自動車や飛行機のエンジン、や火力発電所の例からもわかるように、私たちの生活は「燃焼」と深く結びついています。ところが「燃焼」について、私たちはまだそれほどわかっているわけじゃないんです。
例えば、自動車のエンジン内で、どのような燃焼が起こっているのか調べるのは、とても大変です。金属で密閉された空間であるエンジンの中をのぞくことは、通常できませんから。一般的な自動車用エンジンは、動いているときの振動を調べ、内部で起こる燃焼の様子を判断しています。あるいは、燃焼が起こった後に出てくる排気を分析したりもしていますが、いずれにしろ、燃焼が起こっているところを実際に確認しているわけではなく、間接的な手法で調べるのです。
もちろん、振動の測定や排気の分析からでも、いろいろわかります。しかし、燃焼によって起こる炎そのものをとらえることができると、動いているエンジン内の燃焼状態がより正確に判ります。そうすれば、より的確で厳密なエンジン制御が可能になり、今以上に低燃費でクリーンなエンジンにすることができます。
そこで私は、新しい燃焼計測技術を開発し、自動車用エンジンの燃焼そのものを測定してやろう、と考えているのです。
エンジンのような密閉空間中で、燃料がどのように燃えているのかを調べる方法として、「強化ガラスのような透明な材料で特殊なエンジンを製作して中を見る」「圧力センサをつけて燃焼圧力を調べることで燃焼の様子を推定する」の2つが最もよく用いられています。ただ、どちらも特注のエンジンが必要なためコストがかかり、街中を走る普通の自動車が搭載できる燃焼計測方法ではありません。
高精度でしかも安くエンジン内の燃焼を計測できないか、と色々なアイデアが試されています。そんな中で私は、炎がごくわずかですが「電気を通す」という性質に注目しています。この性質は、古くから知られていました。ただし、炎を伝わるわずかな電流から炎の具体的な様子を調べるには、高速のデータ処理が必要なため、これまでこの性質を燃焼の測定に十分活用できていなかったのです。しかしエレクトロニクス技術の発達により、今ではデータを高速処理できる電子チップが安価に入手できるようになりました。
このような最新のエレクトロニクス技術を活用した測定器が完成すれば、自動車のエンジン内で起こる燃焼はもちろん、火力発電所や焼却炉などのモニタリング、燃焼基礎研究分野の新たな計測手法として活用できると期待しています。
なぜ私が、燃焼現象を解明したいのか? 根底には「エネルギー問題・環境問題の解決に貢献したい」という思いがあります。
燃焼にも「より良い燃焼」と「ムダの多い燃焼」があります。「ムダの多い燃焼」だと、石油や石炭などのエネルギーを余分に消費してしまいます。またこうした燃焼は、二酸化炭素など環境にダメージを与える有害な排出ガスを余分に生んでしまいます。
逆に「より良い燃焼」を実現すれば、同じ動力を得るために使用するエネルギー量を減らせます。また効率的に燃えるので、有害な排出ガスも少なくてすむ。つまり「より良い燃焼」は、省資源や環境負荷要因の低減につながります。そのためには、燃焼の仕組みを詳細に追究する必要があるわけです。
「燃焼」のメカニズムを知ることで、エネルギー問題や環境問題の解決に貢献する。私もゼミの学生も、全員がこの思いを抱き、研究を進めています。
ゼミ取材 こぼれ話
センサ組立や回路設計、処理プログラム作成、さらには燃焼を起こす実験装置の製作まで自分たちの手でやってしまおう、というのが八房先生の方針。「実験装置と言っても、テーブルに載る程度のコンパクトなサイズ。扱うのが『燃焼』なので、危険が伴わないように配慮しています」。先生は学生の頃から、研究や実験に使うものはたいてい自作していた、と言います。「その方がムダのないものが造れます。それに、自分で手を動かして造ってみると、計画的に物事を進めることの大切さや、製造にあたってどんな配慮が必要か、実感できるようになるんです」。その経験は、社会に出てから必ず役に立つはず、と先生は、ゼミの学生たちに実作の指導を行っています。