田中 健路

たなか けんじ

田中 健路 Kenji Tanaka

環境学部 地球環境学科 教授
出身:福岡県北九州市(東筑高校)
k.tanaka.pb@it-hiroshima.ac.jp
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身近に起こる気象現象の解明を軸として様々な分野との融合を図る

気象学は大気に関する物理化学現象を科学的に解明することが中心ですが、そのための観測機器や数値計算などの工学技術、台風や集中豪雨などの気象災害から身を守るための技術、水資源・農作物・森林・自然生態系などの管理、感染症や熱中症などの医学系分野、商品のマーケティングや災害時の情報伝達や避難対応などの人文科学系分野など、あらゆる分野と深いつながりがあるのです。」と語るのは田中先生。気象学は非常に幅が広く、奥が深いですね。

気圧や風の変化によって津波のような現象が発生する――― 潮位副振動とは

今、取り組んでいる研究の一つに『気象が原因で発生する潮位副振動(気象津波)のメカニズム解明』というものがあります。国際的には meteotsunami (気象を表す meteo- と津波を合わせた言葉)が学術用語として浸透していますが、国内では潮位副振動という言葉が一般的に使われています。気圧や風の変化によって、外洋では、高さ数センチ、波長数10kmの非常に緩やかな海面の変化がおこり、それが地震によって起こる津波と同じメカニズムで沿岸に近づき、幅の狭い・細長い湾で最大2m~3mの大きな波と速い流れにより、低地の浸水や漁船の転覆・養殖いけすの破損などの被害をもたらします。
このような海面の変化を起こす気象状況は様々で、十分な体系化には至っていません。しかしながら、東シナ海を対象とした最近の研究では、中下層から湿った空気が持ち上がり、上空の乾いた空気が沈むことで大気の上下動が活発になる現象が、中国大陸側で発生し、それが東シナ海上を進むことが要因の一つとして挙げられています。
今後、更に研究を重ね、気象が原因で発生する潮位副振動(気象津波)の予測が可能になる日が近い将来訪れることでしょう。

観測機器からコンピュータを使った数値計算まで様々なツールを使いこなす

これまで、地球規模の気候システムに関する国際観測プロジェクトのメンバーとして、チベット高原上に観測用の塔を設置し、気象観測を行いました。チベット高原は、平均高度が約4,500mで、地表面が熱せられて周りの空気よりも暖かくなり、上空ではチベット高気圧が発生・発達します。チベット高原でのこのような気象現象が梅雨前線の発達など、アジア地域の気候の変化に大きな影響を与えます。
国際的な観測研究以外では、有明海の干潟上の熱環境や二酸化炭素の交換過程を超音波風速計や赤外線センサーを使って、大気の微小な揺らぎを測り、潮の満ち引きによる影響などを調べました。現在、広島県内では二酸化炭素の吸収・輸送に関する微気象観測が行われていないことから、今後、観測拠点を立ち上げられればと考えています。
台風や集中豪雨などの災害を伴う気象現象を知る上で、コンピュータによる数値計算にも取り組んでいます。複数のパソコンで分担し、並列計算を行うことで、雨雲の発達などの複雑で膨大なデータを伴う計算ができるようになります。2005年の台風14号宮崎県で発生した大雨は九州山地の地形によって2倍~3倍に増大したことが明らかとなっています。
このように私の研究は、地球規模から地域規模で気象の観測を行い、そのデータを使ってどのような力が働いているのかコンピュータなどで計算し、メカニズムを解明する、というもの。そこにとどまらず、解明された成果をどのように活用すれば、人々の役に立つか、までを考えていきます。目指すのは、気象学を軸に周辺分野との融合を進め、安心できる社会づくりに貢献することです。

チベット高原に設置した自動気象観測システム

住民と連携し、『水害に強いまちづくり』をサポート

ある地域で、水害リスクマネジメントシステムの構築と実践に取り組んでいます。局地的短時間大雨(通称「ゲリラ豪雨」)が頻繁に起こり、短時間のうちに狭い範囲に被害が発生・集中することが注目されています。そこで気象予報、水害情報収集・伝達システム、安否確認システム、避難計画、防災学習といった様々な手法により、様々な分野の専門家と地域住民が連携し、水害に強いまちづくりを目指したのです。システムは既に稼動しており、地域の安全を守るのに役立っています。広島でもこういった取り組みを手がけたいと考えています。
気象の制御は困難です。しかし、その姿を正しく理解すれば災害を軽減できます。ここでいろんな専門家を育て、安全な社会づくりに貢献していきたいですね。

ゼミ取材 こぼれ話
田中先生は研究者である一方、2008年には『防災士』、2009年には『気象予報士』の資格を取得しました。「防災士や気象予報士の資格取得を通じて、研究だけでは得られない幅広い視野を身に着けることができたと思っています」。この経験を活かし、先生は将来的に、広島工業大学でもこうした資格を取得できるように環境を整えていきたい、と考えています。「広工大で学んだ気象の知識が、社会で実践し認められる一つの形として、資格を取れるように指導していきたいです。それが、気象に関する理解を深めるきっかけにもなるでしょう」。いつか広島工業大学から多くの防災士や気象予報士が誕生することになるのかもしれません。