建築工学科
坂本 英輔
教員紹介
プロフィール
- 【専門分野】
- ○コンクリート工学
- 【担当科目】
- 建築材料学 、 建築材料実験 、 建築概論 、 総合建築工学 、 建築生産基礎 、 建築測量基礎 、 社会実践基礎 、 建築CAD
- 【研究テーマ】
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1.コンクリートの透水・脱水工法に関する研究
2.ポーラスコンクリートの品質及び耐久性に関する研究
3.ジオポリマーコンクリートの圧縮強度性状に関する研究
- 【ひとこと】
大学4年間の努力や苦労は、その先の素晴らしい人生の基礎となるでしょう。
研究紹介
坂本 英輔SAKAMOTO Eisuke
工学部 建築工学科 教授
水を通し、植物や生物を育てることもできる
“雷おこし”のようなコンクリート
PROLOGUE
雨の朝、水たまりを避けながら歩いたのに、ようやく学校に到着した頃には靴下までぐっしょり濡れていてもうウンザリ…なんて経験はありませんか? 私たちのそんな悩みを解消してくれるのが「ポーラスコンクリート」です。しかもこのコンクリートのチカラは水たまりの解消だけではありません。緑を育て、魚などの生物の住処にもなるなど、豊かな自然を生み出す材料としても注目を集めているのです。坂本先生は、ポーラスコンクリートをはじめとしたコンクリート材料をあらゆる角度から研究し、その可能性を探っています。
ポーラスコンクリートは、ゲリラ豪雨による水害対策や、環境保護に不可欠
ポーラスコンクリートは、つぶつぶの砂利がセメントペーストでくっついた状態になっていて、小さな隙間がたくさん空いています。ちょうど雷おこしのような形状をしています。
ポーラスコンクリートの特徴は、たくさんの隙間を活かし水を通せる、ということです。雨が降った時、従来は道路から排水溝へ水を誘導すれば済んでいました。しかし今はゲリラ豪雨が多く、排水溝があふれ返ってしまいます。そこで活躍するのがポーラスコンクリート。ポーラスコンクリートは、水を吸収し地面へ逃せるので、排水溝のあふれや道路の水没を防ぐ手段の一つになるのです。透水性という長所は、高速道路などでも発揮されています。水たまりは、安全走行の大敵ですからね。
また、ポーラスコンクリートに植物の種を付着させると、空隙を伝って根を張るため、コンクリートの表面を覆うように草花を茂らせることができます。さらに、空隙を大きくすれば魚などの生物の住処とすることも可能になり、道路や護岸などの工事で失われがちな自然の生態系を保護することができるのです。
固まる前のコンクリートから水分をしぼり出す「真空脱水処理工法」
コンクリート製造方法である「真空脱水処理工法」の研究も、私の主要なテーマの一つです。
「真空脱水処理工法」というのは、その名のとおりコンクリートを真空にして水分をしぼり出す工法のこと。コンクリートは砂や砂利、セメントや水などの原料を使います。施工すると、それぞれの比重が異なるため、最終的に砂や砂利は下に沈み、水が上に浮いてくるのです。コンクリートに余分な水分が残ると、水分が気化した後に空洞ができてもろくなってしまいます。そこで真空ポンプを用いて余計な水分を抜いておこう、というのが真空脱水処理工法。こうすれば、より強度の高いコンクリートを作れるのです。
従来の工法に比べてひと手間かかるため施工時のコストは上がりますが、耐久性に優れている分だけメンテナンス費用が削減できます。トータルで考えると、むしろ安くなるでしょう。今は、高度経済成長期に道路やトンネルの建設で使ったコンクリートが経年劣化し、剥落するなどの事故も起こっています。せめてこれから造るコンクリート建築物では、こうした問題を防ぎたい。真空脱水処理工法は、その解決策につながるかもしれません。
アイデア次第で可能性が広がるコンクリートの世界
ポーラスコンクリートも真空脱水処理工法も、コンクリートの可能性を大きく広げるものですが、まだ普及しているとは言えない状況です。実は、品質や性能を裏づけるデータが不足しているのです。
ポーラスコンクリートの場合、実験室の環境で作ったものと同じ強度を、建築の現場で再現できるのかという検証が十分ではありません。真空脱水処理工法についても同様で、水分を抜くことによってコンクリートの強度が増すことは分かっていますが、なぜ強度が上がるのかというメカニズムがいまだ解明されていないのです。そのため、どのくらいの量の水を抜けばどれほど耐久年数が増すのか、論理的に説明できないのです。
コンクリートはインフラ整備に使われる材料です。製品に要求される品質や性能を具体的な数値によって表せなければ、現場で安心して使用できません。しかし、そのハードルを乗り越えられれば、これまでの常識を超えたコンクリートの用途も生まれるでしょう。
コンクリートなどの材料研究に興味を持つ学生を増やすため、オリジナルのテキスト作りにも力を注いでいます。できるだけ写真などのビジュアルを活用し、実験のプロセスなどがイメージしやすくなるよう工夫しています。
既存の概念にとらわれない柔軟な発想で、コンクリートの世界はさらに面白くすることができると思います。