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環境土木工学科

石垣 衛

教員紹介

石垣 衛ISHIGAKI Mamoru

工学部 環境土木工学科 教授

研究者情報

プロフィール

【専門分野】
○海岸工学
○海洋開発
○生態系工学
【担当科目】
環境と土木 、 環境修復学 、 環境診断と評価 、 流域環境計画 、 環境流体工学 、 情報の科学A 、 総合ゼミナールA 、 計測の科学A 、 文献研究
【研究テーマ】
1.小型軽量潮流発電技術の開発と利用
2.閉鎖型二枚貝陸上中間育成技術の開発と利用
3.沿岸域の浅場環境再生技術の開発と評価
4.海域環境予測シミュレーション技術の開発
【ひとこと】

環境とは先人から与えられた貴重な財産であり、損なうことなく未来へ引き継ぐ義務があります。多様な価値観が存在するこの現代社会において、揺るぐことのない志を持ち、守るべきものを守りつつ、社会の発展に貢献できる人材を育てたいと思います。

研究紹介

石垣 衛ISHIGAKI Mamoru

工学部 環境土木工学科 教授

瀬戸内のアサリ資源量回復を目指し、陸上で養殖。
成育したアサリを干潟に戻して生態系を再生し、CO2削減にも貢献。
PROLOGUE

子どもの頃、潮干狩りに行き夢中でアサリを採った…なんて人もいるでしょう。このアサリが瀬戸内海からどんどん姿を消しています。海洋開発による埋め立てや、豪雨により大量の土砂を含む河川水が海に流れ込むことで、生息場が劣化しているからです。そこでアサリを守ろうと研究しているのが石垣先生。大手ゼネコンの(株)大林組と共同で、室内で稚貝を中間育成し、成貝となった後で海に戻す陸上養殖に取り組んでいます。しかも、この研究は海洋エネルギー技術と組み合わせることで、脱炭素社会の創出にも期待できるらしいのです。

海洋開発や気候変動がアサリの生育場にダメージを与えている。

近年、瀬戸内海に生息するアサリが激減しています。原因として、海洋開発によりアサリの生息場である浅海域が消失したことや、気候変動による生息環境の変化があげられます。環境再生のため人工干潟を造成したりもしていますが、豪雨が発生する度に大量の土砂を含む河川水が海に流入して干潟環境を改変したり、夏場に干潟表面の温度が上昇してアサリが死滅するなど、問題の解決に至っていません。アサリは通常、産卵後の幼生から稚貝~初期成貝~成貝へと約1年半で成長します。成貝まで成長すれば産卵期に再生産が可能となります。そこで、環境変動のストレスに弱い稚貝から初期成貝に成長する一時期だけ、陸上で保護してはどうかと考えました。初期成貝となれば、干潟環境の変化に対応できます。再生産が可能になる時期まで成長し、資源量の回復につながるはずです。

アサリ養殖プラント。
生存率は8割を達成しています。

アサリを陸上で一時的に養殖、初期成貝にした後で干潟に戻す。

私たちはキャンパス内に『アサリの中間育成プラント』を構築。試験的に陸上養殖を始めました。すると稚貝の8割程度を生き残らせることに成功。しかし、まだ生育が遅いという課題が残っています。自然界で稚貝は1ヶ月で2mm程度成長します。陸上養殖プラントでは研究によって1ヶ月1mmの安定成長まで実現しましたが、この速度では海に戻す時機が遅れます。1ヶ月2mmの成長を達成しようと、技術の改善を続けています。
一方で、私たちはアサリ陸上養殖とは別に、小型軽量潮流発電システムについての研究も行っています。これは、海の潮の流れ(潮流)を利用して発電を行う技術であり、発電時にCO2を一切発生させません。大小の島々が点在する瀬戸内海では海峡や瀬戸など潮流の速い場所が多く、この技術に適しています。小型軽量潮流発電装置でアサリ中間育成プラントに必要となる電力を全て賄うシステムの構築を考えています。

ブルーエコノミー技術として展開。人と海の関係を近づけ、インバウンドの起爆剤に。

昨今、浅海域の生態系によるCO2吸収を達成する『ブルーカーボン』が注目されています。浅海域の生態系の中でも、付着藻類や海藻・海草などは、陸上の森林と同等のCO2吸収能力があります。これをブルーカーボンと呼び、海の植林として2023年からの本格実施を目指し、政府も後押ししています。この機能をフルに発揮させるには、海中で光合成を行うための海域透明度の保全が欠かせません。アサリは干潟で植物プランクトンを捕食し、海域の透明度向上や有機堆積物(ヘドロ)削減に貢献します。私たちの研究でアサリの資源量が回復できれば、結果として海域におけるCO2固定効果を助けるわけです。
これを持続可能な仕組みにするには、海を有効活用した経済活動である『ブルーエコノミー』に組み込むことが重要です。養殖・観光・レジャー等の経済活動で活用を促進しつつ、浅海域を広げていく必要があるのです。例えば、『プライベートビーチを持つインバウンド向けの観光施設などに導入する』といった活用法を考えます。潮流発電を利用して陸で育てたアサリを放流し、潮干狩りを楽しんでもらうのです。生育段階でCO2削減に貢献したアサリなので、排出権付与サービスも実現できるかもしれません。昨今は炭素に価格をつけ、排出量を取引するといったカーボンプライシングの動きが世界で加速化しています。潮干狩りが楽しめて、排出権まで付与されるとなると、貴重な観光資源となる可能性があります。
アサリは潮干狩りなどの観光資源以外にも、子どもへの親しみやすさから環境教育の題材としても価値があります。人々に海と親しむ機会を与え、持続的な海の利用に貢献するために、今後も技術の研究開発を進めていきます。

プラント内で初期成貝のサイズまで
生育したら、海に戻します。
八幡川河口干潟でのアサリ放流実験
プラントで使用する電力を賄うための
小型潮流発電装置。