学内で開発した清酒酵母から、新たな純米吟醸酒「閧の鶴(ときのつる)」が完成

2018年09月27日

人はさまざまな食品を作る際に、自然に存在する微生物の力を利用しています。たとえばパンや味噌、お酒など。こういった発酵によってつくられる食品の研究も食品生命科学科では行っています。この食品生命科学科の先生が共同で研究を行っている発酵ものづくり研究センター(センター長:食品生命科学科 角川幸治先生)では、自然界の有用微生物を分離し、本学独自の微生物資源を構築すること、そしてそれらの微生物資源を産業利用に活かし、地域社会に貢献することを目指しています。
2016年には、キャンパス内に咲く花から分離した酵母を使用した純米酒「華の凛酒」を完成させました。
今回、当研究センターに所属する食品生命科学科の土屋義信先生が、学生と角川先生らの協力のもと開発した清酒酵母を使い純米吟醸酒「閧の鶴(ときのつる)」を完成させました。いったいどのようにして完成まで辿り着いたのか、土屋先生にお話を伺いしました。

出来たばかりの「閧の鶴」。中国醸造株式会社のご協力により130本製造されました。

出来たばかりの「閧の鶴」。中国醸造株式会社のご協力により130本製造されました。

ラベルデザインは、建築工学科の学生によって制作されました。瓶に貼り付けるとどんな風に仕上がるのか楽しみです。

ラベルデザインは、建築デザイン学科の学生によって制作されました。瓶に貼り付けるとどんな風に仕上がるのか楽しみです。

時代に合った清酒酵母を求めて
古くからお酒の産地として高い醸造技術を誇る広島では、吟醸酒製造に酸が穏やかで、華やかな香りを引き出すことのできる「熊本酵母」と呼ばれる清酒酵母を使用してきました。しかし、分離して広島に持ち帰った熊本酵母は、醸造をはじめてから20年以上が経過し、少しずつ変化が進み、明確な特徴が見いだせない状況になっています。そこで土屋先生は、広島県立総合技術研究所 食品工業技術センターや広島県酒造組合とともに、今の時代に合った熊本酵母の後継酵母を開発するべく研究に着手しました。

「原料米にもこだわり広島県産の千本錦を使いました。華やかな香りと後味のよさが特徴です」と土屋先生。

「原料米にもこだわり広島県産の千本錦を使いました。華やかな香りと後味のよさが特徴です」と土屋先生。

接合と選抜、分離を繰り返して辿り着いた優良清酒酵母
研究は3年前、2人の学生とともに始まりました。熊本酵母と別の清酒酵母をさまざまな組み合わせで接合させ、その中から有用な酵母を選抜し分離。その酵母をまた別の酵母と接合させ選抜し分離...これを繰り返し行い、日本酒製造に最適な清酒酵母の造成を目指します。「香り、成分、発酵力の強さなどを分析しながら、どの清酒酵母を選抜するかを決めることが難しい」と話す土屋先生。ゼミの学生と角川先生の協力を受けながら研究を進めていきました。そして昨年、先輩から引き継いだ酵母をもとに、松岡由輝恵さん(食品生命科学科2018年卒業)が優良な清酒酵母の造成に成功しました。

「閧の鶴」の清酒酵母の選抜作業を担当した松岡さん。

「閧の鶴」の清酒酵母を選抜させた松岡さん。

さらなる高みを目指して
地道な研究を重ね培ってきた清酒酵母の知識や技術は、次の学生へと受け継がれています。今回の清酒酵母の出来に満足することなく、現在も3人の学生がより優れた清酒酵母を生み出すべく研究を進めています。「良い清酒酵母をつくることを通して、共に研究する仲間のことを考え、思いやりのある行動をできるようになってほしい」と土屋先生。研究を通して人間的な成長にも期待を込めます。

「今後も研究を重ね、地域の財産となるような清酒酵母を1つでも多く開発していきたいですね」と土屋先生。

「今後も研究を重ね、地域の財産となるような清酒酵母を1つでも多く開発していきたいですね」と土屋先生。

「閧の鶴」は残念ながら商品化されませんが、学内行事などで振る舞うことを検討しています。土屋先生は「酒造メーカーの方からも高評価をいただいており、今後商品化できるお酒が誕生する可能性はある」と手応えを感じていました。広島工業大学から生まれた清酒酵母を使ったお酒が商品化され、皆様のもとにお届けできる日もそう遠くない未来かもしれません。