小黒 剛成

おぐろ よしなり

小黒 剛成 Yoshinari Oguro

環境学部 地球環境学科 教授
出身:栃木県宇都宮市(小山工業高等専門学校電気工学科卒)
yoguro@cc.it-hiroshima.ac.jp

タクラマカン砂漠の詳細な地図を作成するには?

お隣りの中国には、「タクラマカン砂漠」と「ゴビ砂漠」という2つの大きな砂漠があります。この2つの砂漠が、日本に到来する黄砂の主な発生源になっているのです。ところが、タクラマカンやゴビに関する詳細な地図がまだありません。中国にとっては国家機密に属する情報なので、国外に出してくれません。そこで私のゼミでは、人工衛星から送られる画像データを活用し、砂漠の様相を明らかにしようとしています。
活用するのはAQUAという衛星と、TERRAという衛星。これらは1周ごとに約20枚、地球全体で144枚の画像データを撮影します。この画像を合成すると、詳細な世界地図ができあがります。また、画像に写り込んだ影から高さを測定すると、立体的な三次元地図を作ることができるわけです。
言葉にすると簡単ですが、実際の作業は大変です。と言うのも、雲がジャマをするから。雲の下に隠れてしまった地点の詳細はわかりません。そこの情報を得るには、雲のない時間帯を狙わないといけない。1日分の144枚のデータだけでは、とても足りないのです。雲のない鮮明な地図を作るには、最低でも1ヵ月に渡って取得した合計4464枚の画像データが必要になります。

気象庁にも引けを取らない、精度の高い予測法

タクラマカンの画像をチェックしていると、ある時、もやのようなものが発生します。このもやが砂嵐。砂嵐の発生をキャッチしたら、次に温度を測定。AQUA、TERRAの衛星画像データには温度情報も含まれているので、それを利用します。通常、地表面に近い砂嵐は高温で、地表面から離れるほど温度は低くなる。つまり温度が測定できれば、砂嵐がどの程度の上空にあるかもわかる、ということです。
砂嵐がだいたい上空5km以上になると、日本にまで到達する。これが「黄砂」です。タクラマカンから日本に黄砂が到達するまで、3日と言われますから、タクラマカンをチェックしておけば、3日後に黄砂が発生するかどうか予測できるのです。日本の気象衛星「ひまわり」では、タクラマカンを撮影できません。しかし私たちのやり方なら、黄砂がいつくるか、また黄砂の量はどれほどか、もわかります。まさに「黄砂予報」ですね。
さらに、このやり方だと、東京に来るのか、広島ではどうなのか、といった詳細な到達地点の予測までできます。研究を重ねれば、精度はますます上がるでしょう。気象庁の予報にも引けはとりませんよ。

  • タクラマカンで発生した砂嵐

  • タクラマカンの三次元地図

研究を通して、チームワークや粘り強さ、柔軟な思考が身につく

ゼミの学生は2人1組となり、手分けして予測の仕組みづくりを担当してくれています。衛星画像データから世界地図を作成するチーム、タクラマカンの立体地図を作成するチーム、発生した砂嵐の温度を測定するチーム、砂嵐の進行方向を予測するチームなど、いずれも黄砂予測に欠かせないものばかり。1ヵ月で4000枚以上に及ぶデータを分析し、適切に処理するだけでも大変だと思います。
ただ、研究を通じた体得したやり方は、将来、様々な仕事の現場で応用が利くんです。全てチームで取り組むので、他の者に迷惑をかけてはいけないというチームワークが養われる。容量の重いデータを丁寧に取り扱う中で、粘り強さも身につく。データの活用法を考えていると、思考の柔軟性も生まれる。ゼミの出身者はいろんな分野で長く活躍していますが、それもこの研究に携わった成果と言えるのではないか、と自慢に思っています。
タクラマカンのことはおおよそわかりました。次のテーマはゴビ砂漠。衛星画像データを使って、地球環境の謎をもっと解明していきますよ。

ゼミ取材 こぼれ話
「地球環境学科は面白い分野でね。ここで研究する先生はほとんど、別分野からやってきたんです」と小黒先生。そういう先生も、もとは電気分野の出身です。電気の中で情報処理などを行っているうち、興味が『環境』に移り、今の研究を始めるようになったとのこと。「他に、理化学系出身の先生もいるし、建築系出身の方もいます。気象学を専門とされていた先生もいる。だから気象について知りたいことがあれば、すぐに聞きにいけるんです。これだけ多彩な出身の研究者が集まる分野は、地球環境学科くらいでしょう」。なるほど、いろんな分野の研究者が知恵を寄せ集めてこそ、『環境』に関する課題は解決できる。