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建築工学科

岸本 貴博

教員紹介

岸本 貴博KISHIMOTO Takahiro

工学部 建築工学科 講師

研究者情報

プロフィール

【専門分野】
○構造計画
○構造設計
○構造デザイン
【担当科目】
建築構造設計概論
【研究テーマ】
1.構造形態創生に関する研究
2.構造形態最適化に関する研究
3.建築・歩道橋の構造デザインに関する研究
【ひとこと】

大学生活を通して「自分の生(活)きる道」を見つけ出してください。
その道を見つけることは容易ではありませんが、自ら思考し、表現し、行動し、多くの経験を積むことで見えてきます。

研究紹介

岸本 貴博KISHIMOTO Takahiro

工学部 建築工学科 講師

合理的に考え抜かれた建物の構造体は、
安全性に加えて美しさを兼ね備える
PROLOGUE

「建築設計」と一口に言いますが、その仕事は大きく3つのカテゴリーに分かれます。建物の外観や内部空間等のデザインを手がける「意匠設計」、上下水道やガスの配管、電気設備といった建物に欠かせないインフラを設計する「設備設計」、そして岸本先生が専門とする「構造設計」です。大学院で土木・建築両分野の構造デザインについて学んだ後、国立代々木競技場の構造設計を担当した構造家主催の構造設計事務所で修業をした、という経験を持つ先生は、構造デザインを探求することを目標としています。

「構造体は安全であれば見た目はどうでもいい」というわけではない

「構造設計」が担うのは、一言で言うと建物の安全性の確保です。意匠設計に基づいて建物の構造計算を行い、定めた構造体の妥当性を検証。柱・梁・床・壁などの部材断面のサイズなど決めていきます。地震など自然災害大国の日本において、建築敷地の環境や地盤を十分に理解した上で安全性を追求する構造エンジニアの役割は重要です。
基礎や骨組みなどの構造体は、建物が完成すると仕上げなどの裏に隠れてしまい、人々の眼に触れる機会はほとんどありません。そのため、構造体について「安全性が第一で、見た目は重視しない」と思う人もいるかもしれませんが、大きな誤解です。
例えば競走馬の姿を思い返してください。腿やお尻の筋肉は盛り上がりながら、足はスラリと細く長く、大変美しいプロポーションをしていますよね。体重500kg前後もある競走馬が時速70km程度で疾駆できるのは、極めて合理的に構成された骨格と筋肉の連動があるからです。この例から、合理性を突き詰めた先にある構造体は美しい、とも言えるでしょう。
これは建築物においても同様です。私は建築構造および構造物における「かたち」と「ちから」の相関性を研究し、合理的で美しい新たな構造形態を発想し、それを実現したいと考えています。

「かたち」と「ちから」の相関性を明らかにし、理想的な構造形態を生み出す

一般的な梁構造で考えてみます。梁構造の一ヶ所に荷重をかけた時、荷重がどのように伝わるかを計算するのは難しくないでしょう。しかし諸条件を変えると、力の伝わり方は変わります。私はさまざまな形態を対象として「かたち」と「ちから」の関係性を分析することで相関性を解明し、新たな構造形態を実現する方法論を構築することを目指しています。
「かたち」と「ちから」の関係性を十分に理解して具現化した建築物の一つとして、国立代々木競技場第一体育館を挙げることができます。あの独創的な建築物の屋根を構造設計したのが、私がかつて勤務した設計事務所の主宰だった川口衛先生です。意匠設計を担当した丹下健三先生の「日本の伝統的な大きな屋根を建築のモチーフにしたい」との思いを受け、繰り返し行った模型実験+構造計算を通して力の流れを把握してあるべき形態に至った、と聞いています。
無論、代々木競技場は特別なケースですが、建築に携わる者は本来、どんな規模の建築物であろうと、より合理的で、かつ、美しさを備えた構造体を実現するという姿勢で向き合うべきと考えます。建物の施主にとっては、自分の建てる物件すべてがオートクチュールであり、唯一無二なのですから。「どうせ仕上げで構造体が隠れるのだから美しさに頓着しても意味がない」と考えることは構造エンジニアとして間違った姿勢だと考えます。

学生と共に橋梁模型コンテストに参加。優秀賞(3位)を受賞

構造形態を探求するという点では、骨格がむき出しになる土木分野の構造体の方が学生にはわかりやすいと考えます。私はもともと土木出身なので、その強みも活かして学生を指導しています。
その一環として、2021年に神戸市主催の橋梁模型コンテストに学生と参加しました。模型コンテストの審査要件として、(1)模型強度:移動荷重20kgに耐えうる、(2)剛性(かたさ):荷重に対する変形量規定、(3)模型軽量化、(4)模型製作精度、そして(5)デザイン性でした。提案する橋の架橋地点は自由に選ぶことができたため、広島にとって最も大切な場所の一つである原爆ドーム、その近隣の相生橋の架橋地点を敷地と設定し、どのような橋がふさわしいかを検討しました。平和記念資料館があり、千羽鶴に彩られた原爆の子の像が佇むこのエリアの象徴として、鶴を選択。鶴が羽をひろげ、平和への思いを過去・現在・未来にわたって紡いでいく、というイメージをもとに、提案すべき橋の「かたち」と「ちから」の関係性について検討を重ねることで把握し、あるべき構造形態を固めました。
結果、参加12チーム中、3位に入賞し、学生たちは大喜び。この一連のチャレンジを通じ、構造デザインとはどういうものか、勉強できたと思います。
建築物を造るにはコストやスケジュールなどさまざまな要因が関わってくるため、常に理想を実現できるわけではありません。それでもやはり、学生時代にあるべき姿を学んでおくべきです。彼らとともに、建築構造および構造体における「かたち」と「ちから」の関係性を分析し、あるべき構造形態を追究していきたいと考えています。

学生らが作成した、新たな相生橋のデザイン。
鶴が羽を広げた姿をモチーフにしています