年以降、液体窒素温度以上で超伝導状態になる物質が次々に発見されました。沸点が-196℃の液体窒素は、液体ヘリウムと比較するとはるかに高温です。しかも安価で取り扱いやすい、という長所があります。
さらに2015年、約-70℃で超伝導になる、という研究成果が発表されました。対象となった物質は、硫化水素です。火山ガスなどに含まれるありふれた物質が、従来の超伝導物質よりも遥かに高温で超伝導状態になるというのは衝撃でした。ただし、150万気圧という途方もない圧力をかけないといけません。それでも、超伝導の実用化に一歩近づいた、と言えるでしょう。
水素化合物超伝導体への関心の起こりは、1968年に N. W. Ashcroftの発表した論文「Metallic Hydrogen: A High-Temperature Superconductor? 」に遡ります[2]。超伝導の仕組みを説明するBCS 理論によれば、超伝導を示す温度Tc は「デバイ温度」とよばれる量に比例します。このデバイ温度は固体を構成する原子の質量に反比例して高くなります。水素原子の質量は周期表上のどの元素よりも小さいことから、固体水素のデバイ温度は高くなり、金属水素の Tc は極めて高いものになるはずです。しかし、問題は水素を金属状態にすること自体が非常に困難なことでした。金属化に要求される圧力は極めて高いうえに、水素は試料室から容易に逃げてしまうので、水素を超高密度に圧縮すること自体が難しいのです。そこで、単体の水素よりも水素を豊富に含む水素化合物によって常圧もしくは比較的低い圧力において高温超伝導を実現するアイデアが注目されるようになりました。私も水素化合物の可能性は高いと考えており、水素吸蔵合金なども対象にしながら研究を続けています[3]。

実験装置に超伝導試料を
セットして冷却します。
室温から-270℃の極低温まで
様々な物質の電気的性質や磁気的性質を
調べることができます。

量子コンピュータ、核融合、ケーブルにも活用できる

超伝導の実用例として最初に挙げられるのは、MRI(磁気共鳴イメージング診断装置)でしょう。MRIでは強力な超伝導磁石が使用されており、X線では見えない骨の裏側や癌などを詳しく診断できます。
将来はさらに様々な分野への展開が期待されます。そのひとつが量子コンピュータです。量子コンピュータの研究開発は未だ実験レベルですが、2019年9月にGoogleの研究チームは超伝導回路を用いて53個の量子ビットを有する量子コンピュータを開発し、当時最高性能のスパコンで1万年かかるだろうと試算された計算を、わずか3分20秒で解いてしまいました。量子コンピュータ実現に向け、一歩一歩前進している事実は、新たなデジタル社会への期待を一層膨らませてくれます。
また、超伝導磁石は電気抵抗がゼロのために電磁石よりも大きな電流を流すことができ、より強力な磁場を発生させることができます。この特性を用いて核融合炉にも応用されています。核融合反応を起こすために1億℃の環境下で高温プラズマを作る必要があります。超伝導磁石で発生した強力な磁場は、核融合炉内において、この高温プラズマを空中に浮かせた状態で、しかも高密度に閉じ込めることができるため、炉壁と非接触で核融合反応を起こすことが可能となります。このように、超伝導磁石は炉内で核融合反応を起こすのに重要な役割を果たします。
超伝導ケーブルという構想もあります。電気抵抗がゼロの超伝導ケーブルなら、どんな遠くにも電力を損失させずに送れます。電気エネルギーの効率的活用ができるわけです。
これらを実現するためにも、さらに高温の、究極的には圧力や寒剤を一切必要としない常温超伝導を目指したいですね。研究を重ね、その目標に少しでも近づきたいと思います。

参考文献

  • [1] 研究室ホームページはこちら
  • [2] N. W. Ashcroft, Phys. Rev. Lett. 21, 1748 (1968).
  • [3] 水素吸蔵合金に関する研究例としては、S. Yasuzuka, N. Ogita, D. Anzai, and N. Hatakenaka: J. Phys. Soc. Jpn. 85, 123703 (2016).